【コミカライズ2巻11/24発売!】追放貴族は、外れスキル【古代召喚】で英霊たちと辺境領地を再興する ~英霊たちを召喚したら慕われたので、最強領地を作り上げます~
第36話 【sideシンディー】わたくしたちの主人は絶対に勝つ。そうと決まっている。
第36話 【sideシンディー】わたくしたちの主人は絶対に勝つ。そうと決まっている。
「ディル様、本当に無事でしょうか」
「心配いらないわよ、シンディー。彼の強さは、召喚されて長いあなたが一番そばで見てきたでしょ?」
「それはそうですけどぉ。誰にも負けるなんて思いませんけど。妻は、いつでも旦那様が心配な生き物なんです〜」
「シンディー、あなたねぇ。うちだって本心は、彼のために戦いたいわ。
でも、うちらにはうちらの任務があるもの」
キャロットの言うことはたしかだが、である。
シンディーは、何度も後ろを振り返ってしまう。
「……たしかに、ディルック神様は強い。
ただ森全体の種族を苦しめる大量の敵が相手、そう簡単にはいかないかもしれません。
隣町の領主が代わってから、その侵略は亜人たちが束で対抗しても、止まってない……。かなりの難敵です」
手足を犬のそれに変えて、二人を乗せて走るコロロが不安げに言った。
その心配を、ふっと鼻で笑ったのはキャロットだ。
「大丈夫。今日が、その侵攻の止まる日よ。うちは、確信してる。だって、うちらの主人だもの。ディルック様は、絶対に勝つわ。そうと決まってる」
その言葉が、シンディーの胸を打った。
うん、たしかにそうだ。負けているディルックの姿は想像もできない。
ずっと一緒にいたから、ほんの少しの別れが、変に心をかき乱していたようだ。
シンディーは胸に手を当て、目を閉じる。お揃いで着けている腕輪に手を当てた。
そして、もう前だけ見ていようと心を新たにしたところだ。
そこに思いがけないものを視界に捉えて、シンディーは、前に座るキャロットの肩をつつく。
二人を乗せて走るコロロの背中を揺する。
「今度は何よ、シンディー」
「キャロットさん! なにか、走ってきてます!! あれ、なに…………って獣人さん!? うさぎの耳した人とか、手の長い人とか、たくさん! とにかく、たくさん、みんな武器を持ってこちらへ!」
動揺で、言葉を選べないまま発する。すぐ横を、矢が掠めていった。
なぜ獣人たちが自分たちを狙うのか。
分からないことだらけで、頭が混乱してきたところへ、
「シンディー、あなた錬金魔法は戦いで使える?」
キャロットが言う。
「……ディル様ほどうまくはありませんが」
「なら、うちらで止めるわよ。コロロは、そのまま走って!
シンプルに考えるのよ、こんな時は。余計なこと考えたらダメ!」
姉貴分にあたるキャロットの指示に、二人は頷く。
そして、対処へと打って出た。
シンディーは錬金術を用いて、迫りくる敵を封じ込めていく。
こちらも、敵も動きながらの戦闘だ。
なかなか狙いが定まらないが、それでも土壁や木の網を作り出し、攻撃を防ぐ。
それらをくぐり抜けた者も、即席罠にハマり足止めを食らっていた。
「やるじゃない、シンディー!」
「キャロットさんこそ、さすがの罠です!」
しかし、それにも限度があった。
錬金術も罠もすり抜けてきた亜人・手長族の振り翳した槍が、彼女らに迫る。
その後ろからは、矢も追ってきていた。
「く、くそ、このままじゃ人殺しになっちまうウキ。く、くそぉ!!」
ためらう言葉とは反対に、武器は振りかざされる。
「コロロさんっ!」
「すまない、そなたらを乗せてだとこれが限界だ」
その穂先が自らの喉元へ向けられて、シンディーははっと息を呑んだ。
錬金術を組もうにも、もう間に合わない。
そのとき、彼女の頭を駆け巡るように埋めたのは、主人の顔だった。
(……ディルック様!!)
道半ばで前世を終えて英霊となってから、4000年間。
ずっとずっと、現れるのを待ち続けた主人だった。
その召喚スキルは、天より選ばれし者のみに与えられる、とても特別なもの。
人を愛し平和を好み、努力を惜しまず、他人のために心底動けるうえ、王の風格を持つーー。
そんな稀有な人にしか発現しないと、英霊になった時からシンディーは自然と理解していた。
だからこそ、召喚された時は奇跡が起きたと思った。
彼は自分に再び命を与えてくれた、ものを作る機会をくれた。誰かのために作るという、至上の喜びに気づかせてくれた。
それだけで十分、彼は愛するに足る人だった。
でも、それだけじゃない。
彼と過ごす日々は、どこまでも優しくなによりも甘美だった。
今は、前世よりもずっと充実している。それはひとえに、愛する人のおかげだった。
なによりかけがえない彼を必死に思って、シンディーは目を瞑る。
果たしてその願いは、
「ーーーーラベロ流・月影斬り!!」
届いたらしかった。
凶刃は三人の誰にも傷を負わせず、一本の刀によって防がれる。
「安心してくれ、もう心配ないよ」
待ち望んだ人、たった少し離れるだけでも焦がれてやまぬ人。
シンディーにとって唯一無二の男、ディルック・ラベロが龍の背に乗り、そこにいたのだ。
「ディル様ぁ! ディル様ぁ、ディル様ぁ!!」
「こら、シンディー。まだ戦ってる途中だから。でも、無事でよかった」
笑顔を向けられ、シンディーは、じわりと心を満たされ涙を禁じ得なかった。
やっぱり来てくれた、ご主人様は。
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