第18話

 私たちの番はすぐに終わった。目玉作品はもしかしたら三十秒も見れてないかもしれない。後ろを見ればどんどん人が集まっていて警備員も押さないで譲り合ってお願いしますと声がけしていた。

 他の作品も見て展示室には二時間くらいいた。うっすら汗ばむ。クーラーは効いてるんだろうけど人は多いし、ゆっくりなペースでも歩き回ると疲れるもんだ。長山さんはどうかなと思って顔を覗くと顔が赤くなっているように感じた。

「長山さん、大丈夫?」

「え!?何が!?」

「顔赤い。熱中症とか…」

「平気平気!少し昂ってるだけだから!それよりミュージアムショップ見てこ!」

 展示室を出るとお土産が買えるお店があった。こっちも人がすごくて入ってしまえばもみくちゃになりそうだ。さっきまでお行儀良く絵を見てた人たちが好き勝手に動いている。

「どういうの売ってる?」

「図録とかポストカードとかキーホルダーとか限定グッズがいっぱいあるよ!」

「図録って?」

「今日見た作品が載ってる大きくて分厚い本!」

「長山さんは買う?」

「ちょっと値段が高いんだよね。だからポストカードをたくさん買う!」

 それなら私もあの池の絵のポストカードでも買おうかな。やっぱり一番印象に残ってるし部屋に飾りたい。使ってない写真立てあったかな。


 人の間を通り抜けてポストカードのコーナーまで進む。

 池の絵はやはり一番人気があるみたいで枚数が多く用意されていた。そこから一枚抜き取る。長山さんも同じ物を手に取った。五、六枚まとめて。

「そんなに同じ絵の買うの?」

「飾る用と保存用、好きに遊ぶ用、お土産に渡す用!」

 別の絵柄のカードも数枚抜き取った。

 ポストカードの他にはメモ帳やマグネット、キーホルダー、髪留めなんかもあった。パッケージに名画が印刷されてるクッキーやチョコまで売っている。ふと丸くて小さな缶に入った茶葉が目に入った。アメやハンドクリームが入っていそうな小さい銀の缶だ。

「絵画のイメージの味と香りだって!おもしろいねぇ」

「紅茶か…」

 紅茶と言えば朋律だ。昔からコンビニや自販機でもいつも買ってたし、家でお湯を沸かしてティーバッグのお茶もよく飲んでいた。私も飲ませてもらってたけどよほど特徴がないと違いはわからない。

「朋律こういうのも好きなのかな…」

「じゃあ、お兄さんにプレゼントしようよ!」

「でも誕生日まだ先だし」

「お祝いじゃなくても!いつもありがとうって!」

「んー…」

 すぐに決められなかった。どうしてかむずむずした。でもワンピースと花束のお礼もしたいし都合がいいかもしれない。

「この紅茶缶を見ていわちゃんはお兄さんを思い出したんでしょ?それはもうプレゼントするっきゃないよ!」

「…そうするか」

 紅茶は二種類。缶の真ん中に意外と小さかったあの池の絵と、別の有名な絵。朋律の好みもわからないし両方買うことに決めた。どっちかでも気に入ってくれたらいい。

「長山さん、ありがとう。これプレゼントに…」

 真横にいたはずの長山さんはいなくなっていた。見渡しても知らない人ばかり。展示室では平気だったのに気を抜いてついにはぐれてしまった。そんな遠くに行ってないはず。

「長山さーん」

 大きめに呼んだけど周りのざわざわにかき消される。

 仕方がない。私はポストカードと紅茶以外にもいくつかグッズを手に取ってレジの列に並んで会計をした。

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