第4話 正義に憧れた歪みは、悪となり、人でもなくなった時、正義のヒーローとなり世界を救うと決めた
人は、新たな力を手に入れた。
それは、超能力と呼ばれるもの。
その超能力は多種多様なもので、系統という括りで似たよった力は存在するが、どれ一つとして同じものはない。
それは、突如として人々に与えられた。
後天的に覚醒する者、または、生まれた瞬間から先天的に持って生まれる者。
超能力を持つ者は、人々にそのまま超能力者と呼ばれた。
超能力者たちの出現により、世界に変革が起こるのは当たり前のことだった。
財力だけの力ではなく、軍事力や兵器という力が超能力者というあらたなステータスが必要ったのだ。
犯罪も、取り締まる側も変わる。仕事の価値も変わり、雇用の価値も変わる。あるいは、モテるかモテないかなどの部分も変わる。そう、人間の価値が更に変わる。
やがて、犯罪者の超能力者というのは大変に恐れられた。また、犯罪組織も生まれたのだ。
これに対抗すべく、国家行政機関により集められた超能力者達が生まれた。
公共の安全と秩序の維持を責務とする警察等と同等・・・・・・いや、それ以上。秩序の象徴。国は、目に見える平和の象徴が必要とされ、彼らは大々的な売り出しを行われた。もちろん、それに伴う成果を求めらたが、彼らは期待にこたえて見せた。
彼らは、人々にヒーローと呼ばれた。正義のヒーローと。
一人の少年は、そんな正義のヒーローに憧れた。
悪を打ち砕き、人々の憧れの、英雄に、勇者に。
そして、永遠に人々の胸に刻み込まれ、次のヒーロー達を育て、そのヒーロに自分の意志と夢と、そして希望を託す。そんな生涯を。
彼は、正義であろうとした。
結果、彼は悪者になった。
彼は、正義を貫いた。
結果、彼は疎まれた。
彼は、笑顔を絶やさなかった。
結果、彼は気味悪がられた。
だが、それでも彼は正義のヒーローであろうとした。
何故、憧れたのだろう。
それは、ただただ、かっこよかったから。
特撮に出てくるヒーローが。アニメに出てくるヒーローが。映画に出てくるヒーローが。
過去の英雄たちの神話に憧れた。人々を救った奇跡のような力に憧れた。
自分を引き立たせる何かを、引き寄せるその魅力と力に憧れた。その運命力に。
彼は、初めてヒーローに憧れた幼少期から、聞き分けの良いいい子だった。
何もかも可能な範囲で努力し、何もかも一定以上の結果を出し、人を見下さず、困っている人がいればすかさず助けに入る勇気ある人だった。
誰かのための自己犠牲もまた正義であると信じた。
泣き言は言わない。常に前向きに、ただひたすらに前向きに、前に前進し続けた。
気付けば彼は、真面目が服を着て歩いているような人間として、その生真面目さもそうだが、何よりも厚かましいほどの熱意。
彼は、努力した。
まずは、勉強をした。思考が大切だと感じたから。
次に、体を鍛えた。あらゆるスポーツを、格闘技に手を出した。自分の可能性を、多様性を広げるために。
だが、そんな彼がどれだけ努力しても手に入れられないものがあった。
【超能力】だ。
そう、彼は現代のヒーローに必要な超能力を持っていなかったのだ。
だから、彼はこれを求めたのだ。
超能力は後天的に備わることがある。そのケースは多い。ならば、自分にも可能性はあるはずだ、と。
平凡的な、ただ普通の人間として得られる能力において全てを誰もが優秀と呼べるレベルまで上げた彼が求めたのは・・・・・・超能力だった。
一般的に手に入る情報網を駆使して「後天的に超能力を手に入れる方法」を模索した。
だが、結果は見つからなかった。
正確には、実際に超能力を手に入れられる方法はなかったのだ。
当たり前のことだった。
だから、彼が次に手を出したのは「裏」である。つまりは、犯罪組織。
掴みは、服用することで超能力を手に入れられる確率が上がるという【クスリ】を知った時だった。
もちろん。彼は試した。だが、ただの薬でしかなく、なおかつ中毒性を感じさせるもの。そういうことだ。
彼は、その発想の着眼点に本物が実在するのではないかと踏んだ。つまりは大元。
彼は、薬を買った売人に会いに行き、もっと効果が高いものはないか、と問いかけ「あるよ」と笑う売人についていき、さらなる高額な薬を手に入れる。
何と、面白いことにこの高額なクスリには当然の中毒性があるが、加えて興奮剤も含まれていた。それも一時的な身体能力の向上・・・・・・正確には痛覚を鈍くさせ、脳のリミッターを一時的に解除し、本来の能力を解放させるものであった。
