第1章 永久の誓い(9)

 セイランで時間をつぶし、約束の日にカリヤ王宮を訪れたオルセン大公は、いくつかある貴賓の間を見て回り、華麗な花鳥の天井画が描かれた居心地の良い部屋に腰を落ち着けて、しばらく滞在する気配だ。この前は不愛想にしてしまったカリヤ公も、少し冷淡だったと反省して大公に付き合い、花祭りで賑わう美しい街へと案内した。観光客も多く、馬を駛らすカリヤ公の一行に気づいて集まってくる。大公は自分への歓迎だとばかりに笑顔を振りまいて進んで行った。

「良い処だな。皆が楽しみにして来るのだから娯楽をもっと考えたほうがいい。遊技や遊興施設、大道芸も面白いだろうな」

 遊びなら次々と案が浮かぶらしい。着飾った騎兵隊が湖の周りを行進する様子を褒め、船で湖上を楽しみ、のんびり寛いだ大公は、湖畔に立つキラ城で満足げに豪華な晩餐会に臨んだ。


「アミラ公妃もご一緒にいらっしゃればよろしかったのに、どうなさいましたの?」

 同席したサラ公妃が尋ねると、

「少し体調を崩しましてね。いや、ご心配には及びません。サラ公妃のお美しさを誉めて、やきもちをやかれても困りますので、私ひとりで心ゆくまで礼賛させていただきますよ」

 と笑いながら片目を瞬きしてみせる。カリヤ公夫妻は、相変わらずだと言いたそうに顔を見合わせた。やがて果物が運ばれ、音楽がいっそう優美に流れ出すと、きらびやかな衣装をまとったアダと数人の舞姫が現れて、艶やかな踊りを披露した。大公が熱心に観ているので、カリヤ公がそっと「気に入った娘がいるのか? アダに話してみても良いが」と訊くと、「アダなら……いや、だれも欲しくないから心配しなくていいよ」と断った。

「品行方正になったものだ。心配していたが、よかったよ」

 大公は曖昧にはぐらかして踊り終えたアダが挨拶に来るのをじっと見つめている。

「アダか。魅惑的で美しい踊りだ」

「大公さま、お久しゅう存じます」

 まじめな顔で見上げるアダに、うむ、と軽く頷いた大公は何か言いたげな瞳をしたが、黙って何気ないふりをする。どこか謎めいた風が通り過ぎたけれど、特に話も交わさず、アダはうやうやしく引き退がった。

 カリヤ公はふと心の中で、アダは何か大公の秘密を知っているようだと感じた。今でこそアダはカリヤ公の許で、伝統芸術家としての身分を保証されているけれど、以前はアムランの宮廷で踊ったことがあるのだから、何か知っていてもおかしくない。

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