第6話 遠い記憶

 自分が4歳の時に、自分の父親が会社を倒産させて、あちこち親せき回りを巡回した。

 とりあえず、少し世話になるものだから、遠慮というかお構いなしに暴れるものだから、叔父に尻にお灸をすえられた。

 今だと考えられないが、その頃はお構いなしに子供を叱る時はそうしていた。

 今のご時世だと、児童虐待に当たるが、それが当たり前の世界だった。


 その叔父は名古屋在住でよく近所の洋食屋のランチを注文してくれた。


 エビフライにかけているソースが上手くて、お尻のお灸より、名古屋というと、そのソースの味を思い出す。添えられているトマトも昔のものだから、味が濃かった。スーパーで売られているトマトを食べながら、あの時のトマトが食べたくなる。


 後、その放浪の旅先で何処かの駅前の焼肉屋に入ったのを憶えている。


 その焼き肉屋はバスを改造したもので、中で炭焼きの焼肉を食わせてくれるのだが、そこで生センマイを初めて食べた。

 辛い酢味噌で味付けをしたものでコリコリしていて、そこで生センマイの味を憶えた。


 幼稚園に入る前だった。


 今の親だと衛生上の理屈をつけて、絶対しないような食事だろう。


 でも、時折、夢に見る駅はそこの駅で、そこ駅から何処かへ行く夢だ。


 あの駅は何処の駅だったのだろう。


 母親が生きている内に、聞きだしておけば良かった。

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