第26話「嬉しい事?の残りが、問題」

良い話のひとつとは、「予算はありき」らしいが、

25あるドラーゼ公爵家御用達の商会で自由に買い物が可能な事。


しかし、ロゼールが購入した商品をしっかりとチェックされ、

ベアトリスから『センス』を試されるという厳しい側面もあった。


ありとあらゆる好きなモノを買えと言われたが、諸刃の剣と言って良いだろう。


こちらは理解した。


もうひとつの良い話とは一体何だろう?


ロゼールは、しばし考えてピンと来た。


これまでにベアトリスが発したコメント、態度。

加えて、ロゼールとベアトリスが現在、居る『寝室』に関係がある話だろう。


つらつら考えていたら、案の定ベアトリスが尋ねて来る。


「うふふ、ロゼ、もうひとつの良い話って、分かる?」


ここでロゼールは確信をもって言う。


「はい、この寝室で眠れば、前ご当主様と、私もお話が出来るという事ですね?」


即座に返したロゼールの答えは、ズバリ、だったらしい。


ベアトリスは、驚きで美しい碧眼へきがんをまん丸にし……

呆気に取られていた。


そして笑いのツボに入ったらしく面白そうに笑いだす。


「あはははははははっ!! す、すっご~い! 何でわかっちゃうのぉ!」


「いや、ベアーテ様の7割を理解していれば、答えが出ます」


「うふふ、そうお?」


「はい、部屋をご案内するとおっしゃった際のコメント、そして私に亡霊を怖がるか念押しし、現在寝室に居りますから、分かりました……この寝室に、ベアーテ様のおっしゃっていた前ご当主様の亡霊がお出になるのですね?」


「ウフフ♡ ピンポーン! 大当たりぃ!」


相好を崩し話す、ベアトリスは本当に嬉しそうだ。


ベアトリスの性格、嗜好が見えて来る。


やはりベアトリスは限りなく聡明であり、頭の回転が異様に早い、

というか早すぎる。


だから性格的に相性が良く、同じく「打てば響く」ロゼールを気に入り、

父の公爵に頼み込み、引き取った。


逆にもしもロゼールが「打てば響く」女子ではない場合、見下すとまでは言わないが、軽んじ、敬遠するに違いない。

同じレベルの身分の者でも、胸襟を開かず、表面上の付き合いしかしない。


自分が出来る事をなぜ出来ないのか?

と疑問に思う部分が人間にはある。


個性とは人間の多様性ではあるが、自己のレベルと同じものを求める場合もある。


そのレベルに到達しない者を「愚かだ」とまで見たら、どうなるのだろう。


ベアトリスのレベルは限りなく高い。

そのベアトリスに仕えるのなら、己を磨き、もっと高めねばならない。


私は相当の負けず嫌い。

ベアーテ様の器の大きさに畏怖しながら、負けたくない気持ちの方が強い!


先ほど戦いの開始に燃えたばかりだというのに、

ロゼールは再び闘志を燃やしていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「うふふ、ロゼの言う通り、この寝室におじいさまの亡霊が出るの。ただし毎晩ではなく、たまにね」


「成る程、たまにですか」


「ええ、おじいさまは生前とてもお忙しかったから、天でもお忙しいと思ったら、違ったわ。私なんかを構いに来るんだから」


「きっと心残りでいらっしゃるんですよ」


補足しよう。


亡霊とは諸説あるが……

この世界では死して肉体から切り離された魂の残滓、かけらだと言われている。


魂の行きつく先はいくつかあるが、現世への未練、執着がある為、そのままとどまってしまっているという。


害のある者は悪霊あくりょう怨霊おんりょうと呼ばれる。


除霊、浄化は主に創世神教会の聖職者、司祭が破邪、葬送の魔法を使って行う。


ここでロゼールは疑問に思う。


最初にベアトリスから聞いた時は、ついスルーしてしまったが……


ドラーゼ公爵家ほどの上級貴族ならば、

金をかけて聖職者に除霊、浄化させるなどたやすいはずだ。


それを敢えてしないのは、先代当主の亡霊が害を及ぼさない。

否、メリットもあるからだろう。


となれば、自分がこの寝室で眠っても、驚くだけで害はない。


普通の女子なら、亡霊と聞いて震え上がるかもしれない。


しかしベアトリスに告げた通り、騎士隊で、

ゾンビ、亡霊などの不死者アンデッド退治をてがけたロゼールにとって、

害のない当主の亡霊など、全然平気だ。


但し、何事にも確認は大事である。


軽く息を吐き、ロゼールはベアトリスへ問いかける。


「ベアーテ様」


「何?」


「ぐーでぶたれるのは勘弁ですが、確認です」


「確認?」


「ベアーテ様がかよわい乙女というのは、じゅうじゅう認識しておりますが……」


「うんうん、私がかよわい乙女、宜しい! 100%その通りよ」


きっぱり言い切るベアトリス。


対して、ロゼールはしばし沈黙する。


「……………………」


「何よ、ロゼ! その意味もない沈黙は?」


「いや、絶句と言うか、一応意味はありますが……」


「やっぱり! ぶつよ! ぐ~で!」


「あはは、ご勘弁を、ベアーテ様! で、本題に戻ります」


「本題?」


「はい、前・ご当主様、確かグレゴワール・ドラーゼ様」


「ええ、グレゴワールおじいさまよ」


「ベアーテ様は亡霊は苦手だけど怖くない。苦手なのはグレゴワール様だからですね?」


「ええ、そうよ。私はかよわい乙女だけど、亡霊なんか怖くない。苦手なのはおじい様だから……」


「やはりそうですか……ちなみに、前当主様から、ご訓示でも賜ってらっしゃいますか?」


「ご訓示かあ。……うふふ、近いかも。おじいさまのお話のほとんどはお説教だから」


「お説教? 失礼ですが、どのような?」


「うふふ、ロゼがおじいさまに会って、話を聞けばよ~く分かるわ」


「前・ご当主様にお会いして話をお聞きすれば……ですか?」


「ええ、おじいさまに逢ったら、ベアーテに気に入られて引っ張られた。ドラーゼ家の為、頑張ります……と伝えれば良いわ。そうすればおじいさまのご機嫌は良くなり、話も弾むはずよ。うふふふふ♡」


ベアトリスはそう言うと、いたずらっぽく笑ったのである。

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