第21話 【アクドーside】あいつを連れ戻して、僕の部下にしてやる!!




ーーそんな王の思惑など、つゆ知らず。



暇を言い渡され、謹慎の身となったアクドーは、一人、とある計画を練っていた。


賑やかなる王都も静まり返る深夜、彼は人目を盗んで屋敷を抜け出す。


この時点で、王の意志に背いたことになる訳だが、彼にその意識はなかった。

そのうえ、


「おい、お前ら! 大人しく、手をあげるんだ。僕が誰だか分かるだろう!?」


罪なきキャラバンに刀を抜き、怒鳴り上げる。


彼が襲い掛かったのは、メイプル商会が率いる馬車だ。


突然剣を向けられた商人らは、なす術を失って、アクドーの言う通りにする。


「ふっはっは、それでよいのだ。底辺商人どもめ」


全員をひれ伏させて、彼はそれを御満悦げに見下ろした。


「アクドーさま……! ご、ご要求は……?」

「僕は安全かつ速やかに、テンマという場所まで行きたい。そこで、僕の配下に加えたい奴がいるのさ。

 貴様らも、そこまで行くのだろう?」


「な、なぜそれを知っておられるのですか」

「そりゃあ僕は、天下を統べる王の側近様だぜ? それくらいの話は、耳に入るんだ。ひっひっひ!」


ろくに仕事はしなかったアクドーだが、こと得た情報の悪用に関しては、すぐに頭が回った。



「雑魚商人ども。このキャラバンはこれから、僕の護送車だ!! この紅葉の旗は、ヒギンス家がもらった!」



狙いはもちろん、ディルック一人だ。


彼がいた頃は政治も経済も、うまく回っていたというのなら、連れ戻せばいいだけの話。


そう考えたのだった。



ただし、王の側近はあくまでアクドー自身である。



ディルックを子分として自分の影におき、ひたすら働かせるというのが、彼の目論みだった。


そうすれば、自分は労せずして失地を回復し、再び権力の蜜にありつける。


(あいつは仕事人間。喜んで、すぐに飛びついてくるだろうよ……! へっへっへ)



聞くによれば、テンマはとんでもない危険地とのことだ。

領主に任命されたものが逃げ帰ってくるような場所らしい。


どうせディルックも散々な目にあっているだろう。


交渉するまでもないかもしれない。


むしろ、あのディルックに泣き付かれるんじゃないか。

憎き男が自分に縋ってくる姿を思い浮かべると、もう堪えきれなかった。


「ふっ、ふっはははは………!!!!」


我ながら完璧な計画だ。

アクドーは、つい高笑いしてしまう。


夜の王都にそれは、むなしく響き渡ったのだった。





道中のアクドーは、めちゃくちゃな要求を商人らへ強いた。


売り物の食料を勝手に我が物扱いで食い荒らし、自分に逆らうものがいれば容赦なく剣を抜き首に刃を押し当てた。


それでも、商人らは誰にも助けを求めることができない。

彼らを怯えさせたのは、その背後にちらつく強大な権力だ。


「僕の命令を聞かなかったら、君たち一族を根絶やしにすることだって簡単なんだぞ?

 さぁ早くテンマへ行け! 貴様らのような下っ端商人に休みなどない!」


それを全力で振り翳し、アクドーは完全にそのキャラバンを掌握していた。



逆らったものを縛り付けにし、彼らから全ての武器を取り上げる。


息苦しそうに悶える商人の髪を引っつかんで、アクドーは世にも汚い笑みを見せた。


「貴様らは、ディルックへの人質にしてやる。もしあのカスが、僕の配下につかないというなら、貴様らの命がどうなるか分かるなぁ? ふふ、ふははっ、はぁーっはっ!」


これで、なにもかもうまくいく。


一切の曇りなく、アクドーはそう本気で思っていた。





テンマへと向かう一歩一歩が、終わりへと近づく道とも知らず。

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