第37話 封印されし奥の手、解放します!



「怪我はなさそうで、なによりだ。コロロ、負担をかけたな。二人もありがとう」

「……我は、別に問題ないですよ、ディルック神様」


こんな時まで、神呼びかよ!


思えど、無駄口を叩くより伝えるべきことがあった。


「さっき、コロロの両親に会ったよ」

「……なんと! 無事でありましたか」

「うん、元気そうだった。だから安心して、まずは今を乗り越えよう」

「はいっ…………!」


俺は白龍から飛び降りる。

コロロが丸い目から涙を落とすので、ポケットに入れていた手拭いを手渡した。


泣くにはまだ少し早い。これが終われば、いくらでもその時間はある。


俺は空を振り仰ぎ、白龍へ命じた。


「三人をテンマまで運んでくれ! 大丈夫だとは思うが、村が襲われてるようなら戦力になってくれるか」

「……あい分かり申した、我が主人よ! 吾輩に乗るが良い、女方!」



白龍は並はずれて強いだけあって、その召喚には相応の魔力を使う。


さっきは戦の始まる前で、力を温存しようと思って召喚していなかったが……。


一度、出してしまったらもう一緒だ。



「ディル様! おひとりで、また戦場へ?」

「シンディー。うん、もう終わらせてくるつもりだよ」

「…………はいっ!! 妻はただ信じて待つこととします!!」


いやぁ、娶った記憶がないのだけど。


信用してくれているという点については、素直に喜ぶとしよう。


俺はすぐに気を取り直して、まずは獣人らの動きを封じていく。



彼らは一度命じられれば、それを達成するまで操られるらしい。

俺が攻撃しているにもかかわらず、白龍に乗ったシンディーたちを狙っていた。


「……まぁ、空飛ぶ相手に攻撃できるわけがないよな」


俺は空高く上っていく白龍の雄大な背を見て、ふっと笑う。


ならばここは、早々に元凶である幹部・ドルトリンの退治へ戻ったほうがよさそうだ。



彼を拘束した道具は、周りの木々で作った簡易のもの。

今ごろは、部下に斬らせて逃げ出しているだろう。



極力早く追わねばならない。


白龍から目を切った俺は少し迷った末、両手を重ねて地面へ向ける。


奴(・)は血の気が多く凶暴かつ、聞き分けがいい方でもない。


出すと面倒ごとになりそうで、これまでは召喚しないようにしていたが、今は非常時だ。



致し方あるまい。



「……古代召喚!」


詠唱に応えて、赤い閃光が俺の手元から放たれる。


「やっとオレの出番ってわけか! ディルックの兄貴よぉ!」


その中心から現れでたのは、赤い瞳孔に、目が痛むほどの極彩色をした体躯。


龍と対をなす生物、獣王・虎だ。

彼は、その身体から『赤虎』とそう呼ばれているらしい。


前にアクドーと対峙してから、この数ヶ月のうちに、手に入れた仲間だ。


「悪い、急いでるんだ。今すぐ西へ向かってくれ、赤虎!」

「わかった、暴れ散らしてやるぜ!! オレは白龍より早えんだ!」


「暴れてる暇はないんだ。一直線、急げ!!」

「相変わらず怖いのう、兄貴は。さすがは王の風格を持ち、オレの上に立つ男よ!」



赤虎は俺を乗せると、猛然と駆け出す。


その逞しい腕や脚は大地を抉るように蹴上げて、風をも切り裂く推進力をもたらす。


否、それどころか進路を阻む木々さえ、薙ぎ倒していく。



その速度は、桁違いであった。


後ろを見れば、ついさっきそこにあった景色が、もうかなり遠ざかっている。

しっかり掴んでいないと、振り落とされかねない。


「兄貴! 向かってくる敵は、蹴散らしていいのか!?」

「獣人でなければな。それも、殺さない程度だ。それ以上やったら……」

「本当怖いのう、兄貴は。しゃあねぇ、妥協する!」


大まくり上げだ。

森をトップスピードで横切り、ものの数分で、中心にある小道を抜ける。


やはり、ドルトリンは逃げ出していた。


けれど、見つけるまでにさほどの時間は要さなかった。


