第4話 ノヴァさま だいすき

「ありがとうございました、魔王ノヴァ様。何とお礼を申し上げたら良いのか……」


「お前たち家族の事を解決しなければ、そのジャジャ馬娘が帰ってくれないからだ。お前の娘が、何度世界を崩壊の危機に陥れようとしたか……」


 深々と頭を下げたトベルクとリアーナに対し、ノヴァはふんっと鼻を鳴らして答えた。


 グロリアが、全てはお前が気軽に世界征服しようとしてカノンを誘拐したからだろう、とジト目で語っているが無視する。


 その時、


「魔王様!」


 小さな衝撃がノヴァを襲った。いつの間にか姿が見えなくなっていたカノンが、ぶつかって来たのだ。


 母親の美貌とはまた違った満面の笑顔を浮かべながら、一枚の紙を差し出す。

 何かと思いながら開くと、


 『ノヴァさま だいすき』


 そう書かれた子供らしい大きな文字、下にはノヴァとカノンと思わしき人物がハートマークで囲まれている絵だった。


 純粋な感謝に満ち溢れた絵に、心の奥底がじんわりと温かくなる。


 遠い昔、自分が求め、抱き、失った感情――


 湧き立つ気持ちを振り払うように軽く頭を振ると、ノヴァは貰った絵を懐にしまった。

 グロリアが開いた転移ゲートの青白い光に向かって、歩みを進める。


 立ち去るノヴァたちの背中に、


「ありがとう……本当にありがとう、魔王様! お父様とお母様を助けてくれて、本当にありがとうっ‼」


 少し震えた声で何度も感謝の言葉を叫ぶ少女の声が聞こえた。


(まあ……こうして人間に感謝されるのも、悪くはないかもな)


 そんな事を思いながら、ノヴァはゲートを潜った。


 目の前に良く知った部屋が現れる。

 自分の城の一室だ。


 転移ゲートを消したグロリアが、やれやれと肩をグルグル回しながら、嬉しそうに声をかけてきた。


「カノンがいなくなって少し寂しいですが、世界征服を続行しましょうか。後、まだまだ貴方の仕事も残っているのでその片付けも――」


「……寝る」


「え? い、今何と?」


 嘘だろ? 聞き間違いだと言ってくれ! と言わんばかりに瞳を見開き、グロリアが尋ねる。


 しかし、現実は残酷だった。


 着こんでいた無駄に装飾の多い上着などを脱ぎ捨てると、ノヴァは言い放つ。


「疲れたっ‼ 体中の淀みが重すぎて、もう動けんっ‼ 私は寝るぞ、グロリアっ‼」


「ま、待って下さい、ノヴァ様っ‼ せめてこの仕事だけでも終わらせって、くっそ、もういねえぇっ‼」


 さっさと転移魔法で退散され、誰もいなくなってしまった執務室に、グロリアの絶叫が響き渡った。

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