【コミカライズ2巻11/24発売!】追放貴族は、外れスキル【古代召喚】で英霊たちと辺境領地を再興する ~英霊たちを召喚したら慕われたので、最強領地を作り上げます~
第10話 捕虜を解放したら領民が増えた話
第10話 捕虜を解放したら領民が増えた話
捕まえた人攫い集団が口を割るまでに、さしたる時間はかからなかった。
彼らが目を覚ました明くる日、
「わ、ワシらの巣なら、海沿いにある洞窟の下だァ! だから、これ以上はやめてくれぇっ」
「その程度の情報で、やめると思う? 旦那さまに手を出そうとした輩に、わたくしが、あまーい情けをかけるとでもぉ!?」
「ひ、ひぃっ!?」
シンディーが、強制的に口を割らせたのだ。
そこまでしなくてもいいと伝えたのだが、彼女は止まるところを知らなかった。
「はん! ワシらのリーダーを舐めんなよ。場所が分かっても、あのアジトは簡単に入れるような代物じゃーー」
「ねぇ、どうやったら入れるのー?」
「答えられるわけがないだろ!」
「答えなさい、今すぐよ」
うん、むしろシンディーの方が恐ろしくなる迫力であった。
光が消えて影の落ちた桃色の瞳で、賊たちに脅しをかける。
いつの間にか錬成したらしい鞭を持ち出すのだから、本気だ。
「ひ、ひぃっ! わ、わかった。言うよ! 海際の洞窟の奥にあるから、波が引いてる朝方の一瞬しか出入りできないんだっ」
さらに、知っていることの全てを吐かせてから、俺の前までやってくる。
「ディル様! 偉いですか、わたくし?」
両手を握り合わせ肩を窄めて上目遣い。
身体をくねくねと揺らしながら、瞳には星を宿す。
「あ、ありがとうなシンディー」
「な、なんと! そんな言葉がもらえるなら、わたくし、なにでもしますわっ♡」
ついには両頬を抑えて、恍惚の表情を浮かべていた。
とんでもない高低差に、俺は苦笑いするほかなかった。
いずれにしても、これで詳細な場所も分かった。
俺はさっそくシンディーとともに、海を目指すことにする。
「ねぇディル様。今は、真っ昼間ですけど、どうやって洞窟まで行くんです?」
腕を後ろ手に組んで、こちらを覗き込むシンディーの疑問は、もっともだ。
けれど俺だって、なんの考えもなしに動いているわけではない。
村と十分な距離を取ってから、俺はそこで【古代魔法】を使用する。
魔力を相当量消費するが、仕方ない。
呼び出したのは、雲よりも白い鱗を全身に纏った白龍だった。
本当にポイント消費なしに呼び出すことができて、ほっとする。
「思ったより吾輩の出番が早かったのう、主人よ」
「あぁ、ちょっとね。本当ちょっとしたことだ」
「ふん、どんな雑用でもかまわんさ。貴殿に尽くせるのなら」
雄大に翼をはためかせると、それだけで風が巻き起こる。
シンディーが、「きゃっ」と短い前髪を抑えていた。
こんな仕草まで、徹底されている。
「おぉ、シンディーを召喚しておったか。有能だろう、彼女は」
「あら♡ ディルさまの前で褒めてくれるなんて、ありがたいですわ。もっともっと褒めてくださいな、白龍」
4000年前から来たもの同士、シンディーと白龍は顔見知りだったらしい。
少し三人で話を交わしてから、俺は白龍に事情を伝える。
「ふむ、この盆地から海辺の洞窟までか。吾輩に任せるがよい。主人らを運ぶくらい、簡単なことだ」
すぐに翼を下ろして、俺たちをその背に乗せてくれた。
飛ぶことなどもちろん初めてだったが、白龍の背中は安定していたので、快適な飛行時間だった。
むしろ、そのまま海を渡れそうなくらいだったが、それはまた別の機に取っておく。
空から行ってしまえば、引き潮だとか満ち潮だとかは、もはや関係なかった。
俺たちは直接、洞窟へと辿り着く。
入り口の広さによっては、そのまま白龍に蹴散らしてもらいたいところだったが、そうまで都合良くはない。
数人通るのがやっとの狭さだった。
俺はシンディーには外で待っててもらい、中へと立ち入る。
「だ、誰だ!? まさか侵入者か!?」
「お前らか、村から物や人を奪う悪党ってのは」
刀に手をかけながらの俺の問いに答えたのは、奥から現れた賊長らしい男だ。
昨日、襲撃してきた連中と同じ身なりをしている。
「ここがよく分かったなぁ。誰だ、テメェは」
「答える義理はないだろ」
「だったら入ってくんじゃねぇよ。突然やってきて、よそ者が文句あるのかァ?」
「……なかったら、こんなところには来てないっての。それに、もう俺もここの人間だ」
「ふん、綺麗事が好きらしいな。弱いものが搾取されるのは当たり前のことだろ、バカめ!!」
そいつはケタケタと大笑いしはじめた。洞窟内に反響して、耳鳴りへと変わる。
剣を抜いた手に、つい力が篭った。
村人たちの苦しい生活を思うと、唇を噛まざるを得ない。
善良な彼らが、不法の輩に搾取されるのは間違っている。
こういう輩を許してはおくわけにはいかない。
こういうときに、弱いものを守れてこその強さだ。
「野郎ども、こいつをやっちまえ!! 生かして帰すなよ、ワテらの悪事がばら撒かれちまう。まとめてかかれ!」
「やられるかよ。
こっちは、新米領主。早く帰って、やらなきゃいけないことが山積みなんだ」
一対多数、しかも敵の陣内。
状況こそ不利な立ち回りだったが、結果としては圧倒的だった。
白龍の火を纏った刀、それも王を守るためのラベロ流剣技をもって、敵となるような相手ではない。
あっさりと、一味すべてを薙ぎ倒すことに成功する。
「お、お前、いったい何者なんだ!? 強い、強すぎる」
リーダーの男は、水の溜まった地面に這いつくばりながら、呟きを漏らす。
「そうだ、ワテらのリーダーになってくれよ! な!? 稼げるぞ、この仕事は! お前ほど強ければ、誰でも攫うことができる! 人を売って、一生ウハウハ生活だ!
