第27話 新たな召喚英霊『キャロット』。古代城造りはじめました。

順調そのもの。


そう思った矢先に、そのニュースはもたらされた。

商人たちが去り際に、親切心で教えてくれたのだ。


「あいつが、アクドーが、隣町・ローザスの領主になったですって……? むむぅ、わたくし殴り込みをかけても!?」

「やめとけよ、シンディー。こっちから手を出す意味はないから」



たしかに驚くべきことではあったが、俺はすぐ冷静になった。


中央政権を追われた貴族が地方へ飛ばされるのは、よくあることだ。

なにも、こちらが浮き足立つような話でもない。


「でも、ディル様の領地は広がったんですよね? ローザスと接する森も、中心にある細道まではこちらの管轄範囲なんじゃ……」



シンディーの心配は、確かに一理ある。



ゲーテ王の計らいだろう。

アクドーを捕獲した手柄により、俺の任される領地は大幅に拡大していた。



前は村周辺程度だったが、海際や森などが加えられ、土地の広さだけ見れば、もはや並み居る伯爵家と同程度である。


広がった分、アクドーの領地と隣り合わせになってしまったわけだが。



「大丈夫だよ。万が一襲われても、対処できる用意は進めているからね」

「……それって、お城計画のこと?」


「それもその一つだな。ちょうど様子を見に行こうと思ってたんだ。不安なら、シンディーも来るか?」

「はわっ、それってデートのお誘い!? はわわわ、もちのもち! はい、わたくし行きまーす!!」


誰もデートとは言っていないのだが、もう否定しても仕方なさそうだった。


頬を抑えて、きゃぴきゃぴと足を跳ねさせる。




腕に引っ付いて離れない彼女を連れて向かったのは、村の外周にあたる空き地である。


集落がある場所は盆地のようになっているため、少し標高が低い。


そこは一見、草原がただ広がるだけの場所だったが……


「シンディー! そこ足元、危ないわよ!」

「ふぇっ、なにっ!?」


そこにいた女性の鋭い指摘を受けて、シンディーは俺の腕にしがみつき、足を浮かせる。


「ディル様、穴です、穴!」


恐る恐る下を見てみれば、驚きだった。

そこには大きな落とし穴ができていて、底が見えない。


「なにしにきたの、二人とも。仕事の最中よ」

「まぁまぁそう言わないでくれよ、キャロット」


彼女は、最近召喚した少女であるキャロット・サンデー。


その昔、古代においては土木工事のプロだったらしく、城を作った経験もあるほど、彼女の腕は立つ。


男たちを指揮して仕事をしていただけに、やや人当たりは強い。


「これ、対侵入者用の罠か? ここまで精巧だと、気づかれようがないな」

「で、で、ディルック様!? あ、当たり前よ! 当たり前のこと褒められても、別になんとも……なんとも、ないんだからねっ!!?」


ただ、とにかく褒められるのに弱かった。


なんとも真っ赤な顔で、ぶんぶんと振り乱すは、ポニーテールに結んだオレンジ色の髪だ。


くるくると巻いた癖っ毛が、ぴょんぴょんとあちこちで跳ねる。


「キャロットさん! あんまり可愛くして、わたくしの主人を誘惑しては許しませんよっ」

「うちが可愛いなんて、シンディー! や、やめてよ、恥ずかしい。別にそんなこと言われたって嬉しくないし!」

「うぬぬ、なんて乙女なのっ。悔しいけどキャロットさん可愛い……」



二人の会話はだいたい噛み合わないが、おかげで平和そのものだ。


にこやかに眺めることができる。


足元のどこにあるか分からぬ罠地を除けば、という条件付きではあるが。


「キャロット、それで調子はどうなんだ? 村の砦はできそうか」

「えぇ、もう少しで完成よ。土台はもうできてるし、罠も万全だもの。

 敵が踏み入ってきても、ここは針のむしろ。

 そもそも侵入させないための柵作りも、ドワーフたちと連携して揃ってきてるわ」


彼女が工具を手にしたまま指した先には、大量の柵が積まれてある。


「えへん、わたくしも手伝いました」


シンディーも、錬金術師として参加してくれていたらしい。


「いまのところは、順調よ。いずれ、この辺り一帯を、立派な山城にして見せるわ! 

 あなたを守る立派な城を作る。そのためにうちは召喚してもらったんだもの」



彼女らが躍起になっているのは、テンマ城建築計画だ。


キャロットを召喚した際に、有志で検討した結果、生まれた案である。


城の建築は、古代文明の再現、さらにはその進化のためには欠かせないピースだ。



防衛面や拠点としての役割など機能面の便利さもそうだが、正直俺自身が見てみたいし、建築に携わってもみたかった。



「うん、夢があっていいな! 俺も、昔から城は大好きだ。

 城主になってみたいとは思ってなかったけど、憧れてるのには違いないな」


「うん、男の夢が詰まってるわよね、お城!」



女性であるキャロットが大胆に開けた胸元を揺らして言うのだから、矛盾している気もするが、ここは流しておく。


「なにか手伝えることはあるか?」

「あっ、わたくしもやりますわよ!」


「じゃあ、そこのたくさんの柵に『ねずみ返し』をつけてもらってもいいかしら? これで、下から攻めてくる敵の矢は中に届かなくなるのよ」

「「了解!」」


組み上げ作業は、錬金術のおはこである。


そして俺にとっても、錬金魔法は得意技になっていた。


シンディーと協力したこともあり、あっという間に作業が完了する。

積み上がったのは、完成品の防御柵だ。


「ディル様、本当にお上手になられましたね?」

「そりゃあ、毎日のようにやってきたからな。今なら、こんなことだってできる」


俺はあたりの土と岩に錬金術をかけて、さくっと椅子を作り上げた。


ぱちぱちと、シンディーもキャロットも手を叩く。


自分でも成長を実感したのち、久しぶりにステータスを見てみれば、


____________


【古代召喚】

四千年前の古代を生きた者の魂を実体とともに、現代に復活召喚させ、従わせる。

 また、そのスキルと同等の能力を得る。


(利用可能能力)

・龍の神力 レベル4/5

・錬金術 レベル5/5(MAX……進化能力あり)

・調味料生成 レベル3/5

・罠作成 レベル1/5

・剣士の『気』 レベル4/5

・獣王の猛り レベル1/5


 領主ポイント 1500/5000


____________



錬金術は、レベル上限に達していた。


だが、表記を見るに、まだ上位のスキルもあるらしいから、ますます励みがいがある。



気分の乗った俺は、シンディーと一緒になって、キャロットの作業を手伝う。



「たしかにお城が完成したら、防衛はばっちりですね!」


終わる頃には、シンディーも安堵してくれていた。

けれど、まだまだ対策はなにもこれだけではない。


「次は、剣士バルクのところに行こうか」

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