第23話 歴然の差はずっと昔からそこにあった。




「馬鹿な強がりだ。ディルック、お前に選ぶ権利などないと言っただろうが! いいから早く僕に忠誠を誓いたまえ!!」


「断るよ。さっきも言っただろ」

「はんっ、お前がこの誘いを断ると言うことはどういうことかわかるか? 

 僕の捕まえた商会の奴らの命がどうなっても……」

「残念だったな。それなら、もう解放したよ」


アクドーは、なにっ!? と喉をひっくり返らせ、後ろを振り向く。


「な、なに、お前らどうやって……!? きつく結んで、動きすら取れなかったはずじゃ」


そこには縄を解かれた商人たちと、


「それに、なんだあの怪物は…………! 新種の魔物か?」

「魔物じゃないよ。あいつは、俺の仲間だ」


空を悠然と羽ばたく白龍がいた。


彼は、「いかにも!」と答えて、俺のそばへと羽ばたきやってくる。


「ありがとう、もう下がっていていいよ」

「承知した」



召喚魔法を使ったのは、アクドーが俺に怒りをぶつけている時だ。


視界がかなり狭くなっているのは、簡単に見てとれた。

隙だらけだったので、召喚はかなり容易だった。


すぐに俺の意図を汲んだ白龍は、その鉤爪で商人らを縛る紐を断ち切った。


「なんだか分からないが、助かったぞ……!? ありがとうございます」


商人たちは、疲れ果てていたのだろう。馬車から這うように出てきて、俺へと感謝を述べる。


「テメェが逃げるのに成功したからって調子のんじゃねぇ! お前らの家族は皆殺しだ!」


アクドーの恫喝に再び彼らが怖気付くが、


「そんなことはさせないよ。もし危ない目に合うようなら、テンマで暮らせばいいだけのことだ。

 それと、危ないから離れていてくれるか?」


俺の言葉に再び顔を明るくして、すぐに従ってくれた。

その様子に、アクドーの眉間にはまた皺が刻まれる。


「ディルック、てめぇごとき下っ端が、勝手に僕の決定を覆したんじゃねぇぞ! 辺境領主ごときに、口を開く権利もねぇ! もうムカついた、お前は処刑だ処刑!」


剣を振り上げ、向かってくる。


全くなっていない剣筋だ。がたがたに歪んでいる。

乱暴に振り回すことしか知らないのだろう。


「水の波動! 纏い水の剣! ははっ、魔法の使えねぇ雑魚相手に使うにはもったいねぇなぁ!! いい最期だろ? 僕の水魔法を浴びて死ねることをせいぜい感謝するんだな。はははっ!」


……まぁ使えるようになったんだけどね?


むしろ、龍の火を扱うこともできる。


しかし、あえてそれを使う必要もなさそうだ。


なんて単純な剣だろうか。剣術道場の子どもでも、もう少しうまく扱う。


ラベロ流の身のこなしでもって、俺は刀をかわし脇へと抜けた。

アクドーがそれに反応できずに、いや知覚すらできずに、


「叩き斬ってやる!!」


と恫喝したところ、その横腹を突いた。

刃ではなく、刀の柄でたった一回だけだ。


アクドーの憎たらしい顔が、視界から消える。

彼は、もう膝から地面に崩れ落ちていた。

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