魍魎話9 GHOST
新作入荷!!
【街は嘆き…街は鳴き…そして光を失った】
著者 カムイ瑠海人
結構大きめな書店…
その店頭を飾るPOPの下にはそう書かれた書籍が山積みされワンコーナーを独占していた。
その山を一人の青年が悲しそうな表情を浮かべながら見つめている。
それは厚い雲が空を覆う午後三時…
そんな彼の身体を癒やすように振り始めた粉雪がマフラーで隠れるその肩にそっとのっていた。
その後暫くその場で立ちすくんでいた青年は一度ゆっくりと瞬きををすると、一歩二歩と後退りし、そしてそのまま人混みの中に消えて行ったのだった…
風景は変わり、ここ《喫茶 夜魅(YOMI)》
大都会では珍しく何の植物か解らない蔓(つる)が二階建て煉瓦造りの店を覆い尽くす…
一見ノスタルジックな雰囲気を珈琲の香りと共にかもし出すこの店に、先程迄本屋で立ちすくんでいた青年が来店していた。
カウンター席に座るその青年は、マスターである菜綱が出した紅茶の香りを楽しみながら、時折振り返っては粉雪が舞う外の景色を眺めていたのだった。
「どう…見てきたの?」
「うん…ちゃんと並んでた」
男性にも関わらず少女の様な声…
不意にマスターから声をかけらそっちに向き直る青年は、寂しそうな笑顔をしながらそう答えていた。
「ねぇ菜綱さん…先生…喜んでるくれてるかな?」
「それは解らないわ、でも…もう悔やんではいないんじゃないかしら」
「そうよね…きっとそうに決まってる…よね…」
菜綱の答えに青年は満足したのか、紅茶を飲み干すとシナモンスティックを咥えながら立ち上がった。
「菜綱さん…迷惑かけてごめん…じゃ行ってくるね」
「ええ、行ってらっしゃい♪」
青年は深々と菜綱に頭を下げると、菜綱に見送られながら店を出ていったのだった。
その次の日…
ある街外れにある古ぼけた喫茶店…
ここは普段暴走族の溜まり場となっている店である。
だが今日は、族車の他に多数のパトカーと救急車、それに大勢の私服刑事、警官、鑑識や救急隊員が押しかけていたのだった。
喫茶店の中を覗くと、そこには無惨にも八つ裂きにされた大勢の死体が転がっている。
よく見ると総て暴走族のメンバー達だ。
後から足早に駆けつけた刑事達もその惨状を見て表情を歪めていた。
すると…
「あ、先輩!ちょっといいですか!?」
「ん、どうした小泉!なんか出たのか?」
先に現場に駆けつけていた若い刑事が、後から来た無精髭の先輩刑事に何かを確認してもらおうと大声でそう叫んだ。
その声に駆けつけた刑事が見たもの…
それは…
「おい…この仏さん…」
「はい、一昨日検視解剖中にこつ然と消えた例の被害者で間違いありません」
「そんなこたぁー見りゃ解んだよ!じゃなくて何でこんな所にいるかだ!!」
顎髭を掻きながら若い刑事を怒鳴るその先輩刑事は、この不可思議な現実に頭を抱えていた。
その一昨日おきた事件…
それは…
深夜コンビニに買い物に来ていた若い男性が、帰宅途中近くの路上で死亡しているのをタクシー運転手が発見。
当時、付近で暴走族の集会もあっていた事から事件性も考えられ、被害者は検視解剖にかけられる事になったのだった。
だが確かに解剖室に運ばれたその被害者は、監察医が到着する前にこつ然と解剖室から消えてしまったのである。
「小泉…仏さんは確か作家だったよな」
「ハイ、最近デビューしたミステリー作家です」
そんな事を確認しながら何故か両手を血で染めたその死体の顔を除きこむ先輩刑事。
よく見るとそれは前日あの喫茶店で紅茶を飲んでいた青年の顔だったのである!
しかも死後2日も経つその顔は、とてもそんなに時間が経過しているとは思えない程赤みを帯びていた。
そしてその傍らには…
「何で猫の死骸が転がってんだ?」
そこには尻尾が3つに分かれている美しい黒猫が彼に寄り添う様に死んでいたのだった。
その光景にふと荒唐無稽な想像を巡らせる先輩刑事…
『まさかな……』
そんな言葉を飲み込みながらその刑事はゆっくりと手を合わせるのであった……
その頃 《喫茶 夜魅(YOMI)》のマスターである菜綱は…
「ウフ♪ごちそうさま♪♪」
不意にコーヒーカップを磨く手を止め、外の景色を見ながらそう呟いていた……
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