第19話 【アクドーside】怠慢で王都に魔物を侵入させる。戦の現場に駆けつけるも、足を引っ張る。



部下からの忠告を無視し、現実逃避へと走った代償は、あまりにも大きかった。


「な、なんだと……王都へ、魔物の侵略を許した!?」


その夜も、なすべき仕事を放棄し街で飲み歩いていたアクドー。


もたらされた情報は、ご機嫌だった彼を、一気にどん底へと叩き落とした。


報告にきた者は焦った様子で、続きを伝える。


「は、はいっ。今しがた、西の山より侵入を許したとのことです」

「なぜだ、警備兵たちはどうしたと言うんだ」

「それが、明白な指示が与えられなかったとかで、対処がうまくいきませんで……」


肝が冷え、一気に酔いの覚める心地がアクドーを襲う。


そういえば、魔物の侵入について判断を仰がれていたのだった。


うろ覚えの記憶が、段々とはっきりしてくる。


まずいことになってしまった。

これが王に知れれば、このまま街が荒らされては大問題である。


せっかく憎きディルックから奪った地位を、剥奪されかねない。


「おい、くそ伝令! 早くその場所を教えろ、僕がじきじきに行って指揮をとってやる!」


鍛えてこなかった頭をひねった結果が、こうだった。


戦果をあげて、もみ消すほかない。


実に安直な考えだったが、とにかくアクドーは酒の回ったまま、戦場へと向かう。


王都の西側からやってきていたのは、タテガミウルフなどの小物から、怪鳥の別名があるクレイジーバードのような大物まで。


多種多様な魔物である。


すでに、衛兵や冒険者たちが入り乱れるように戦闘に入っていた。


「僕が来たからには、もう大丈夫だ! さぁ、僕の命令通り動けよ!!」


その中に割って入り、アクドーは声をあげる。


しかし、誰もそれに耳を貸すものはいなかった。

各々が必死に戦闘している空間に、それは場違いに響き渡る。


アクドーの悪評は、部下たちにより、この場にいた兵士らにもう広まっていた。


アクドーが判断を遅らせたことが、この状況を生んでいることも、もちろんである。



彼に従っては命を落とす。


誰もがそう判断をしていた。

名家の息子とはいえ、戦は地位で争うものではない。


それを兵隊たちは、よくわかっていたのだ。

彼らが指示を仰ぐのは、王都衛兵団の団長である。


「ディルック様に教わったとおりに動くぞ。こういう時こそ、個々の動きではなく全体を意識しろ! 右手が手薄だ!」


その命令は、この緊迫した状況下でもとても的確なものだった。


彼は、文官だった頃のディルックと関わりがあった。


ラベロ家が代々各地の護衛を司っていることを知っており、戦術や傭兵術を習っていたのだ。


「なぜ、僕の言うことを聞かない!! 貴様ら、全員クビにしてやろうか!?」


なおも吠えるアクドーだが、その脅しに耳を貸すものは誰一人としていない。


夜の戦場に、その声はただむなしく響き渡っていた。




結果として、魔物らの襲撃が王都にもたらした被害は、最小限のみで済んだ。


しかしこのアクドーの大失態が招いた事件は、王の耳にも届くこととなる。

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