第47話 新たな召喚者は、目の前で困っている人のため

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盗賊らに絡まれていた少年は、まず俺の顔をまっすぐに見た。

そして言うには、


「信じてください! 僕、ほんとに盗みはやってないんだ。ほら、なんにも持ってないでしょ?」


とのこと。


あらゆるポケットがひっくり返されるが、身銭の一つ出てこない。

嘘はついていなさそうだが、気になるのはそれ以前のことだ。


気絶したままの男らを目の端で見ながら、聞く。


「どうして、あんな奴らに関わったんだ?」


少年は、一度うつむいた。それから、悔しそうに声音を強める。


「どうしても、お金が欲しかったんだ……。それで、仕事をしたらお金をくれるって言うからついていったら、盗みをしなさいって言われたんだ」

「お金が欲しかったのか……。それにも理由があるのか?」


「う、うん。僕のお母さん、病気なんだ。でも、そのお薬が高くて買えなかったの。

 でも、宝石を奪えば、なんでも治るポーションをくれるって言うから……」



まったく、外道極まりない連中である。

俺は再度、白目を剥いて倒れたままの男たちを見て、ため息を吐いた。


そんなものが、あるわけがない。

Aランクポーションでさえ、なんでもは治らない。


男らは、初めからこの少年を騙すつもりだったらしい。


「お兄さん、どうにかなりませんか……?」


まだ疑うことも知らないだろう瞳に、涙が揺らぐ。



「若様……、どうされるのです? ポーションは専門外なのでは」


バルクの言う通りではあったが、見て見ぬ振りはできない。

ここで子供を突き放しては、ラベロの名が落ちるというもの。


「いいや、大丈夫だ。うん、なんとかしてみせる」

「お兄ちゃん、ほんと!?」

「あぁ、秘策があるんだ。さっそく、お母さんのところへ案内してくれるか?

 バルクさんは、こいつらを収容所まで運んでくれませんな。自衛団の方々を使ってくださって結構ですから」


バルクが、「はっ! かしこまり申した」とお固い答えとともに、表通りへと出ていく。


俺は少年に案内を受けて、彼の家まで向かった。


こじんまりとした一軒家にあげてもらい、寝室へと通される。


ベッドに横たわり、布団を被っているの女性が彼の母らしい。


口をきくこともままならないろうで、虚な目でこちらを見る。


「……お兄さん、どうするの? もしかして、高いポーションをもってるの?」

「いいや」

「じゃあどうやって……」

「まぁ少し見ていてくれよ」


俺は、その場でステータスバーを開く。



____________


【古代召喚】

四千年前の古代を生きた者の魂を実体とともに、現代に復活召喚させ、従わせる。

 また、そのスキルと同等の能力を得る。


(利用可能能力)

・龍の神力 レベル4/5

・錬金術 レベル5/5(MAX……進化能力あり)

・調味料生成 レベル3/5

・罠作成 レベル1/5

・剣士の『気』 レベル4/5

・獣王の猛り レベル2/5


 領主ポイント 5000/5000


次回、求める英霊を確定で召喚!


____________


そう、次なる召喚ポイントは溜まりきっていたのだ。


そして、5000ポイントの区切りということもあろう。まさかの確定召喚である。


古代文明の再現というはるかな理想のため、可能ならば船大工などの召喚に当てようと思っていたが…………


目の前で困っている子がいるのを見捨ててはおけない。


俺はその場で召喚を発動する。


もちろん、召喚を願ったのは、稀代のヒーラー。

理想を言えば欠けた腕すらも治してしまえるような、圧倒的な治癒力。


「そなたに請われたこと、アポロは心から嬉しく思います。この力を再び人の世のため、お使いしましょう」


光の繭玉の中から現れたのは、白い修道女のような服に身を包んだ淑女だった。


少年が目を白黒させて驚いている。そりゃあそうなる。だって、何もないところから人が出てきたのだ。


「アポロ、とお呼びください。古代において、当代一の治癒回復師と。身に余る評価ではございますが、そう呼ばれておりました」

「えっと、アポロ……。すまない、早速なのだけど」

「状況は見れば分かります。高熱でずいぶん衰弱しているようですね。アポロにおまかせを」


身体の中に眠る邪気を、神気なる聖なる力で祓う。それにより、病を引き起こしている根本原因を除き、治癒にいたるのだとか。

彼女はつらつらと語り続けるが、俺にはよく分からなかった。


わかったのは、あっという間に少年の母親が元気になったということ。


少年は、体を起こした母に抱きつき、しばらく会話を交わした後、


「お兄さん、お姉さん、ありがとうっ!!!」


俺たちに深々と礼を述べた。


「でも、お代が……また今度でもいいですか?」

「いらないよ。通りがかった縁だ」


くしゃり、小さな頭に手を置き撫でてやる。


彼の笑顔で、お代ならば十分だ。

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