つまり、依存性は高いが、その脳のリミッターを外させるという部分は、ほぼ前例がないと言っていい薬物である。尚且つ前例があるものは禁制物。
そこで、「この薬を買うには、いささか金がない。なんでも雑用をする。力には自信がある」と言うと、雑用係、捨て駒はいくらいても困らないのだろう。すぐに売人は売人の上の人間に話をつけて、彼は犯罪組織に入った。
――いつか、お前達も滅ぼす。
仕事をいくつもこなし、能力に信頼を得ると、ある話を持ち込まれた。「お前は役に立つ。だが、超能力を持っていないんだってなぁ。どうだ?超能力が欲しくないか?」元締めのその言葉に、彼は二つ返事で頷いた。
ただし、ある書類にサインをさせられた。それは、組織に忠誠を誓うため、その全てを差し出すことだった。今更、他に手はない。ならば、この道を進む。
――歩む道のりで重ねる罪は、全て未来で還す。
元締めから、更なる上の人間を紹介された。「ふむ」「こいつはタフでさぁ。素質はあるかと」「まぁよい」目隠しと手足を縛られた状態でどこかに連れていかれる。
気づけば、どこかの施設の牢屋のような部屋に放り込まれていた。真っ白な壁と床に、ライトまでも白く眩しい。色がついているのは、鋼の分厚い鉄扉と、部屋の隅に置かれたベッドのみ。
大国に人間に人工的に超能力を加える実験施設だということを知る。
調べていたら、捕まり、実験台となった。いや、最初から実験体だったのだ。
酷い拷問の様な洗脳に、手術、味のしない流形の食べ物、ただただ白い部屋、うなされる悪夢。繰り返す。繰り返す。くりかえすくりかえすくりかえすうくるいけあせすくりかえすkるいかせ。
「誰か助けでくれ“!」
「誰か!ヒーロ“ー!」
「助げでくれ“よ!」
誰も助けになど来なかった。
彼は、どれくらいの時間。どれだけの年月をそこで過ごしただろう。ついに、彼は覚醒した。
ブジ覚醒する。だが、その能力は無理やり故に、世界が定めし能力ではなかった。人工的な能力でもなかった。そう、この世界は失敗作を、成功として生み出してしまった。
それは、食らった者の能力を手に入れる。
クライに食らう。超能力を持つものを喰らい続ける。
これは、喰らう相手が生きる者であれば、それが備える能力をいくらでも手に入れることができた。
それは、能力。容姿。遺伝子。性別。そして、超能力も。
あらゆるものを食べさせられた。
結果。最高の傑作として彼?彼女?人間?は生まれた。
そして、その結果。施設が瓦礫の山と化すのは当たり前のことだった。
私は、この力を手に入れて、何をしたかったのだろう。
ただ、平等に、人に、幸せになってほしかった。
誰も、理不尽な力によって抑えつけられるのを見たくなかった。
目立ちたかった。
ヒーローになりたかった。
ちやほやされたかった。
そんなしょうもない、理由。
きっと、何か意味があるのだと。
正義には意味があるのだと。
悪を倒すのが正しいのだと。
その行為に、意味があるのだと。
それを成せる力を持つ者に意味があるのだと。
では、私にはなかったのだろうか。
最初から、その様な力を持っていなかった私は、そのような資格も、
そして、この生にも意味はなかったのだろうか。
いいや、違う。
私が犠牲にしてきた者達に意味がなかったのか。いや、あった。
今の私が、持って生まれなかったものを、手に入れたことに意味があるはずだ。
その全てに、私は今、意味を持たせるのだ。これからの行動によって全てを―。
そう、最初に薬を売った人間は、大切な人を亡くした哀しみを紛らわせるために。
ならば、二度と大切な人が理不尽に奪われないよう、私が守ろう。
用心棒をしていた時に、薬をさばく売人を捕まえようとした正義に燃えた人がいた。
ならば、私も今一度、自身に正義を問おう。
実験場で喰らった同胞たち。
少女はお姫さまになるのが夢だった。
ならば、私は誰よりも輝く存在になろう。
少年は、見たことがない母と父が、温かい家族というものが欲しかった。
ならば、私は孤独に苦しむものにぬくもりを与えよう。
彼女は、世界を見て回りたかった。
ならば、私が世界を見よう。
彼は、ただ強くありたかった。
ならば、私が最強になろう。
彼は、ヒーローになりたかった―。
