第1章 永久の誓い(10)
それはともかく数日が平穏に過ぎ、急に大公が、「もう帰らなくては」と言い、別れ際に今までほどの親しみを見せずに帰ってしまったので、カリヤ公は少し拍子抜けした。あまり親愛の情を押し付けられるのも迷惑だが、他人行儀で何か不自然な感じがする。
理由が判ったのは夜、用があってマリオを呼んだときだ。いつになく肩を落として落ち着きがない。じっと見つめるカリヤ公の瞳を避け、視線が床を游ぐマリオに、ふと不安を覚え、カリヤ公は鋭く問い質した。
「大公が理不尽なことを要求したのではないか? マリオ、事実を話してみよ」
マリオはうつむいたまま答えない。純な青年だ。心を許して身辺の用を頼んでいるが、自分を慕っているのは知っていた。
「はっきり言え!」(リョウならやりかねない)
珍しく感情を表に出したカリヤ公が平静であろうと努めているのを見て、マリオは足許にひざまずいた。
「お許しください。私の意思ではありません。大公に呼ばれて話をしているうちに、なぜか身動きできない状態になっていました。気を許していたのが間違いだったと思いますが、お断りしては大公に恥をかかすかと思い……」
「マリオの意思ではないのは判っている」(何ということだ。リョウの奴め)抑えようとしても怒りはなかなか鎮まらない。
「大公に愛を感じたのか? そうでなければなぜ受け容れるのだ。私の許可を得てほしいと言えばよいではないか」
「考えつきませんでした」
カリヤ公は心の中でため息をつく。昔、クラザ将軍に狙われたとき、自分はとっさに王子を思い出して難を避けたが、マリオはそれほどの信頼を自分においてくれないのか。それともまじめ過ぎるのか? いや、大公のやり方が巧かったのだと察しがつく。
「こんなことを申し上げて良いかどうか判りませんが、私はカリヤ公にすべてを捧げているつもりです。一筋にカリヤ公をお慕いしています。大公はアムランへ来いと仰せになりましたが、私は行きたくないのです。いつまでもカリヤ公の側に置いてください。私を助けてください。お願いします」
膝にすがって泣き出したマリオを見て、カリヤ公は頭痛がしてきた。妙なところを濡らされてはたまらない。仕方なく引っ張り上げると、何となく抱き合った形になってしまった。
「マリオ。二度と大公に近づくな。用事を頼まれても私の許可が要ると言え。今回は許すが二度とは許さぬ。もう一つ、私には同性愛の趣味はないが、マリオを一人の青年として愛し信頼している。私にはマリオを護る責任があるのだ。何かあれば遠慮なく相談せよ。よいか、済んだことは忘れるのだ。大公には私から抗議して反省を促す。判ったな?」
「判りました。私を愛していてくださるのですね?」
なにを聞いているのだ、と怒りたいが、マリオの一途な瞳を見ると冷たくできない。
「マリオは良い男だ。男の誇りを忘れるな。良い女性と出会ったら男らしい恋をしろ。判ったら仕事を頼むぞ」
元気を取り戻したマリオに用を言いつけ、カリヤ公は大きく息を吐いた。前もって注意もできず、油断があったとしか言えないが、大公はやはり安心ならない男だ。しかし、どこか不自然ではないか? アミラと仲睦まじければ心を迷わすはずはないだろう。何かある、とカリヤ公は思った。
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