第1章 永久の誓い(2)

 再び救援隊を連れてアガシアへ行き、災害見舞品を渡し、被災地の視察をして報告書をまとめる。その合間には女王に呼び出されて、マイヤ王女の相手をするよう促される。王女は趣味や得意なことは何か? と気軽に話しかけて、自分は観劇や、庭園を彩りよく飾るのが好きだなどと勝手におしゃべりをつづける。セキトも庭園作りが好きな母のお陰で多少の知識はあるので適当に相手を務めていると「ねえセキト」と王女はだんだん甘え声で、しなだれかかってくる。断られるはずはないと信じきっているようだ。セキトもあいまいにはしていられないな、と心を決めた。

「カムラ将軍家に嫁がれたら王女という身分を忘れて一族に溶け込み、カムラ家をいちばん大切に思ってもらわねばなりませんよ」

 一族の誇りを持つセキトが睨めつけるように王女を見た。それを承知ならばと言外に言っている。マイヤ王女はすぐ、「充分承知していますわ」とうれしそうに答えた。

「護身の剣は習っていますし馬術も得意ですから、将軍家の誇りを傷つける心配はありませんもの」もう決まったという顔で王女は、

「ねえセキト。あなたは女性と二人の時でも、いつもそんなお顔をしているの?」と訊く。

「女性と一緒の時などありませんよ」セキトは面倒だと思い、ぶっきらぼうに答えた。

「本当? うれしいわ。それじゃ私に笑顔を見せて頂戴。きっと素敵なお顔になると思って楽しみに待っていたのよ……ねぇ早く」

そんなことを催促されて笑えるか  。しかし笑いながら待っている王女の顔が近づいたので、セキトは遠慮なく王女を引き寄せ、息も止まれとばかりに唇を奪い、夢心地で見上げている王女に少し照れた凄みのある笑みを口元に浮かべたが、次の瞬間、王女の躰が頼りないのに気づいてあわてて抱きかかえるはめになった。(何と柔なお姫さまだ……)香水の甘い匂いと、なめらかな肌触りが心地良い。(やはり普通の女とは違うな)とセキトは王女を抱き上げて近くの長椅子に運び、一緒に腰を下ろしたが、その様子をマイラ女王が会心の笑みを浮かべて見ているとはまったく気づかなかった。

 承諾の返事を得ると女王は有無を言わさぬ早さで婚約を発表し、婚儀こそカムラ家の希望を容れてダイゼンで行うことに同意したものの、日時も自分が都合の良い日に決めてしまった。あとはセキトの知らない間に準備が整えられ、気づいたときには永久の誓いを立てさせられて花婿になっていたという有様だ。兄の時より盛大な儀式と祝宴になり、セキトは面映ゆいながらも誇らしく、妙な優越感を覚えた。

 グラント王夫妻はもちろん、カリヤで多忙な日々を過ごすカリヤ公夫妻も駆けつけて祝福し、内輪の晩餐会が王宮で催された。そのカリヤ公夫妻とはあまり話もできず、翌日にすぐ帰国してしまったのだが、マイヤに強烈な印象を与えたらしい。有名なキラ湖周遊に行きたいとせがむので、公休をもらい、数日出かけることにしたが、「サラ公妃はすごい美男の夫を獲得したのね」と関心はキラ湖よりもカリヤ公のほうか。

「しばらくダイランに滞在したらどうかと兄王が仰言っていたのに、公妃はカリヤ公にべったりだったわ。一緒にすぐ帰ってしまうなんて、結婚しても惚れぬいていらっしゃるのね。無理もないけど何だか羨ましいわ」

 セキトは何が羨ましいのだ、と文句を言いたいところを抑えた。マイヤは悪気はないのだが、言いたいことを平気で口にする。しかしカムラ家の女性たちと互角に付き合うにはちょうど良いのかもしれない。

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