DLC26 訪問者
俺たちの生活もだいぶ安定してきた。
現代製品を使ったスローライフは快適そのものだ。
そんなある日、不審な物音に目が覚める。
「誰だ……!?」
俺は急いで外に出て、侵入者の背後に回り込む。
俺にかかれば一瞬の出来事だった。
「あ、あの……怪しいものではありません……!」
「いや……バリバリ怪しいが……」
夜中に家の外でガサゴソとやってきて、それで怪しいものではありませんと言われても、説得力皆無だ。
「とりあえず……話を聞こうか」
俺はその人を家に上げて、話を聞くことにした。
いざとなれば俺が取り押さえることは容易だし、それになにより……。
「かわいい…………」
「へぇ…………!?」
訪問してきたその人物は、なんともかわいらしいエルフの美少女だった。
俺もこの異世界に来てから何度かエルフ族は目にしたことがあるが、こんなかわいらしいエルフは初めてだった。
まさに誰もが想像する理想のエルフといった感じで、髪も透き通るような薄いブロンドだ。
「それで、エルフのお嬢さんがなんの用なんだ……」
俺はみんなを起こさないように、小声で話した。
なにせこんなかわいい子を夜な夜な連れ込んでいるところを、ほかのメンバーにみられると厄介だ。
まあ、俺もどうこうしようという気はないが……それでもなぜか後ろめたい。
「あの……実は私、人を探していて……」
「人探し……? といっても、ここは探偵事務所ではないのだが?」
「ええ、わかっています。実はここを訪れたのには……理由がありまして……」
そういうと、彼女は家の中のものをおもむろに物色し始めた。
「あ、おい……」
「ふむふむ……これは薄型テレビに……これは冷蔵庫ですね……。いったいどうしてこんなものがこの世界に……」
などと、彼女は現代製品を知り尽くしたように、操作していく。
まさかとは思うが……彼女も転生者なのだろうか。
だとしたら……。
「ど、どういうことなんだ……どうしてエルフのあんたがそんなことを知っているんだ……!?」
「あ、申し遅れました。私、エルフのリィノと申します。あなた……笹川さん……ですよね?」
「な……!? ど、どうして俺の前世での名前を……!?」
「やっぱり……! いやぁ、すごく探したんですからね……! この現代製品の情報からなんとか見つけ出すことができましたよ……」
ど、どういうことなのか、頭がパニックでついていけない。
彼女は俺の名前を知っている。
ということは、転生者で間違いないのだろうが……。
それで、俺を探していたって……!?
名前は確か……リィノとか言ったっけ……。
「ま、まさか……!?」
「そうです。笹川ハジメさん。私は吉野
「な……なんだって……!?!?!??!」
もう頭が混乱しすぎて、マジではきそうだった。
あの吉野さんが……このエルフだと……!?
「っていうことは……お、俺は……救えなかったのか……!?」
状況を理解して、俺は絶望の表情を浮かべる。
俺がしたことは……無駄だったのか?
吉野さんを救えたと思っていたのに、俺は……。
「くそ…………! くそ…………! あの強盗め……! 絶対に許せない……!」
俺は激しく後悔に襲われる。
俺が吉野さんを救ったと思っていたのは、ぜんぶ自己満足だったってことか!?
しかし、目の前のエルフさん、リィノさんはそれを否定した。
「違うの……! 笹川くんはなにも悪くない……! 私は強盗からは助かった……! そのあとに死んでしまったのは……別の理由なの……。だから、自分を責めないで……」
「だけど…………!」
吉野さんが死んでしまったことは間違いない。
俺は、それだけは避けたかったというのに……。
とりあえず、落ち着いた俺は、リィノさん――吉野さんからなにがあったのかを、すべて聞いた。
「そうか……そんなことがあったのか……」
「でも、大丈夫だから! 私、今この世界で幸せだから」
「でも……!」
「それに、私がここにきたのは、笹川くんに感謝を伝えるためなの……!」
「え……でも、俺はなにも……」
「そんなことないよ! 笹川くんの気持ち、とっても嬉しかった。それに、とっても勇敢で、かっこよかった」
まあ、俺はなにもできずに死んだわけだけどな……。
ほんと、好きな女の子一人救えずに、情けないよ。
でも、彼女はそんな俺に、礼をわざわざ言いに来てくれたんだな……。
「あ、っていうか……そもそもなんで俺が笹川だってわかったんだ……!?」
「え…………? そ、それは……」
「だって、中学以来全然会ってないだろ!? それに、あのコンビニでの俺は、かなり風貌も変わっていた……。それなのに……」
「そ、それを言ったらそっちだって……。私が吉野だって、すぐに気づいたじゃない……!」
そ、それは……。
それは、俺がもともと吉野さんを好きで、ずっと意識していたからだ。
でも、吉野さんからしたら、俺なんかモブでしかなかったはずだ。
いや、もしかしたら……違うのか?
「もう、言わせないでよ……」
「え…………?」
「私、笹川くんのことが……」
「吉野…………?」
お互いに、転生して見た目も名前も変わっているというのに、俺たちはなぜか強く惹かれあった。
そして、そのままどちらからともなく、唇を重ねる。
前世では考えられなかったことだ。
陰キャの俺が、吉野さんと釣り合うはずないと思っていたからな……。
それに、同窓会とかも全然いかなかったし……。
でも、今の俺は自分に自信もあって、なぜか自然にエルフ美少女の前でもリードできた。
「笹川くん……ん…………」
「吉野……吉野……」
「璃乃って呼んで」
「璃乃……」
俺たちはそのまま、リビングで朝を迎えた。
ふかふかの高級ソファーもあるから、快適だった。
そして……朝、ルミナたちが起きてきて、俺たちを見つける。
「ど、どどどどドルク……!? そのエルフさん……誰……なのかな……!?」
「にゃあ……二人とも……裸なのにゃ」
「ドルク……どういうことか、説明してもらおうか……? ルミナさまや、私たちというものがありながら……」
三者三葉の反応を見せる。
あーもう、どうにでもなれといった感じだ。
さすがにこの状況を一から説明するのは、面倒だ。
「あー、えーっと……そのぉ…………」
俺が困り果てていると、吉野さん、もといリィノが口を開いた。
「私、エルフのリィノと言います! みなさん、ドルクさんのお嫁さんですね? 私も今日からこの家に住むので、よろしくお願いします!」
「…………って、ええ……!? 吉野さん……じゃなかった。リィノもこの家に住むの……!?」
「当たりまえでしょ! 私はそのために、あなたを探してきたんだから……! せっかく二人とも、あたらしくこの世界に転生してきたんだし、ここは切り替えて、一緒に楽しみましょう? 私が精いっぱい、あなたを幸せにしてみせるわ……!」
「は、はい…………」
俺はどう反応したらいいのだろうか……。
吉野さんって、こういうキャラだったっけ……。
エルフの体に転生して、この数年で性格もかなり変わっているようだ。
まあ、それは俺も同じだけど……。
前世の俺と、今の俺はぜんぜん違うところも多いわけだし。
それにしても、俺を幸せにか……。
俺も、前世で守り切れなかった分、今回は絶対にリィノを守りたい。
そしてもちろん、ルミナたちも……。
「って……ルミナ……さん……?」
「ドルク……! もっとちゃんと説明してよねぇ……!」
「は、はいぃいい!」
どうやら今日は、これから大変そうだ。
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