第1章 永久の誓い(5)

 カリヤ公の瞳が動き、「退がるように」と言われてアダが気づくと、カールが近寄っていた。楽士たちも退場の支度を済ませている。

「ジョウ・ケイン補佐官がお待ちです」

 立ち上がったカリヤ公は親しい人と会食を楽しむ小さな食堂に向かった。

「待たせて悪かった。久しぶりだな、ジョウ」

「忙しいのは判っているよ。元気そうだな」

 ジョウは少し痩せて元気がない。豪華な料理が運ばれ、ダイゼンやセキトの話が出たあと、頃合いを見計らってカリヤ公が尋ねた。

「どうした? 新婚だというのに冴えない顔だぞ。セキトから少し話は聞いているが」

 ジョウは少し肩をすくめたが、カリヤ公が侍女たちを退がらせると、溜めてきた思いを一気に吐き出した。

「将軍の叛乱で、熱い恋もせずに死ぬのは嫌だと思った勢いに任せて突っ走ったのが間違いの元だな。考えてみればもう戦争はないのに。いや、ベラと知り合った頃は新鮮で魅力的だったが、きついし浪費家だし、アムランへ行ったきりでセイランに戻らないのさ。アマリ大臣は良くしてくれるのだが、妻の評判を聞いているだけでは夫として耐えられないのだよ。アムランで活躍しているベラのために離婚は避けたいと思っているが」

「ジョウがアムランへ行くのはどうだ?」

「たまには良いが住みたくないよ。仕事もあるし。しかし最近はセイランも嫌になった」

「それではカリヤに来て私の仕事を手伝ってくれないか。グラント王には私から頼んでみよう。大丈夫だよ、ジョウ」

「そう出来れば有難い。少し気分転換しないと気が滅入って自分を見失いそうだ」

「思いつめるな。成り行きに任せて少しのんびりしろ。私はいつでもジョウの味方だぞ」

 励まされて元気を取り戻したのか、ジョウは翌日キラ湖周遊したあと再訪を約束してセイランへ戻っていった。急に仲間たちが次々結婚してしまったが、短い夢が冷めれば長い現実が待っている。

 ジョウを見送って一安心したカリヤ公は、アムランのリョウ・オルセン大公を迎える準備を始めた。カリヤに落ち着いて間もない頃、数人の護衛を連れただけでやって来た大公は、忙しく動き回っているカリヤ公を見て、ゆっくり話もできないと思ったのか、二日ほどの滞在ですぐに帰ってしまったが、「躰を大事にして少し休養しないとのびてしまうぞ」と心配し、優しく労わってあれこれ世話をやいた。

 カリヤ公が意識的にあえて休養をとらず、大公に付き合わなかったせいでもあり、予告なしの訪問に調整がつかなかった面もある。警戒心もあったが、大公は以前のことなどすっかり忘れているかに屈託なく明るい笑顔を振りまき、隊士や侍女にも愛想良く冗談を言って、あっさり引き上げていった。

(自分の考えすぎかもしれない。彼の悪ふざけに乗らなければ大丈夫。やはり良い男だ。アミラが嫁いで、もう落ち着いているだろうし、どうしているか気にかかる)

 アムランから自慢の産物や果実酒が贈られてきたので、礼状と共に招待状を送ると、すぐさま訪問するとの返事が届いたのだった。

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