第53話 咳症状の蔓延は原因あり?【本日コミカライズ更新!】

「うまくいった証拠だよ。布で巻いておくから、あんまり掻くなよ?」

「……うん!!」


小さな仕事とはいえ、無事に男の子が回復したことに俺はほっとする。


「……え、私の腰痛がなくなってる…………!?」

「あまり腰を曲げた姿勢を取らない方がよろしいかと。定期的にまっすぐ立つよう意識してください」


その横で、もっとすごいことが起きていた。

子どもを連れてきたはずの父親の持病を、アポロがあっさり治してしまったらしい。


「おいおい、さらっとやるには凄すぎだろうよ」

「ディルック様にもできない話ではございませんよ」

「そうだけどさ。一目で見抜くのは、アポロの努力と才能の結晶だよ」

「そのお言葉、ありがたく頂戴しておきます」


この凄技による回復劇には、それまで通りすぎるばかりだった来場客たちもかなり驚いたらしい。


人の寄り付かなかった仮設の診療所にも、徐々に列ができていく。

結果として、たくさんの人を診ることとなり、そのうちに営業終了時間を迎えた。





イベントは思った以上の大盛況に終わった。


ざっくりと売上を計算してみれば、今日一日だけでここ数ヶ月分をも上回る額になったとか。


おかげで店主さんたちは、少し気が大きくなったらしい。

打ち上げは、豪華に商店街を上げて行われていた。


俺とアポロは気になることがあったため、その一角にある救護ブースになおも佇む。

書いてもらった問診票に、じっくりと目を通していた。


「お二人とも、とりあえず一本いかがですか! これなら手を汚さず、資料を見ながらでも食べられますよ! アリス特製ミルクまんじゅう串!」


そこへ元気印(お料理限定)が訪れて、料理を差し入れてくれる。


「アリス。大変申し訳ありませんがーー」


集中したかったのだろう。

感情なんて考慮しないアポロはあっさり断ろうとしていたが、俺はそれを止めた。


「まぁまぁ。甘いものがあれば、頭も回りやすいよ」


ここで断って、ずんと落ち込むアリスを見るのは不憫でならない。


それに機嫌を立て直すのも大変だ。

俺はなんとかアポロを説得し、二人で口にする。


「うん。美味しいな。手持ちで食べられるのも嬉しいよ」

「……その通りでございますね。助かりました、アリス」

「ありがとうございます……! よかった、お二人の力になれて!」


アリスは会心の笑みを見せ、半ばスキップ気味に去っていく。

こうなると次はシンディーがきそうな場面だったが……


どうやら白龍に約束していた焼き鳥料理を用意しようとしているらしい。


精肉店の店主さんから、作り方の手ほどきを受けていた。


そうなれば、こちらに集中できるというものだ。

一通り目を通し、あることに気づく。


「……ディルック様もお気づきになられましたか」

「あぁ、たしかに多いとは思っていたけど、こう確かな結果が出るとな。咳症状がある人がかなり多い。

それも、咳止めポーションさえも効かないと言っていたのは、商店街の方、港や市場の関係者、行商に運搬業の方……」


それらの業種が全て関わっている機関といえば、一つだ。


「……商人ギルド」

「咳症状の原因は、残念ながら今は特定できておりません。そもそも、いくつも原因が考えられる症状ですから。

 ですが、アポロがここまで分からないのならば、きっと4000年前にはなかった病が原因なのでしょう。

 とりあえず症状を収めることはできましたが、対症療法になってしまっております」


「それが商人ギルドで蔓延していると?」

「可能性はございます。ですが、あくまで現時点で断定はできません」


打ち上げの騒がしさから置いていかれて、俺たちはその場でしばし次に打つ手を考え込む。


「……お二人さんや」


そこへ、商店街会長が俺たちの元を訪れた。


彼女もさっきまでは激しく咳き込むことがあったが、アポロの治療により、とりあえずは症状は収まっている。


「商人ギルドを疑っているんだろう? 聞き耳を立てるつもりじゃなかったんだけどねぇ、聞こえたもんだから」

「……いえ、構いません。まだあくまで可能性の話です」


「なら、その可能性がもっと上がる話をしようかえ? 商人ギルドの悪い噂をね」

「この間、話すのはやめたのではなかったのですか?」


当然気になるが、無理には聞けない。そう思っていたのだが、会長さんは言う。


「本当は、ギルドに属する者としては、言うべきじゃないんだろうけどねぇ。

 今回の行事で、私はもういたく感動したのさ。生きてて、またこんなに人の集まる商店街を見られるとは思ってなかったからねぇ。

 だから、あんたには恩返しをさせてもらいたいんだよ」


なんて、心の通った方なのだろう。

熱くなる胸に手をやり、俺は彼女と視線を合わせる。


「であれば、教えていただきたいです」

「ほほ、そうかい。なら、交換条件としてうちの後継者にーーーーというのは冗談さ。

 ここだけにしとくれよ? 商人ギルドの黒い噂というのはねぇ…………」


会長は、俺とアポロを呼び寄せると、耳元で告げる。


「裏ギルドがあるらしいよ。

 それも、正式な商人ギルドの上層部や金待ちとずぶらしいのさ。あくまで噂だけどねぇ」

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