第1章 永久の誓い(7)
アミラはどう修復すればいいのか方法が見当たらない。妥協するのは正義が負けることだと思うので許せないのだ。それでも晩餐会には出なければならない。隣にいる夫の許へは着飾った女性たちが入れ替わり立ち代わりやってきて、遠慮なく誘いをかけたり冗談を言って大公妃の存在をまったく無視している。
大公は愛想良く会話を楽しみ、誘いには片目をつぶって妻のほうを見ながら断っているのだが、なかには「よろしいじゃございませんの、たまには」と臆面もなく肩に手を置く夫人もいて、アミラは驚き呆れた。あとで夫に、「乱れすぎていますわ」と不快感を示し、
「狎れなれしくされるのは、あなたがいけないのだと思います」と強く抗議すると、曖昧にはぐらかしていた夫もついに開き直り、
「良いじゃないか、これがアムラン流の社交術だよ。少しは見習って楽しい顔をしろ」
と、やり返したのが事態をいっそうこじれさせた。妻が無言の抵抗をするのに対し、大公は遠慮するメイを晩餐会に出席させ、いやでも認めさせようとする。
遠い席で控えめに腰かけている美しい女性が問題のメイだと知ったとき、アミラは公式の場だと思い、努めて感情を隠してひきつれそうな微笑で宴を終えたが、私室に戻ったとたんにどっと涙があふれ出た。むなしさと寂寥感が襲いかかる。なぜこんな国に来てしまったのだろう。自由な国という甘い言葉は放縦で無節操な響きに変わった。実態を知らず調べもせず、優しい貴公子の言葉だけを信じてしまった自分の愚かさが痛いほど身に沁みる。本心はタクマ・アキノを愛していたのに自分をごまかしてしまったのだとも思う。彼との結婚が叶わなくても、責任感や誠実さを持つダイゼンの男性を選ぶべきだったと後悔する一方で、自分の夢を娘が実現するのだと喜んでいた母を思い出すと、がっかりさせてはならないと自分を叱り、もうすぐ子供が産まれるという便りをくれた姉ケイトの幸せそうな様子に、自分も負けずに頑張ろうと気持を奮い立たすのだが、夫の子が欲しいという願望は湧かず、深い孤独の底へとすべり落ちていく。
宴席で見たメイの美しい黄金色の髪と白い肌。ゆったりとした自信を持って、大公を愛し愛されているのだという確信を十二分に抱いているらしい様子に、アミラは強い不安と恐れを感じた。
自分の知らないずっと以前から夫と愛を交わし、夫のすべてを知り尽くしている女性。
メイに翳りのない微笑で挨拶されても、愛人の存在を許すことなど、アミラには屈辱としか思えないし、メイ以上の愛を育てれば良いという夫の言葉も、それでは愛人を持つほうが両方から良くされて得をするように感じて納得できず、本来なら責められるはずの人が良くされるのはおかしいと考えてしまう。
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