「私の歩んできた道は、積み重ねてきた罪は、これからの私の行動によって意味を持つ。だから、進もう。もう、二度と逃げたりはしない。絶対に」
【その心の声、魂の声、聞き届けたり】
突如、空から声が響く。いや、彼は空を見上げたが、能力故にそれが空から降ってきたわけではないかとは理解していた。だが、その存在が上に居たのは感知した。
「・・・・・・」
【そう警戒するな。愛すべき子。新たなる同志よ】
彼が見ている先の空に、蜃気楼のように歪みができると、やがて淡い光が現れ、人型になった。
「子?同志?」
【そう。私は貴方の兄であり、姉。兄弟であり姉妹。お前を愛する者】
「私は貴方を知らない」
彼は立ち上がると警戒し、感知、警戒能力を発動、更に上位に引き上げる。
【そう警戒しなくとも私は貴方の敵ではないし、また貴方の「悪」でもない。私は貴方を知っている。貴方は手に入れた。力を。意志を。魂を。生きる理由を。ようやく、手に入れたのだ。だけれど・・・・・・】
「だけれど?」
【君の力は、この小さい世界には過ぎたるものだ。大きすぎる。君の、その力でいかに善を行おうと、悪を行おうと、この世界は受け止めるだけの器を持たない】
「意味が・・・・・分からない」
【そうかな?過ぎたる力という意味ぐらいは、理解できるだろう?】
「だとしても、できることはあるはずだ」
【ああ、そうとも。君にできることがある。だけど、この世界ではない。もっと、大きな意味で、広い世界で、全ての為にその力を振るってほしいんだ】
「全て?」
【そう。君が生まれ育ったこの星や世界だけじゃない。この《世界》は数多とある。そこでは、様々な文化があり、様々な生き物、人々が生きている。だけど、その世界を喰らおうとする邪悪なる者たちが今、攻めてきているのだ】
「邪悪?」
光の人影は頷くと、右腕を上げ、手のひらを広げた。すると、そこに球体が浮かび上がると、彼の目の前までやってきて、複数に分裂した。
「これは―!?」
【セカイさ】
分裂した複数の球体には、様々な場所を、映像で写していた。いや、これが映像という言葉で収まるような現象ではないことは理解してたが、人類にはそう言い表すしかないだろう。
映し出された映像のどの場所にも――異形の怪物が居た。あらゆる生命を殺し、喰らい。あらゆる土地を汚染し、あらゆる星を破壊する。
だが、それは悪意など持っていない。それは、悪などではない――。
【そう。それは悪なんかじゃない。生まれ持ってそうあるべくして存在する邪悪。決して善ではない。だが、悪などとは生温い。まだこの世界にまでは手が伸びてはいない。だけど、その悪影響は出ている】
「悪影響?」
【そう。この世界の急激な超能力の出現。これは、おそらくこの世界が、神々がやがて来る邪悪に備えて、急ぎ人々に与えた力だ。だが、急すぎたのだ。この世界に生きる者達が、まだその力を正しく振るえるほどの時間が与えられておらぬのだ】
【だけど、君は違う。君だけは違った。君は、成長した。君は、変わった。だけど、速すぎたのだ。君は、この世界に生まれてくるには早すぎた。だけど、世界を救うのには間に合った】
「世界を、救う」
【そう。君の人生に、今までの行いに意味があるのだとしたら、意味を持たせるのだとしたら・・・・・・世界を救ってくれ。多くの命を。多くの幸せを。多くの夢を。多くの未来を、救ってほしい。その為に、君に犠牲になってほしい】
なんと残酷で、美しい言葉なのだろう。
彼は、意味、犠牲、未来、その単語のみを繰り返す。
「・・・・・・わかりました。世界を救えるなら。多くのものを守れるのなら。私のすべてを差し出します」
その応えを聞くとともに、光の人型は振動する。いや、空間が震える。
バッという音を上げる勢いで両手を広げる。
【ここに、新たなる救世主を世界に告げよう!偉大なる母に愛されし使徒、フォルライアーが祝福せし救世主の誕生を!】
人の魂を持ち、人の形をした何かと、光る人型が世界から消えた。残ったのは、大きな施設の残骸と、安らかに眠っているかのように見える、おびただしい数の死体だけだった。
世界と、人という歪みが生み出した「罪重ねし正義のヒーロー」が世界を救うための戦いが始まる。
オール・アナザー・ストーリー 世界狂傑救世物語 小鳥遊ちよび @Sakiri
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