魍魎話2 故郷納税
喫茶 夜魅(YOMI)
大都会では珍しく何の植物か解らない蔓(つる)が二階建て煉瓦造りの店を覆い尽くす…
一見ノスタルジックな雰囲気を珈琲の香りと共にかもし出すこの店に、今日はこの場に似つかわしくない集団が居座っていた。
厳(いか)ついてチャラい格好をしているその集団の眼差しは、冷たく濁り渇いている。
時折ヘラヘラとした微笑みで、カウンターでコーヒーを入れる妖艶な色香を滲ませるマスターや、まだ高校生なのか幼さが残るウェイトレスを値踏みするかの様に卑下した感じで値踏みしていた。
「なぁ~言った通りだろ~♪」
「マジたまんねぇ~な♪」
「何時もみたいにヤク漬にして壊れるまでやりまくるってか♪」
「ダブルで?お前てっば鬼畜~(笑)♪」
「てめぇ囀(さえ)ずるんじゃねえよ♪それよりネズ先輩遅くねぇか?」
「あ~何でも撮影会やってるらしいぜ」
「朝からかよ(笑)じゃ~今日は二本撮りかもな」
「え!俺ら男優すんの?イヤ~ン♪」
会話は殺しつつも、恥ずかしげもなくゲスな笑いを店内に響かせるこの男達…
最近この界隈でやりたい放題の無頼を働く不良集団である。
既に一線を越えた者ばかりの集まりで後ろ楯もいるらしい。
「ねぇ~お姉様、もう納税は済みました?」
そんな集団を気にもせず、ウェイトレスの女の子は納税の話をし始めた。
まだ若いのに税の話とはしっかりしている。
「オイオイ《お姉様》だってよ~♪」
「何だ、もしかして男知らねぇのか?」
「あれか!レズってやつか?ますますたまんねぇ~な~♪」
益々ゲスな臭いを漂わせる男達…
そこへ一組の怪しげな集団が店内へ入って来た。
「お、先輩だぜ♪」
「よう!てめぇら待たせたな」
どうやら先程名前が上がっていたネズ先輩らしい。
高そうなスーツを着こなし《いかにも》といった様な出で立ちで現れた。
だがそんな事等気にもせずマスターはウェイトレスにこう言った。
「今からよ♪」
と…
《いらっしゃいませ》の一言も言わず、そんなセリフを言った途端、店内は真っ暗になった!
昼間にも関わらず突然…
一瞬で漆黒の闇の様な暗さがこの場にいる連中を包み込んだのだ!
「「「!!!」」」
「な、何じゃこりゃ?!」
すると動揺する男達を他所に何処からともなく、あのマスターとウェイトレスの声が闇の中から優しく響いてきた。
「今回は数が多いから、貴女の分も払ってあげるわね」
「ワ~ありがとうございますお姉様♪♪」
「な、何だ?!何がどうなってるんだ?!」
「ネズ先輩!何処にいるんですか?」
「ここにいるぞ!」
「………」
「オイ、返事しろやアツシ!タカヤ!ナオト!」
「……………………」
「ネ…ズ…さ……」
「ん、リュウジか?カイトか?!」
「タ…ス…ケ……」
「コマイ!!コマイか!しっかりしろ!!」
「………」
それ以上誰の声もきこえなかった。
暫くすると、ネズと呼ばれた男一人この闇の中で叫びながら抗っていた。
「ちきしょう!何がどうなってんだよ!!」
イヤな脂汗が滴り落ちている中、耐えきれなくなったのか、ネズと呼ばれた男はついに懐から拳銃を取り出して辺り構わず発砲し始めた。
そして丁度打ち尽くした時…
「今回も活きが良いな」
「二人分ですが、よろしいかしら?」
「確かに納めてもらった、次の納税もよろしくな」
「ハイ、今度は帰省した時にさせて頂きますわ♪」
「承知した…では」
この会話のやり取りがネズという男が聞いた最後の声だった。
「!」
彼の身体は一瞬で闇に呑まれ、
そしてその瞬間、闇は消え先程の店内に戻ったのだ。
店内は何時もの通り…
店の外は人が行き交い車が走り去っていた。
ただ…
客は一人も居なかった。
居た気配すら感じられない。
あの男達が飲み食いした形跡すら綺麗に片付けられていた。
「ねぇマスター、今日は暇ですね~」
「ホントそうね♪」
本当に何事もなかったよ様な二人の振る舞い…
そんな二人の手元には…
《故郷納税明細書》と《領収書》の紙が並んでいたのだった……
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