第14話 クマベア族に戦闘指導します!
日を見たのち、俺は山へと出向いていた。
「ご同行できること、俺たち、誇りに思いますぜ! 領主様!」
はじめは、一人で行くつもりだった。
テンマ村の背後に聳える山は、深い森になっているため、瘴気が濃く魔物を引きつけやすい危険地である。
その頂上付近などは、どんな強敵が伏せているか知れたものではない。
万が一にも、仲間を危ない目に合わせたくなかった。
そのため、ついてきたがるシンディーも振り切ってきたのだが、
「ハッハハ! 俺たちクマベア族は、基本的に近郊にある『白狼の森』を拠点としてきたが、あの山には獲物を取るため何度か入った。
水源までの案内なら、任せてください! 過去に行ったことがありますから」
クマベア族の代表・クマリンがこう申し出てくれたので、受けることにした。
彼らほどの強さなら、自衛くらいはできよう。
それだけではない。
「同行がてら、戦闘訓練までしてもらえるとは……! 腕が鳴るぜ!」
「おう。たぎってくるなぁ、クマベアの血がよ!」
より鍛えるという意味でも、いい実践の場になる。
彼らのレベルアップは、それつまり、村の防衛力向上につながるはずだ。
外れスキルを賜ったせい、騎士団に加わることこそできなかった俺だが、戦術などは一通り実家で叩き込まれてあった。
仲間相手に、その指導を惜しむほど、俺はケチな人間ではない。
隊をなして、険しい道を登っていく。
といって、もはや道はないに等しかった。
人の侵入を阻まんとしているかのごとく、木々は鬱蒼と茂り、地面は起伏が激しい。
その途中でやっと開けた場所を見つけて、俺は隊を止めた。
「どうしたんです、領主さま。沢の源流はまだ先ですぜ?」
「わかってるよ。どうせ山に入るんだ。ついでだから、猪を捕獲する仕掛けでも設置しておこうと思ってね」
このために、白龍を召喚せずにやまへとはいったのだ。
「みなさん。よければ、手伝ってもらってもいいかな」
「おぉ、さすがだ。目的をいくつも同時にやろうとするとは。頭が切れる人だ……! もちろんです、光栄なくらいだ!」
クマベア族の快諾を受けて、俺が背中に負っていた鞄から取り出したのは、四隅に重りのついた網だ。
シンディーとともに、錬金で作り出したものである。
それらを獣人たちにも手伝ってもらい、あたりの地面に広げて、葉で覆い隠す。
「……領主さまよ。大変言いにくいが、こんな網じゃまともに捕獲なんざできないだろう」
「これ、重りが魔石になっているんですよ。少しでも網に足をかけようものなら、絡みついて離れないんです」
そう、見た目は変哲もない網だが、獲物がかかった瞬間、その強度が増す仕様になっている。
ちなみに万が一、人が引っかかった場合は、全ての魔石に触れることで解除もできる。
いわば、セーフティつきの自動捕獲網だ。
肉を求めて、村人たちが危険を冒すことが減ってくれればいい。
そんな狙いがあった。
「あとは、獲物がかかるのを待ちましょうか。みなさん、決して網を踏まないようにしてくださいね」
注意を促しつつ、俺たちは再び山を登り始める。
中腹までやってきたところ、道を阻んだのは、三つの頭を持つ狼・ケルベロスだ。
たち住まいに風格も感じられ、決して見掛け倒しではなさそうだった。
「グオオオオンン!!!!」
それぞれの頭を共鳴させるように、ケルベロスは咆哮をあげる。
前足で地面を蹴り上げて、俺たちの隊へと飛びかかってきた。
思わず刀に手が伸びかけるが、ここは俺が戦うのでは意味がないのだ。
「ケルベロスはかなりの強敵……。だが、ここで逃げるわけにはいかない。領主さま、ご指示をください」
「うん、よろしく頼む!」
俺はケルベロスを避けながら山肌を上へと駆け上って、全体が見渡せる場所に位置どる。
「近接部隊はまずは分散して、ケルベロスを囲い込め! そのうえで、投擲部隊は山上に陣取って身を隠すんだ!」
すぐに、作戦を伝えた。
ケルベロスは、頭が三つある分、その視界が広い。
そのため、目の前の戦いに没頭させることでまずは狭めてやるのが有効なのだ。
「やるぞ、てめぇら! クマベア族の意地、見せてやる!」
近接部隊との交戦が始まる。
戦闘用だろう、彼らは腕を太く逞しい野生味溢れるものへ変形させた。
ただし、油断は禁物だ。
いかにクマベア族が屈強といえど、ケルベロスは魔物の中でも、かなりの耐久力を誇る。
簡単には、倒れてくれなかった。
しかし、引き付けるという意味ではもう十分だった。
「今だ、投擲!」
ケルベロスめがけて、草陰から大石が投げ込まれる。
「クォォ……!!」
目論見通り、顔や身体にヒットしてくれた。
それにより、怯んだところがさらなる隙だ。
近接部隊のうち、槍を持つものたちが一斉に突き刺しにかかる。
と、ケルベロスは倒れこみ、それきり動かなくなった。
無事に討伐は成ったようだ。
「……おぉ、本当に俺らがやったのか? すげぇぞ、領主さまの作戦! こんなにあっさりケルベロスを仕留めたのは初めてだ」
「すげぇ、これまでは本能のままにやっていたが……そうか、こんな連携があるのか」
クマベア族らが、こんな会話を交わし、そのまま戦闘談義に入る。
そんななか俺は一人、ほっと息をついていた。
戦術を知ってこそいたが、誰かに指導をしたのは初めてのことだ。
それといえば、戦闘で誰かを指揮したのもこれが初である。
まず、うまくいってよかった。
「領主様! 引き続き登りましょうぞ」
「うん、少し急ごうか。日が暮れないうちには、村へ戻りたい」
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