第9話 一対多数も圧倒。



「おい、そこのお前! なに余裕で立ってやがるんダァ?」

「ふっはは、怖くねぇのかぁ? 俺様たちゃ、泣く子も黙って奴隷にしちまう人攫い集団だぜぇ。

 ワシはその副隊長! かなーーーり強いぞぉ?」


数としては、10人ほど。


村人たちよりは少ないが、威張りかたからして、腕っぷしには自信があるらしい。


よほど儲けているのだろう。


それぞれ装備していた剣や弓、槍なども、なかなか立派なものである。


「愚かなやつだ。やめとけっての。ワシは今でこそこうだが、元貴族。

 魔法技だって使えるんだぜェ? ヒッヒ〜」


それも貴族崩れの輩がいるときた。



魔法を使えるものとそうでないものの力の差は歴然である。

これでは、村人が逃げだすのも無理はない。


だが俺が領主となった以上は、たとえ数的不利が明らかだろうと、野放しにはできない。



剣をゆったりと抜き、正段に構えた。


力みは剣を鈍らせ、怒りは太刀筋を狂わせる。ふぅっと息を整えると、


「な、なんだ、この圧……!」


それだけで、彼らは一歩後ろへと引き下がった。

腰も引けて、完全にへっぴり腰のものもいる。


……ん? なにしてるんだろう?


そう思ってから、蘇ってきたのは昨日の記憶だ。


俺の魔力は今、白龍と同等レベルのものがあるのだっけ。

どうやら身体に秘めた魔力が、剣圧になって彼らを怯えさせているらしい。


だが、油断は禁物だ。

卑劣な行為に平気で手を染める輩。なにをしてくるか分からない。


気を取り直してもう一度、敵の集団を睨みつけると、


「「ひ、ひぃっ!! こ、こえぇ!! ただもんじゃありませんぜ!!」」


副隊長を名乗っていた男以外、全員が尻餅をついた。


そこまで怖がられるとは思いもよらなかったが、なんにせよ。

一体多数だったはずが、刃も交えていないのに、一対一だ。


「く、くそぉ。よ、よくもやってくれたな! ワシの子分たちを!」


いや、なんにもやってないのだけどね? ただ、勝手に怯えられただけだ。


「わ、ワシは魔法も使えるんだっ! ただオーラがあるだけの雑魚野郎に負けるわけがないっ! これでもくらえ、ウォーターカットォ!!」


なかばやけくそになったらしい。男は、刀を振り上げ切り掛かってくる。



その刀は、たしかに水を纏っていた。

だが、それだけでしかない。


その太刀はなっていないもいいところ。

ガタガタと震えていて、筋がめちゃくちゃだ。


俺はあっさりといなしながら、剣に龍の火をまとわせる。


「ラベロ流・星影斬り!」


そして、素早く斬撃を繰り出した。


そもそも龍の力である強力な魔法に、剣技まで加わればその威力はさらに増す。


火と水、相性が悪いからといって、そんなのは瑣末な話だ。


ものの数秒の戦闘だった。

実際、それで十分だったらしい。


男が、ばたりと地に伏せる。一瞬で蒸発した水はもくもくと蒸気を上げる。

これで賊の始末は終わりらしかった。


思ったよりあっけないな、と思いながら刀を鞘にしまった。

ちゃき、と鍔が鳴ってすぐ、


「か、か、かっこよすぎ!! ディル様ぁ〜」


シンディーが飛び出てきた。


いっさいの遠慮なく、肩に手を回してぴとりと頬を寄せてくる。


あやうく受け止めきれずに、よろめくところだった。むしろ、賊たちより手強いかもしれない。


すごい、すごい、と彼女は勢いよく俺を褒めちぎる。

躊躇いなく、胸に埋めてくるので、どうにか煩悩を打ち払ってそれを逃れた。


「すごいです、やっぱりわたくしの旦那様は強さも一流♪」

「昨日召喚した白龍のおかげだよ、俺の剣技は少し役に立ったくらいで。あと、旦那になった覚えはないんだけど。昨日会ったばかりだろ?」


「えー、そんなことありませんよ! 白龍の力も、ディル様の力のうちですもの。

 さっきの剣技、わたくし妻として痺れました!」


うん。もう、なにも突っ込むまい。


ある種の諦めをもって俺が目を細めていると、続いて、避難していた村人たちが恐る恐るといったふうに出てくる。


倒れた賊を見るや、


「なんて強さ。俺らが苦しめられてきた敵を一瞬で」


唖然とするもの、


「おぉ、本当に強い! こんなに腕が立つ人を見たのは初めてだ」

「俺たち、もう怯えて暮らさなくてもいいのか……? おぉ、領主様ぁ!!」


叫び声をあげて歓喜するもの。思い余って、泣き出してしまうもの。


さまざまな反応を見せていた。

もはやちょっとしたお祭り騒ぎである。総じて、喜んでくれているようだった。


俺は、ほっと安堵の息をこぼす。


それから、突っ伏した賊たちの元へと屈んだ。

手加減をした甲斐あってか、ちゃんと息は繋ぎ止めている。


気を失っているだけらしい。


「ディル様、こいつらどうするんですか?」

「うん。目が覚めたら、他の仲間の場所を聞き出そうかな。さっき、自分のことを副隊長だとか言ってたし」


「おぉ、拷問からの乗り込みですか! かちこみですか!」

「言い方は物騒だけど、そういうこと」


村へやってきたのは、10人ほどだが、まさかこれが構成員の全てではなかろう。



不安をもたらす因子は、早急に取り除いてしまうのが、領地経営の鉄則だ。


この機に、一網打尽にしてしまおう。


俺は、そう計画を立てるのだった。



____________


【古代召喚】

四千年前の古代を生きた者の魂を実体とともに、現代に復活召喚させ、従わせる。

 また、そのスキルと同等の能力を得る。


(利用可能能力)


・白龍の神力 レベル2/5

・錬金術 レベル2/5


 領主ポイント 400/1000


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