第54話 潜入開始!

商人ギルドには裏ギルドがあり、もしかすると謎の咳症状の原因もそこに潜んでいるかもしれない。


祭りを開催した際に得た貴重な情報を、無駄にする手はなかった。


そもそもテンマに帰らず、この町に残っているのはそれら悪を叩き潰すためでもある。


「むふふ、完璧でしょディル様! これぞ商人! って感じです、わたくし!」

「……どのあたりがだよ。めちゃくちゃ着崩してるじゃないか。かばんくらいちゃんと背負った方がいいぞ」

「む。ちょっとした遊び心ですよー。ほら、ディル様こんな姿滅多にしないですし、せっかくだからもっと見てくださいな! 堪能してくださいな! そ、れ、と、も! 触って確かめますか? このタイツの生地感とか!」

「タイツの生地感が分かっても商人らしさになんの関係もないだろ……。わざわざ変装してる目的忘れるなよ?」


シンディーの格好を見ると先が思いやられるが、俺たちが講じた策は、変装をしての商人ギルド潜入だ。


一度領主として訪問し、ギルド運営の確認を行った際にはなんの不正も確認できなかった。

正面から行ってだめならば、搦手を使うほかない。


そのための商人らしい衣装は、商店街会長に見繕ってもらい調達していた。


大きさもほどよく合わせてもらったため、あとは着るだけでそれらしくなれるはずなのだが……シンディーにかかればそうはならないらしい。


「えー、これよく見てほしかったのに。錬金術で、わざわざ小さな星飾りつけたんですよ」


うん、まじで変装に関係ない! おしゃれを楽しもうとしていらっしゃる!


人選を間違えたか……? もしかするとアリスの方がーーーー

考えてみたが、まず間違いなく無理だ。人見知りが発揮するか、取引される食材を見て暴走するかですぐに身元がバレてしまう。


となれば、やはりシンディーにきちんと振舞ってもらうほかない。


「ほら服装正して、荷物ちゃんと持ったら行くぞ」

「はい、もちろんぬかりなく! では行きましょう、潜入デート!」

「そんなデート金輪際ごめんだよ」


こんな会話を締め上げると、俺たちは商人を装ってギルド館の前まで行く。

この中で競りがされることもあるというから敷地は少し広いが、その外観は白黒調で華美ではなく町によく馴染んでいる。


「この中に裏ギルドがあるとは到底思えませんね」


シンディーが小声、俺の耳元で囁く。

俺がそれに頷いたところで、横手から声をかけられた。


姿格好から察するに、門衛だ。


「見ない顔ですね、あなたがた。他の街からいらした商人なら、来客の手続きをお願いしたいのですが」

「いえ、ここのギルドの一員ですよ。そうだよな?」


俺はシンディーへと目を流す。

はい、と素直に答えた彼女が革の小財布から取り出したのは、ギルド会員証が2枚だ。


どちらも年季が入ったものをあえて用意していた。


「ただ、最近は別の街で活動していたんです。これで信じてもらえますでしょうか」

「これは失礼。名簿を確認いたしますから、少々お待ちください」


門衛はカードを手にすると、一度番所まで引き下がる。

少し間を空けたのちに、朗報を届けに来てくれた。


「失礼しました。お久しぶりですね、ラロッカ様とリーナ様。カードをお返しいたします」

「いえいえ、久しぶりでしたから仕方ありませんよ」

「たしかに在籍を確認いたしましたので、今お開けいたします!」


無事、中へと通らせてもらう。


門衛たちが所定の場所に戻ったのを確認したところで、やっと解放されたと言わんばかりのため息をシンディーはつく。


「ディル様、ほんとにうまくいきましたね。偽名作戦!」

「うん。前に来た時に、名簿を見させてもらってたからな。こんなこともあろうかと、しばらく来訪のない会員の名前を控えててよかったよ。


 それに、都会の方では魔導写真による顔の管理までやってるって話だけど、ここは地方。そこまで厳密に管理してないことも確認してたからな」


「なんかあっさり言ってますけど、普通そこまで頭が回りませんからね?」


シンディーはそうほめてくれるが、大したことではない。


商人ギルドになにかが隠れていることは、分かっていたから、少し策を打ったまでだ。




これくらいの計略は、文官だった頃に何度か使ったことがある。




昔取った杵柄とはよく言ったものだ。


今回はうまく活かすことができた。




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10/14(金) コミカライズ更新されてます!

あざと可愛い最強正妻(自称)なヒロイン・シンディーも今回から登場します。


ノベマ! にて更新されています。

よろしければ、近況欄にもリンクがあります。

よろしくお願いいたします。

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