魍魎話4 菜綱
喫茶 夜魅(YOMI)
大都会では珍しく何の植物か解らない蔓(つる)が二階建て煉瓦造りの店を覆い尽くす…
一見ノスタルジックな雰囲気を珈琲の香りと共にかもし出すこの店の女マスター宛に、送り主不明の宅配便が送られてきた。
「《琥珀 菜綱様》 こちらに受け取りのサインをお願いします」
「ハイ」
彼女は宅配員の言う通り受け取り用紙にサインをした。
「確かに、では失礼し……」
「ちょっと待って」
キチンとサインを確認した宅配員は、次の配達に向かおうと店を出ようとしたのだが、直前に彼女に呼び止められた。
「もうお昼も過ぎた事だし…良かったらここで食べていかない?」
「え?………そうですね…そうします」
妖艶なマスターの申し出に男心をくすぐられた宅配員は、喜んで彼女にエスコートされカウンター席に座った。
「貴方運が良いわよ~丁度新鮮なレバーが手に入ったからパテにしたの♪焼いたバケットに塗って食べたら美味しいわよ~」
「へ~じゃ、ボンゴレとそれをセットでお願いします♪」
「ハイ♪食後はコーヒーでいいかしら?」
「それホットでお願いします」
少し肌寒くなった季節…
宅配員はそうリクエストした途端急に腹の虫がなった。
その音を彼女に聞かれてないか気になりつつ料理が出るのを待ちわびたのだった。
焼けるオリーブオイルの香りと白ワインで蒸されたアサリの香りが堪らなく食欲をそそる…
そこに濃厚なバターの香りと交ざりあった香辛料とレバーの香りが鼻をくすぐっていた。
だが、待ちきれない感情を押し殺しながら、彼はじっと我慢するしかない…
それから約10数分後…
「お待たせしました、ボンゴレとバケットのセットです♪」
目の前に並べられた料理を見た途端、宅配員は押し殺していた感情を解き放った!
「美味しい!!」
彼はそれしか感想が浮かばなかった♪
《兎に角旨い!いや旨過ぎる!!》
特に軽く焼いたバケットに塗って食べるレバーのパテが旨かった!
程よい香辛料とバター、そこに隠し味で醤油が使われている。
ニンニクも少し入っているのだろう…
だが気になる程ではない。
「気に入ってくれた様ね、良かったわ♪」
宅配員は瞬く間に出された料理を平らげた。
食後のコーヒーはおかわりまでしている。
そして…
「ご馳走さまでした♪」
「綺麗に食べてくれたのね、嬉しいわ♪」
彼は満足しきった顔を彼女に向けて頷いていた。
「セット価格でいいから1580円ね」
「ハイじゃ丁度で♪」
小銭ばかりだったのが少し恥ずかしかった宅配員なのだが、彼女は笑顔で受け取った。
「じゃ」
「ありがとうございました♪」
彼は最後まで笑顔を絶やさず店を出て、宅配車両に乗り込むと、ゆっくり車を発進させた。
その直後である…
「う!な、な……!」
宅配員は口から血を吹き出しながら近くの電柱に勢いよく突っ込んで行ったのだった!
その光景を確認しながら《琥珀 菜綱》と呼ばれたその妖艶な女マスターは、美しい銀髪をなびかせながら、彼が渡した送り主不明の宅配便の封を開けた。
するとそこには…
綺麗なビー玉が三個と真新しい鮮血がこびりついた女の子用の小さなバッグが入っていた…
そしてそのバッグの上には…
【お姉ちゃんありがとう】
そう書かれた便せんが小さく折られて入っていたのだった……
それを見た彼女は少し微笑みながらは箱の蓋を閉じると、静かに店の奥へと消えて行く…
それに呼応するかの様に店内の灯りが消えていくのであった……
次の日…
朝一番で様々なメディアが報道した。
【《連続幼児誘拐事件》重要参考人死亡】
【《怪奇!》容疑者の心臓と肝臓は何処へ?】
【胃袋の中から容疑者の内蔵と見られる未消化の食べ物?】
【自殺?深まる謎!捜査本部も困惑!】
等々…
その話題で持ちきりになっていた。
後日…
彼の自宅から直線で約150km離れたとある廃村…
警察による容疑者の足取り捜査の結果、その村にある一件空き家の床下から、誘拐された幼児の腐乱死体が五体発見された。
そして近くに転がっていたスコップからは被害者の血痕と容疑者の指紋が検出されたのだった…
それともうひとつ…
彼の胃の中の内容物には確かに本人のものと見られる未消化の心臓と肝臓の一部が発見されたのであった…
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