三章 新しい街にて

第46話 闇取引、ぶち壊します【三章スタート】

1


辺境の町・ローザスの路地裏にて。

その不穏なやりとりは、繰り広げられていた。


髭面の大男が、子供と会話を交わしているのだ。


「へへっ、ちゃんと盗ってきたよなぁ、クソガキぃ? はよ出せや」

「……ご、ごめんなさい。やっぱり盗みはできなくて……」


「あん、われぇ? ワテが出せ言うとんのは、クソガキからの謝罪やない。高いネックレスや魔石や。

 はよ出せ。出さん言うなら、怖〜い目に合うのはわかっとるやろぉ?」


「ごめんなさい、ごめんなさい……!」

「謝って済むわけないやろが。クソガキの謝罪なんぞに、1ペルの価値もない。

 お宝を出せん言うなら、そやなぁ……。臓器出せや」


男はニヤニヤ笑いながら、背中に差していた刀を抜く。


「これで、腹ァえぐってやるよぉ!!」


緊急事態を察知した俺は、影から飛び出していった。

刀を抜き、その剣身をまっすぐに男へと向ける。


「これ以上はやめろ、腐れ悪党」



本音を言えば、もう少し奴らの企みを把握したいところだった。

もとより、この路地裏に来たのは、盗品販売の調査をするためだ。


やっと尻尾を掴んで、乗り込んできたところである。


だが、もちろん命には変えられない。少年を守れることの方が大切だろう。


男は、すぐに刀をこちらへ向け直す。


「……あぁん、なんだ、てめぇ?」


ついで、恫喝するように声を荒げ、ガンをつけてきた。


「見ねぇ顔だな、他所もんか? ここがどこだか分かってんのかぁ?」

「ローザスの町の路地裏だろ。それがどうした」

「はんっ、分かってねぇなぁ。ここは盗品街、いわば違法の裏販売所や。

 一般人が来るところやないんや。ひっひ。わかったら、とっとと帰りな? 臓器抉られたくなかったらなぁ……!」


もちろん、引っ込むわけもない。

俺はいっさい怯まず、剣を下ろすこともしないまま、言葉を返す。


「お前こそ、そのこどもを解放しろ。臓器抉られたくないだろ?」


「言ってくれるじゃねぇか、若造。せっかく忠告してやったのに無視たぁ、ひどい奴だぜ。

 お前みたいなヒョロッとした若造が、ワテに勝てる思っとるんか、われ? 殺すぞォ!!」


そのただただ汚い殺意には、まるで躊躇いがなかった。

男は、俺へと突きを見舞ってくる。


そのにやけ顔が、ふっと険しくなったのは、すぐ後のことだ。


「き、消えた!? い、いったいどこにいったんだ……!」

「ラベロ流・月影斬り!!」


俺は、得意の剣技をお見舞いしてやる。


高速の身のこなしにより、相手の背後へと抜け入り、身を低く沈めながらその背中を打ち叩いた。


「ガッァァァ……!」


男が、うつ伏せになって倒れる。

少し加減をしてやるべきだったか……? 白い泡をぶくぶくと吹いていた。


「怪我はないか、少年?」

「う、うん。お兄さん、強いんだね!?」

「まぁこの人が強くなかったとも言うけどね」


俺は肩の上で、とんとんと刀を跳ねさせる。

そこへ、


「てめぇ! この人を誰だと思ってやがる!! この盗品街を任された元締めさまだぞぉ!?」


男の部下らしき輩が、ぞろぞろと現れた。うーん、揃いも揃って物騒だ。


こちらへ刃を向けて、怒りのままに振り付けてくる。

こうなったらば、一気に薙ぎ払うしかない。


「少年。少し離れててくれるか?」


彼をチラッと見て、頷いてくれるのを確認する。

それから、


「ラベロ流・下弦半月斬り!」


俺は、襲いくる敵の足元を一気に払ってやった。

連中が、ものの見事に吹き飛んでいく。

路地裏から、外の小道まで出てしまうものすらいた。


あたりに積まれていた木箱が壊れ、彼らが隠し持っていた宝石などが、道へとばら撒かれる。


「なんて、強さだっ!!」

「尋常じゃねぇぞ、たった一振りでこれかよ!! お前、いったいなんなんだ?!」


後方にいて、攻撃を免れた男たちが、握った武器をそれぞれ震わせる。


俺は、ふむと少し頷いた。

知らないなら、この機に覚えてもらうのもいい。


なにせ俺は新参者なのだ。


「俺は、ディルック・ラベロ。この町の新しい領主だ」

「り、領主だと!? アクドーとかいう奴の後任か!?」

「そういうことだ。さて、大人しくお縄についてもらおうか。さもないとーー」

「い、いやだ! 臓器だけはご勘弁を!! 分かった、捕まえてくれていいから!! この通りだ!」


連中は膝立ちの状態になる。両手首を合わせて、俺へ突き出してきた。


……もちろん、盗賊連中の臓器なんていらないんだけどね?


ただ、十分な脅しにはなったようだった。


すぐに錬金魔法を用いて、その手足を拘束してやる。


「な、なんだ、これぇ……!? 今の魔法か、見たこともねぇ」

「そんなところだ。でも、盗賊に褒められても嬉しくないな」


俺は、先ほど蹴散らした男たちを含めて、次々に捕縛を繰り返す。


「おぉ、さすが若様! あの人数をこう簡単に倒してしまわれるとは……」


そこへ、声をかけてきたのは老剣士・バルクだ。

剣の達人であり、『気』の使い手である。


彼には、別の場所で同時刻に行われていた取引の場に踏み込んでもらっていたのだ。


「その様子だと、そっちも終わられたんですね?」

「もちろん。若様の期待に応えてこその老兵でござる。

 人数も少なかったのでな。襲い掛かってきたものは、全員のしておいたぞ」

「それは頼もしい。さすがです、バルクさん」

「おぉ、なんと光栄なお言葉か! 今ので寿命が10年は伸びそうでござる!」


そんなことで伸びるのなら、何度でも言うのだけどね?


どっちにしても彼は、俺がスキル【古代召喚】で呼び寄せた英霊である。

その身体は、外傷以外では滅びないはずだ。


「して、若様。その坊主は?」

「あぁ、そうだったね。いったん、話を聞こうか」


俺は少年の方へと向き直る。


ありがとう、と彼は俺の足にしがみついてきたのであった。



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