「ひっひひ!! このドルトリン様のしもべ達に葬られろ、ディルック!! あんな奴など、相手にならないねぇ。

 このドルトリン様に危害を加えたら、亜人がひどい目に合うって信じ込むほどのバカだぜ、まったく」


おめでたい発言を大声で狂ったように叫んでいるのだから。

目印として、これほど見つけやすいものはない。


……しかし、そうか。やっぱり、あれはブラフだったか。


「ついでだ、森全域を占拠するかぁ。今日は我ら『暁月の継承者』にとって、復活の狼煙をあげる日になるかもなぁ。守ってやろうとした亜人達に、仲間も自分も叩きのめされた奴の姿を見に行くか。

 今ごろ、ひどく腫れた面してんだろうぅ、ひっひひ!!」


取るに足らぬ悪口だ。


俺は冷静に聞き流していたが、血の猛る虎はそうはいかなかったらしい。


「兄貴、あれ、ぶちのめしていいか? オレは兄貴のことを貶める奴がこのうえなく嫌いなんだ。オレの兄貴をあんな奴に笑われて、ただじゃおかねぇ!!」


心が燃えれば、その秘めたる身体能力はさらなる高みに達する。


まだ少し先だったのだが、赤虎はほとんど一足飛びに、ドルトリンの後ろについた。


「な、な、なんだとぉ? 虎ぁ? しかも、ディルック!? く、く、くそ! なぜだ。防げ、ドルトリン様のしもべども!! ってくそ、もうほとんどが捕まってるだと!?

 使えない獣どもめ!!!!」


まさに赤虎が飛びかからんとする直前、俺はしっかりと命じておく。


「馬は可哀想だから避けろよ。あの上のやつは、いいよ。ぶっ飛ばしてしまえ」

「おぉ、兄貴! 任せてくれぃ!! 蹴らさせてくれるならなんでもいい」


赤虎は勢いを落とさず、ドルトリンへと迫る。


彼は馬を必死に叩いて、逃げさせようといたが、


「ひ、ひ、ひぃっぁ!!!?」


本気の獣王に速さで勝てるはずもない。

強く逞しい前足が思いっきり、標的のみを蹴り上げる。


「ぶわぁぁっ!!!」


ドルトリンが馬上から思いっきり弾き飛ばされたところで、


「助かった、ありがとうな赤虎!」

「最後のはかなり気持ちよかった!! 兄貴、暴れられる時があればまたオレを呼んでくれ!!」


俺は召喚を解いた。


宙に身体が放り出されるが、そこはうまくバランスを取り戻して、剣を抜く。


近くの木々を足場にして蹴上げ、推進力を得る。

そこで発動するは、赤虎から受け継いだ能力『獣王の猛り』だ。


瞬発的に出力を高めるその力でもって、


「ラベロ流・月影斬り!!!!」


追い討ちの袈裟斬り。

強烈な一撃を、ドルトリンに見舞ってやった。


一応、殺さないよう配慮して刃は逆に向けておいた。


ドルトリンはうつ伏せになっていた。その肩から、血が吐き出され倒れる。


もうまともに動けないだろうが、念のためだ。錬金作成により木の根でしっかりと縛りつけてやった。


さらに、その上へ土嚢を作り上げて即席の獄を作り上げる。


「ひどく腫れた顔してんのはどっちだよ」


その上に腰を落ち着けて、やっと息をつく暇を得た。

ふうっと短い深呼吸をする。


____________


【古代召喚】

四千年前の古代を生きた者の魂を実体とともに、現代に復活召喚させ、従わせる。

 また、そのスキルと同等の能力を得る。


(利用可能能力)

・龍の神力 レベル4/5

・錬金術 レベル5/5(MAX……進化能力あり)

・調味料生成 レベル3/5

・罠作成 レベル1/5

・剣士の『気』 レベル4/5

・獣王の猛り レベル2/5…… 伝説の猛獣・赤虎の瞬発的な剛力を手にする。


 領主ポイント 3500/5000


____________



赤虎を呼び出したことで、どうなったかとステータスを見てみれば、レベルが一つ上がっていた。


奥の手、大成功だ。

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