第1章 永久の誓い(8)
耐えきれなくなったアミラは女同士で話そうと決心して、メイを自分の居間に呼んだ。メイは穏やかにアミラの言い分を聞いたが、どことなく真剣に聞いていないそぶりだ。メイがリョウに声をかけられたのは、リョウの姉がダイゼンへ発ったすぐ後のこと。すでにラナが我がもの顔でリョウの側を離れず、リョウが王位を得てからは妃の座を狙っていた。しかしリョウはメイを愛して心を許し、すべてを正直に話して未来の夢も語った。多くの女性と情事の噂が立っても、自分はこの青年の純な優しさに精いっぱい応えてきたとメイは思う。どれほどアミラが自分の夫だと主張しても、自分の立場を心得ているメイは、それが何なのかと不思議なだけだ。
大公妃として認められている稀有の幸せを幸せと感じていない不幸な女性…。
メイはアミラに、王妃の座は決して望まないと言うが、けっして別れるとも王宮を出るとも言わない。大公が何をしようと批判せず、甘えてもふざけても一緒に楽しんでいる女性を、大公は絶対に手放すはずがないという自信が大公妃アミラを圧倒する。王宮から退がるように言われて、「それは大公がお決めになることですから、退がれと命じられましたら従いますけれど、私からお暇を頂くのは失礼ですのでできません」と言い返すメイに、アミラは言葉を失った。どう説明すれば判ってもらえるのだろう。妻であるという正統な自分の主張が、頼りない薄雲に似て、つかみどころのない空虚なものに思えてくる。そのアミラに、
「大公妃の地位はご安泰ですし、前国王は大勢愛妃がいましたけれど、大公は困ったときに私の処へ寛ぎに来られるくらいで、ずいぶん遊びを控えて王宮にいらっしゃいます」
と、メイはなだめるように言う。
「大公妃もご一緒にお楽しみになれば、大公はもっとお喜びになると存じますけれど」
「あなたは夫がほかの女性と楽しく遊んでいても、嫌悪や怒りを感じない人なのですか」
アミラの口調は少し厳しくなったが、
「誰にも好かれない男性など少しも面白くございませんでしょう? もてている方の愛を得るために女性たちは競い合っているのですから」とメイは笑顔で答え、自分は陰の存在で良いと繰り返す。メイには一つだけ不安がある。タクマ・アキノ……妖姫ラナの誘惑にも負けず処刑してしまった男。今はカリヤ公と言うあの人には睨まれたくない。(やはり公式の場には出ず、大公夫妻が仲良くするように心配りをしましょう)とメイは思った。
ふたりはしばらく黙り込んだが、これ以上は無駄だと悟ったアミラはメイを退がらせ、独り惨めな敗北感を味わった。夫を怒らせたくはないが、もう一度メイの問題を話し合ってみよう。ほかに方法がない。
しかし、その夜は待っていても夫は部屋に現れず、異国で孤独に耐える夜の闇は深かった。そして次の夜、メイに促された大公は、ほろ酔いで妻のいる寝台に潜り込み、何とか妻との関係を改善しようとしたのだが、お酒の匂いを避けてうつぶせになったアミラを抱きすくめ、激情の限りをぶつけた大公は、朝まで妻の自由を奪った代わりに妻の心を完全に失ってしまった。昼過ぎに起きて妻の顔を見た大公は、後悔したものの表面には見せず、ことさらのんきな顔をして「ちょっとカリヤへ行ってくるから留守を頼む」と言い残し、トーゴやカルロなど十人ほどを従えて王宮を発った
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