どうだ、いいだろう? そう思わないか!?」
あろうことか、こんな話を持ちかけてきたので、首に手刀を打って意識を落としておいた。
事がついて、俺は頭をかく。
「なに言ってるんだ、俺はここの領主だっての」
そこへ、シンディーが中へと入ってきた。
「早かったですね、さすがディル様! なにか喋ってたんですか?」
「ううん、大したことじゃないよ」
賊の始末を終え、俺たちは基地内を奥へと進んでいく。
奪われたのだろう食糧や物資が、山のように積まれていた。
ざっと数ヶ月分くらいはあるかもしれない。小麦や野菜も豊富に蓄えられていた。
そして、それだけではない。
突き当たりの窪んだ空間には
「……まさか攫われた人たち?」
「まぁ! それも、結構な人数がおりますね?」
何人もの人が括り付けられていた。
ざっと、二十人近い数だ。
さまざまな者がいて、中には明らかに背の低い小人族・ドワーフや、反対に俺たちより頭三つ分以上も大きい獣人などもいる。
毛深く太い腕や、頭の上の特徴的な丸耳を見るに、クマベア族で違いない。
彼らのような人に似た存在は、総称して「亜人」と呼ばれている。
かなり久しぶりに見る存在だった。
どちらも今では数が減り、人里離れて暮らす種族である。
最近では、人との交流もあまりないはず。
「みなさん、今縄と手錠を解きますからお待ちください」
だが、俺の言葉には、
「おぉ、本当か! 助けがくるなんて奇跡だぁ〜! 信じられねぇ」
「ありがとう、ありがとうっ。これで村に帰れる!」
「恩に着ますぞぉ、兄貴ぃ!」
この瞬間ばかりは、種族などに関係なく解放を喜び合っていた。
身体は疲れているだろうに、みな揃っておいおいと泣き叫ぶ。
聞けば、さまざまな場所から連れ去られて、ここに放り込まれたらしい。
売られるのを待つ身の者や、下僕として小間使いさせられていた者もいたそう。
全員の拘束をとき終える。
すると、まさかの全員土下座で頭を下げてくる。
身体を起こしたドワーフの男が言うには、
「あんたは、おらたちの命の恩人だ。なにか手伝えることがあったら、なんでもしまさぁ!」
とのこと。
それに、その場の全員が賛同した。
「でも、元の住まいに戻らなくていいんですか?」
「ふっ、恩返しもしねぇで戻れませんよ。同じドワーフたちに顔が立たねぇ」
この意見にも、反論は出なかった。
どうやら、義理堅い人たちのようだ。
本当なら、その気持ちだけを受け取り、辞退するのが美しいのだろう。
なにも恩を返して欲しくて、彼らを解放したわけではない。
けれど、体裁にこだわっていられるほど悠長ではないのが、今のテンマ村である。
「なら、村の整備をお願いしたいです。少し、いや、かなり荒れてまして」
一つこれだけは、どうしてもお願いしたかった。
人手としても、技術力や戦闘力としても、彼らは頼もしい存在だ。
「そういうことなら、おらたちが力になりますよ! ドワーフは、ものづくりが得意なんでさぁ!」
と、まず了承をもらう。
一方クマベア族の方はといえば、
「俺らだって、手を貸したいのはやまやまだが、村人たちに怖がられないだろうか」
腕を、獣のそれに変形させてみせ、やや顔を俯ける。
至極、当然の考えだった。
種族にもよるが、獣人は基本的に人間よりも高い身体能力を持つ。
中には凶暴な種族もいるので、その力を過度に恐れている人間は多い。
そのため、獣人であるというだけで、入ることすら許されぬ街などもある。
「そこは、どうにか説得しますよ」
けれど、俺が領主となったからには、その偏見は取り払いたかった。
『外れスキル』と扱われ、迫害されてきたこともある。
そもそも俺は、その差別的な考え方には昔から反対だ。
全員が全員、凶暴だなんてあるはずがない。
「彼らなら大丈夫さ。一緒にこの牢獄のような場所で苦しんだ仲だから、分かるんだ」
同じく捕まっていた人間たちも、こう太鼓判を押してくれる。
それが、クマベア族の心を動かしたらしい。目に涙を浮かべて言う。
「そういうことなら……。警備でも力仕事でも、なんでも任せろ!」
「おう、なにせあんたには今回だけで、返しきれねぇ恩を受けたんだ」
うん。一気に、人手が増えそうだ。
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