第13話 テンマ村の活気は、毎日最高を更新しているようです。




それから数日。



テンマ村の活気は、衰えるところを知らなかった。


囚われの住民たちが集落へ戻るとともに、ドワーフやクマベア族たちが加わったことが大きかった。



すでに、彼らの家も建造済みだ。

驚いたことに、俺とシンディーが商談を終え、街から戻る頃には、それらは出来上がっていた。


「むろん、あばら屋ですが、とりあえずの住処としては十分でしょう」


ドワーフ族長・ドワドはこう言うが、その域はまず超えている。


たしかに簡易的な作りではあるが、見たところ、海風で大きく揺すられるようなこともない。


村で溜め込んでいた木材を利用しただけだというが、かなりの精度だった。


ただ彼らは、それでも納得していないようで、


「おい、おらたち受けた恩はーー!?」

「「耳揃えて返すぞっ!!」」


過大なほど懸命に、建築作業に取り組んでくれていた。

仮の作業場では、トンカチ音があふれる。



一方、同じくテンマ村へとやってきたクマの獣人らも、やる気は十分だ。


「もう、あんな変な連中に負けないよう、訓練を積みたいと思っております」


とは、クマベア族リーダーのクマリン。


唸り声をあげながら、剛毛が逞しく生えた上腕二頭筋を、くいっと盛り上がらせてみせる。


不意をつかれさえしなければ、あの人攫いたちに負けるような力量ではない。

少なくとも、俺の目にはそう映っていた。



その姿を見て怯える村人(とくに子どもたち)もいたが、そこはおいおいだろう。


「大丈夫だよ、彼らは味方さ。同じく辛酸を舐めさせられてきた同類なんだ」

「……危なくないの?」

「そうだね、きっとそうさ」


少なくとも、一緒に捕まっていた者は、彼らが安全であることを知っている。


深すぎる溝はない。

ならば一緒に過ごす時間が増えることで、きっと慣れてくれるだろう。



とすれば、早急にどうにかすべき問題は、この荒んだ畑の方だ。


俺は、村人たちが作業に勤しむのを手伝いつつ、唖然としてしまっていた。


「もしかして、毎回そうやって水を汲んでいるのですか?」

「領主さま! 今日も、お力を貸していただきありがとうございます。お慕い申し上げます。

 はい、これこそ私どもの生活を繋ぐ大切な水ですよ。川の水と違って、塩が混じってないんです」


若い村人の一人、レティシアが作業ながらに教えてくれる。


もう妙齢だろうに、同じ年頃の女性と比べると素朴で屈託のない笑みを浮かべていた。

彼女にとってそれは、疑うべくもなく当たり前の作業なのだろう。



先ほどから彼女は、湧水の出る小さな沢と畑の往復を繰り返していた。

水を桶で汲んできては、畑に万遍なく撒きつける。


「……なんというか、手作業ですね。わたくしたちの時代では、見たことない光景かもです」


シンディーは、瞬きを繰り返して、不思議そうにその光景を見ていた。


農具の改善をしたとはいえ、これでは効率化に程遠い。そして、村人たちの疲れも明らかだ。



見てられなくなって、俺は畑の外れで錬金術を使うこととする。

用意したのは、館に残っていた魔石と木材や鉄の欠片だ。


「ディル様、まさか……?」

「そのまさかだよ。シンディーと一緒に錬金をやってきたおかげで、俺もだいぶこの魔法を扱えるようになってきたからな」



____________


【古代召喚】

四千年前の古代から、そのものの魂と身体を召喚するスキル


(利用可能能力)

・龍の神力 レベル3/5

・錬金術 レベル3/5


 領主ポイント 800/1000


____________



その証拠に、錬金術のレベルは順調に伸びていた。


使える技量がついてきたうえ、俺には白龍の魔力がある。


「ーー錬金作成!!」


力を振り絞りながら、一方で精度を落とさぬように。

その両立を必死に心がけながら、体内の魔力と空気中の魔素を反応させ、目的の物を作り上げていく。


「ディル様、本当にすごい……! こんなもの、四千年前だって作れた人はいないですよ、きっと!」


生成したのは、例の水が湧き出るグラスを参考にしたもの。

触れると、透き通った綺麗な水が、樽の中に溜まっていくのだ。


「みなさん、とりあえず、これを使ってください。十分じゃないかもしれませんが……」

「いや、十分すぎますって領主様!」

「すげぇ、なんだこの人! 本当に神なのではなかろうか」


村人たちが、樽を囲むように覗き込み、口々に言う。

ちなみに、どうしたって俺は人間でしかない。



「ありがとうな、シンディー。おかげで、ちょっとずつ上手くなってきた実感があるよ」

「ディル様に感謝されるなんて、わたくし、幸せすぎて卒倒しそうです♡」


赤らむ両頬を抑えて、いやんいやんと首を振るシンディー。


少し、熱を冷ましてやる必要がありそうだ。


俺は、水の沸く大樽を囲んでいた村人の中から、レティシアに再び尋ねる。


「さっきの湧水を汲む作業は、昔からやってきたんです?」

「はい。でも、昔はもっと湧水が出ていたみたいです。なにがあったのか、最近ではかなり少なくなってしまって……。

 だから、本当にありがとうございます! お礼しか言えないのが、心苦しいくらい感謝してます」


ぺこぺこと、お辞儀を連続で繰り出すレティシア。


一方で、俺は少し考え込んでいた。


ふむ。彼女のを信じるなら、もともと湧水は十分にあったということになる。



なにか、水源のある山奥で問題が起きているのだろうか。


調査してみる必要があるかもしれない。



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