第26話 領地経営、視界良好!




季節は流れ、強い日差しが高くから降り注ぐ時分。


辺境地・テンマは、その太陽にも負けぬほどの盛りを迎えていた。



「いやはや、これほど賑やかな村になっていたとは。我々商人はさまざまな場所に赴きますが、ここまで栄えた村は見たことがない」


「それはなによりです。でも、まだまだ発展途上ですよ。管轄領地も広がりましたし、やらなければならないことが山積みだ」


「謙遜なされるな。多種族との共存を実現している村など、テンマをおいて他にない。

 それも、あの寂れた限界集落をあっという間に立て直したんだ。ディルック様には領主の才能もあったのですなぁ」


『メイプル商会』の商人が、村を見渡して感心したように言う。


もうこの村を訪れるのは数回目のはずだが、その度に変化の著しいこの村に驚いているらしい。


その目線の先にあるのは、ドワーフらの作った魔導具工場だ。


中では村人もドワーフも入り混じって、作業に励んでいる様子が伺える。


手前では生活道具の作成、奥ではクマベアたちの使う武器の作成が進められていた。


監督を任せたシンディーも、生き生きとして働いている。


「うぅむ、滅多にない光景だ。くわえて、変わったやり方をしておりますなぁ」

「その辺りは、ドワーフたちの知恵ですよ。パーツごとの分業制にしているんです。誰でも得手不得手がありますから」


「なるほど……! 素晴らしい。そういう意味で言えば、外の獣人も適材適所ですな」

「えぇ、彼らは見ての通り、屈強ですから」


売り物を扱う場所であるため、警備も厳重にしてあった。


工場の前を守るのは、クマベア族である。

いっそう逞しくなった体が、日差しを跳ね返して眩しい。



あれから、ドワーフやクマクマ族の一部は集落へと帰っていった。

族長のドワドやクマリンは、今この村にいない。


けれど、よほどこの村での暮らしを気に入ったらしく彼らの一部はここに残ってくれた。


今でもこうして、大事な労働力となってくれている。


「ディルック様。では、また近いうちに、来させていただきます。魔導具は飛ぶように売れていますし、それに伴ってメンテナンス依頼も増えていますゆえ」

「よかった。聞けば、みんなもきっと喜びますよ」


「それにしても、メンテナンスを商売にするとは、ディルック様はお上手ですな」

「壊れたら全て買い換えるというのも、もったいないですからね」


俺は、営業スマイルで答える。


メンテナンス作業代を貰うことで定期的な収入を得られるのは、財政面で見るととても大きいのだが、そう正直に言うものでもあるまい。


その辺りの交渉の術は、側近だった頃に心得てあった。


「では、私どもはそろそろお暇させていただきます。今後とも我が商会をよしなに」

「えぇ、こちらこそ。そうだ、ここからは長旅になるでしょう。最後に、料理でも食べられていきませんか?」


「そこまでお世話になって、よろしいのですか」

「こちらから提案してるんですよ。ご遠慮なさらず」


来客への接待についても、手慣れたものである。


少しでも良い気持ちで帰って貰えば、次の商談がスムーズにいきやすい。


俺は、商人ら一団を屋敷の外れにある建物へと通す。

そこには、新しく食堂が構えられていた。


もちろん店主は、シャイすぎるあの子だ。


「いいい、いらっしゃいまへっ!」


……のれんをくぐるや、アリスの噛み噛みな声が聞こえてくる。


最近やっと村人たちには慣れてきたようだが、見知らぬ来客を迎えるとなれば、そうはいかないらしい。


「な、なににされますか?」


姿を見せないまま、注文を取る。


「……店主殿はどうかされたのですか?」

「えーっと、まぁいつものことですから。でも、料理は抜群ですよ」


そのまま待っていると、少しして厨房の中から彼女は出てきた。

両腕いっぱいに器用に皿を乗せて、それらを速やかに配膳する。


「どうぞ! こちらは今日の朝一で獲れた鹿肉を、お米とスパイスで炊き上げた特製ピラフだよ!

 それから、その横はこの村で収穫したばかりのキャロットを甘く炊き上げたうえで、バターをまとわせて炙ったバター焼き。あとはーー」


料理のこととなると、熱の入りようが違う。


商人らは、ついぞ先ほどの店主と同一人物とは思っていないようだが、あえて言うまい。


実際、アリスの料理は絶品だった。


「おぉ、これなら遠距離の移動も楽勝かもしれない!」

「すげぇ、なんだこれ。どこからか力が漲る!」


「そうでしょ! これは、テンマ村のお米とお野菜が美味しいからできてるんだよ! 料理は土から。しっかりと水捌けにも栄養の吸収にもこだわっててねーー」


アリスに熱弁を振るわれながらの食事時間となる。


その美味しさに、あまりに押せ押せなトークに、彼らは無事にペースを持っていかれたらしい。


食べ終わると、手を合わせて嘆願してくる。


「ディルック様、こちらの食材もお売りいただけないでしょうか!」

「構いませんよ。そのかわり、テンマのものだと強調して売ってくださいね。

 ブランド化したいと考えてますから」


俺はすぐに懐に忍ばせていた注文伝票を彼らに手渡した。


いつでも取引の用意がある。


「お任せください。これなら、魔導具と変わらぬ売り上げを獲得できるかもしれない。

 思わぬ収穫でした。遠方だが、くる価値大有りですなぁ」


「ふふ、それはよかった。そうだ、道中での食事に、携帯食料もどうです?」


ここで、可愛い顔がぐいっと割り入ってくる。


「携帯食料って言っても、あたしが作ったものはちゃんと美味しいよ!」

「で、ではそれも……」

「毎度あり♪ アリスの持ち歩きご飯、一つ500ペル!」


ものづくりも、農作も、それから商売も。


うん。古代文明の再現へ向けて、順調に進むことができている。


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