DLC25 もう一人の――。

【第25話 もう一人の転生者】



 私の名前は吉野璃乃りの

 コンビニでレジ打ちのバイトをしている。

 そんな私にある日、とんでもない事件が起きた。

 なんと銀行強盗だった。


「へっへっへ、その綺麗な顔に、傷を刻んでやるぜ! そのくらいしねえと、俺の本気度が伝わらねえみたいだからよ!」


 強盗の持つ刃が、私の顔に突きつけられる。

 恐怖のあまり、身動きがとれない私。

 もっと早くに逃げることもできたかもしれない。

 しかし、深夜のコンビニに、いきなり現れた闖入者に、私はなすすべがなかった。


 そんなとき、誰かが私を助けようとしてくれた。

 

 ――ドン!


「…………!」


 なんとコンビニに唯一いた一人のお客さんが、強盗に向かってタックルをしたのだった。

 歳は私と同じくらいの青年で、どこか見覚えのある顔をしていた。

 髪や服はだらしない感じだけど、顔は整っていて、男らしい感じだった。


 そして、彼はこう叫んだ……。


「吉野さん! 逃げて……!」

「あ、あなたは……!?」


 どうしてこの人は私の名前を知っているのだろうか。

 そんな疑問が浮かぶ。

 あ……名札……か?

 いやしかし、さっきの合間に、そんなものを確認する時間なんてなかったはず……?

 とりあえず、そんなことはどうでもいいけれど……。


「いいから! 逃げて! 早く!」

「ありがとうございます……! 人を、呼んできます!」


 私は急いでレジを飛び越え、コンビニの外へ向かう。

 走りながら、携帯で警察を呼ぶことにする。

 その間も、私は彼の顔が頭から離れなかった。

 私を助けてくれた人……。

 彼はいったい何者なのだろうか。

 どこかで見たことがあるはずなんだけどな……。


「あ…………」


 警察に連絡をし終えたあたりで、私はあることを思い出す。

 笹川ハジメ――私の中学の同級生だ。

 そう、さっきの青年は、すっかり変わってしまっていたけれど、彼で間違いない。

 どことなく面影を感じて、既視感を覚えたのはそのせいだ。


「笹川くん…………っ!」


 まさか、あのかつての同級生が私を助けてくれたなんて……。

 今の今まで自分でもすっかり忘れていたけれど……。

 実は中学生のとき、一時期だけど彼のことを気になっていた時期もあったっけ。


「そんなことよりっ……」


 笹川くんが心配だ。

 一応警察は呼んだけれど、相手は刃物を持っている。

 それに、彼は身を挺して私を助けてくれたんだ。

 今度は私が彼を助ける番だ。


「誰か人を呼ばないと……」


 でも、こんな深夜に誰が頼れるだろうか……。

 とりあえず、大声を出して近所の人にアピールする。


「コンビニ強盗です……!!!! 助けてくださあい!!!!」


 それから……だめだ。

 このあたりには全然人がいない。

 なにか武器になるようなものがあればいいんだけど……。

 今私が戻って行っても、足手まといになるだけだし。


「あ……! あの……!」


 運よく、一台のバイクが通りがかる。

 どうやらちょうどコンビニに来る予定だったようだ。

 私はその人に話しかけるべく、物陰からコンビニの駐車場に出て行った。

 そして、それが間違いだったことに、数秒後に気づく。


「ひ、ひぃ…………!」

「あ、ちょっと……! 待ってください……!」


 バイクの男は、一目散に逃げてしまった。

 それもそのはず、ちょうどコンビニからは、さっきの銀行強盗が出てきていた。

 彼は刃物をもって、血まみれでそこに立っていた。


「ひぃ……!?」


 私は思わず振り向いて、目が合ってしまう。

 再び足がすくむ。

 けど、その血……どうやら銀行強盗から出ている血ではなさそうだ。

 それに、笹川君は……?

 どうなったの……?

 考えたくもない。

 だけど、ふと銀行強盗の足元に目をやると……。

 そこには血まみれの笹川くんがいた。

 彼は死にそうになりながらも、必死に銀行強盗の足首をつかんでいた。

 出血量からしても、もうすでに意識はないはずなのに。

 それでも、彼は銀行強盗の足を、逃がさないように必死につかんでいるのだ。

 銀行強盗は、足をうっとおしそうに引きずりながら、こちらに来ようとしている。


「逃げなきゃ……」


 せっかく笹川くんが命がけで助けようとしてくれたんだ。

 私がここで、死ぬわけにはいかない。

 彼が刺されたことは悲しいし、許せないけど……。

 今はとにかく逃げないと……!


 私は勢いよく、コンビニの駐車場を飛び出していた。

 とにかく怖かった。

 とにかく逃げたい思いで必死だった。

 しかし、そのせいで左右を見ることすら忘れてしまっていた。

 なんの不幸か、こんな夜中なのに、たまたまそのタイミングで車が飛び出してくるなんて。


「ああ……ごめん、笹川くん……。せっかく守ってもらったのに……」


 どうやら私は、どのみち今夜死ぬ運命らしかった。

 




 目覚めたとき、私は異世界にいた。

 そう、転生してしまっていたのだった。


「エルフ……っていうやつよね……これ」


 私は見目麗しいエルフの美少女に転生してしまっていた。

 そして、それから月日が経って……。


「笹川くんを……探さなきゃ……」


 私は彼を探す旅に出た。

 私を命がけで救おうとしてくれた彼。

 そんな彼に、申し訳ない。

 せっかく守ってくれたのに、死んでしまうなんて……。

 だけど、私はどうしても彼に会いたかった。

 そしてお礼を伝えたい。


「きっと彼も……この世界に来ているはず……!」


 確証はないけど、そう信じるしかなかった。

 だって、そうじゃなきゃ……残酷すぎるもの。

 そしてこの世界で、彼とやり直すんだ……!

 私は、彼を幸せにしてみせる……!

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