第3話
新千歳空港から快速電車に乗り込み、40分程で、札幌駅に到着した。
見覚えのある時計塔を眺めていたのも束の間、すぐに瑞穂に観光に連れ回された。
札幌近くの観光地をひとしきり見終わったあと、瑞穂は
「鏑木さんとディナーの約束があるから」
と那衣を置いてそそくさとレストランへ行ってしまった。
日も暮れ初めているが、見知らぬ土地のでは、那覇での仕事帰りに見る1日の終わりを告げるものとは別物だった。
飛行機の中で、おぎわらのことは簡単に瑞穂へ説明した。
マッチングアプリを使用したら、北海道の男性とマッチしたこと。返信が2週間経っても来ないこと。不自然な写真投稿。おかしな紹介文のこと。
一通りの説明を終えると、それまで黙って聞いていた瑞穂が質問してきた。
「おぎわらさんって人のこと好きなの」
「全然、全く」
沖縄から1番遠い北海道の人が、不自然なことをしているから、興味本位で気になっているだけだった。
大体やり取りもしていないのに、恋愛感情など芽生えすらしない。
「ただ、理由が気になるの。どうしてこんなことしているのかって」
「初めてのお悩み相談は、謎解きときたか。名探偵はワクワクしちゃうね」
思いの外、笑われたり、馬鹿にされたりしなかったことに那衣はほっとした。
「投稿された写真を一度見せて」と瑞穂が手のひらを出した。
いいけど、と言ってから那衣はスマホを渡した。
写真は全部で4枚が2週間に1回の頻度で投稿されていた。
1枚目 雪の積もった歩道
撮影日 2015.01.27
2枚目 小さな公園
撮影日 2015.01.27
3枚目 電柱越しの空と雲
撮影日 2016.07.05
4枚目 人通りの多い交差点
撮影日 2017.11.16
どれを見てもなんてことない景色の写真ばかりだ。やはり何かを伝えるための投稿とは、どうしても那衣には思えなかった。
しばらく経ってから、瑞穂は
「やっぱり」
と呟くと4枚目の写真を指差して、那衣に見せた。
「この写真に載ってる。ほら、交差点の傍にコンビニあるでしょ。黄色と赤と青のやつ」
よく見ると、端の方に見覚えのないコンビニが那衣からも見て取れた。
「本当だ。沖縄でも見たことないから、気づかなかった」
「それ。あたしも珍しいコンビニだなと思ったのよ。で、ホームページ行って調べたらこのコンビニは北海道にも展開してないのよ」
「じゃあ、この写真が撮られたのは北海道以外の場所ってことなの」
「そういうこと」
瑞穂はスマホを返して、話を続けた。
「あと1枚目と2枚目の写真は撮影日が同じ2015.01.27なのに、片方は雪が降っているのに、もう片方は晴れている。かなり離れた場所に移動してるわね」
「雪が止んだ後に、近くで撮影したんじゃないの」
「そうかも。冬の雪の後に、夏ばりのカンカン照りの気温になって、すぐに地面が乾いたんじゃなければね」
「あっ」
那衣は2つの写真を交互に見返した。
雪が降っている方は、見たところ3cmほどは積もっている。もう片方の写真は土の地面だったが、泥濘みも濡れていた形跡もない。おのれ、自称名探偵。
「もっとも撮影日を信じればの話だけど」
ジュースをストローで吸い上げてから、瑞穂は背もたれに体重を預けた。
自身のスマホに視線を向け、おぎわらのプロフィールを那衣は見返した。
「北海道出身ってプロフィールにあったから、てっきり北海道の写真ばかりだと思ってた」
「でも、最初の写真はおそらく北海道の写真だと思うわ」
「何でそう思うの」
「通りの傍に黄緑色の郵便ポストみたいなのあるでしょ。あれは砂箱よ。歩行者や近隣住民が、自由に持ち出して歩道に撒布して、滑り止めとして使用するの。北海道では珍しくないものよ」
「じゃあ撮影日を信じるとして、わざわざ同じ日に北海道から移動して別の場所で撮影したのはどうしてなの」
「さあ、分からないわよ」
少し前のめりになって、訊ねた那衣の質問を、あっけらかんと瑞穂は躱した。おのれ、気分屋名探偵。
那衣はしかめ面を緩めて、くすりと笑いお礼を口にした。
「ありがとね。おぎわらさんのこと分かって少しスッキリした」
いいのよ、と瑞穂は笑顔で返した。
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