第59話 野生の勘、冴えわたる!





「兄貴、こいつらは食ってもいいのか!?」


船上にのぼるや、赤虎は喉奥を鳴らして、こう声を荒げる。


力は認めるが、やっぱり野蛮なやつだ。俺は呆れつつ、彼の背から降りる。


「いいって言うわけがないだろ。落ち着け」

「この状況で落ち着けるかっての。血がたぎるぜ」


まぁ、分からなくもない。


さすがにこれまでの中では、最も大きな船だ(とはいえ、ほどほどといったところだが)。

首謀者らが乗っていることもあるのだろう。


乗員たちは逃げ腰ながらも、武器をこちらへと向けて戦う姿勢を見せてくる。


中には腕が立ちそうな奴も紛れていた。


これまでみたく『気』だけでは、倒しきれそうにない。


「かかれ、者ども!!」


号令がかかり、彼らは一斉に剣を振り付けてくる。


統率も取れているが、まだどうとでもなるレベルだ。

俺は腰を低く落とすと、


「ラベロ流・半月下弦斬り!!」


龍の火を纏わせた剣で足元を薙ぎ払ってやる。


一方の赤虎は、咆哮をあげたのち、その巨体を持って、体当たりを繰り出していた。


これにより数十人近くいた敵は、文字どおりに蹴散らされる。

残ったのはただ一人。さっき、腕が立ちそうだと睨んだ男だ。


「強いな。ラベロ流……。新しく領主となったディルックだな」


そいつは軽快な動きで距離をとり、俺の方へと双剣をまっすぐ向けて間合いをはかる。


顔をぐるぐると包帯で、覆い隠していた。しかも、やたら厚い服を着ているから、正体はまったく掴めない。


が、その剣身に足に渦巻くのは風属性の魔力なのは間違いない。海風とは別種の圧が肌をひりつかせる。


かと思えばそいつは、一気に間合いを詰めてきた。


ゆらりとした動きに、仕掛けてくると気づくのが少し遅れる。


俺はその双剣が二段続けて叩き込まれるのを、剣先を操作してどうにか受け止めた。


そうしながら、俺はそいつを一度弾き飛ばす。

距離を取ったところで、加勢しようとしていた赤虎に横目を流した。


「……赤虎、頼みがある。お前、火を吹けるよな?」

「あぁ、当たり前だぜ。それが?」

「ここは俺がなんとかする。先に奥へ行って、積荷を全部燃やしてくれ」


風属性魔法を操る男の攻撃をいなし防ぎつつ、俺は指示を出す。


その毛が逆立っているのを見たところ、どうやら気合は十分のようだ。


「……そこでなら、好きにしていいんだな、兄貴」

「人は食うなよ。あと茶葉も食うな。それ以外は思う存分暴れろ。このでかい船じゃ、そう壊れないよ」

「なら、そうさせてもらうぜ。兄貴みてぇな化け物と獲物を分け合ったら、楽しみが半減しちまうからな」


赤虎はそう残すと、警備体制をあっさりと打破して奥へと乱入していく。


……すでに、かなりの破壊音が鳴り響いていた。

やはり荒々しすぎるが、今は彼のことを気にしている場合でもない。


「……風の舞」


男が小さな竜巻を起こして、俺にぶつけてくるから俺はひとまずそれを避ける。


といっても、戦場は船の上。しかも、まわりには気を失い倒れた連中がぞろぞろいる。


足場は多くないから、船のへりに着地した。


「随分と簡単に行かせてくれるんだな。あいつは恐ろしく強いぞ?」

「それは君もだろう。そして君を倒しさえすれば、あの喋る赤い虎も止まる。そう思ったのさ」


なるほど、頭もキレるらしい。そして自分の力に、自信もあるようだ。


「……あんた、貴族の出だよな。なんでこんな連中の用心棒をしている」

「貴族の出であることは認めるが、ラベロ家のように知られた家でもないんだ、うちの家は。この船に雇われてる理由は聞いてくれるな」


そこまで言うと、その男はまたゆらりと動き出す。


まるで影に溶けていったかのようにすら感じる。

その特殊な身のこなしは、かなり読みづらい。


過去に見たことのない動きだ。



それだけではなく船の構造だって、敵はしっかりと理解しているようだった。


まっすぐ来るかと剣を構えれば、見張り台を薙ぎ倒して、こちらの動きを封じようとしてくるし、後方から旋風を回り込ませるような知恵もある。


「どうやら速さなら、こっちにも分があるらしい。この勝負、勝たせてもらおう。私の家では、君のような名家に勝てる機会はそうない」


……どうしたものか。

このまま回避を続けることは、できるだろう。耐久戦ならば白龍の力を持つ俺に分がある。


だが、赤虎に「化け物」と言ってもらったばかりだ。

言葉は悪いが、それはつまり俺の強さを信用して、先に行ったということになる。


ならば、俺はかわし続けるなどという消極的な姿勢を取ってはいられない。

彼の信頼に、召喚した者として答えなくてはならない。


俺は奴の間合いの少し外、正面に立つと、一度剣をしまう。


「……速さ勝負というわけか。いいだろう、受けて立とう。ディルック・ラベロ」


そう、今この状況では、これが最善だ。罠作成を使える隙もないから、速さに対処するには速さしかない。


左足を引き、俺は柄に手をかける。

魔力をゆっくりと調整していき、その波がしっかりと噛み合うのを待つ。


そして機は熟した。


俺は魔法詠唱をしつつスキルを利用、強く足を蹴り出して相手の懐へと向かう。

一閃、鞘から剣を抜き放った。


がしかし、それは外れる。

風属性魔法を使う男は、高く上へと飛んでいたのだ。


「かかったな。まともに勝負をやるわけがないさ! これで終わりだ!」


双剣が振り下ろされるのだけど、俺はすぐさま剣を逆手に持ち替える。

敵の背中に刀身を打ち付けていた。


男は、甲板へと叩きつけられる。


「か、かはっ………!! なん、だと……」


その勢いで双剣はその手を離れて、遠くの方へと転がっていった。


「いったい、どうやって……! この私の体術は、数回食らっただけで見抜けるようなものではないはず……!」

「俺もそう思うよ。ただ……」

「なんだ、どうやって」

「まぁ野生の勘って奴だよ」


そう、抜刀とともに発動したのは『獣王の猛り』だ。赤虎から引き継いだ能力だ。


その剛力、そしてその野生味溢れる瞬発性が俺に勝利をもたらしていた。


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【古代召喚】

四千年前の古代を生きた者の魂を実体とともに、現代に復活召喚させ、従わせる。

 また、そのスキルと同等の能力を得る。


(利用可能能力)

・龍の神力 レベル4/5

・錬金術 レベル5/5(MAX……進化能力あり)

・調味料生成 レベル3/5

・罠作成 レベル1/5

・剣士の『気』 レベル4/5

・獣王の猛り レベル3/5…… 伝説の猛獣・赤虎の瞬発的な剛力を手にする。(New!! レベルアップ↑)

・神気ヒール レベル2/5


 領主ポイント 3500/7000


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