【コミカライズ2巻11/24発売!】追放貴族は、外れスキル【古代召喚】で英霊たちと辺境領地を再興する ~英霊たちを召喚したら慕われたので、最強領地を作り上げます~
第8話 変な奴が村に侵入してきたんだが?
第8話 変な奴が村に侵入してきたんだが?
歴史の影に隠れてしまった古代文明。
それを現代の、この領地に再現する。
大きな目標をどんと掲げたはいいが、旗を掲げただけでは、ただの夢物語だ。
まだまだ現実はそう甘くない。
「……いやぁ、何度見ても寂れてるなぁ」
村を改めて見渡して、思わず漏れるのは感嘆のため息だ。
こんな状態のままでは、夢も語れない。
領地や領民と共に発展してこその、文明復興であろう。
目標を立てた夜。
俺は、召喚した古代の錬金術師・シンディーとともに、まずは屋敷内にあるさまざまな家具へ魔法をかけていった。
ベッドに、キッチン用具に、浴場まで。
隅から隅までだ。
とはいえ、もう倒れるような無理はさせられない。
ある程度のところで切り上げて、ついでに夜這いをかけてくる彼女をなんとか宥めて、今が翌日である。
「さて。言っててもしょうがないな。これ、持っていこうか」
「はいっ、きっと喜ばれますよぉ〜! というか喜ばなかったら、わたくしが怒ります。激怒します」
「……いや、そこまでムキにならなくていいっての」
俺はシンディーと、錬金術で作った農具を手にして、村の外れにある畑へと向かう。
これは昨晩、彼女と共に作ったものだ。
まずシンディーに見本を作ってもらい、その後、俺がそれを真似て作るという要領で製作した。
俺は、領主となったのだ。
自分の屋敷の修繕もいいが、まずは領民のことも考えるべきだろう。
「おぉ、新たな領主さまじゃ! 昨日は、この老体めをお助けいただきありがとうございます」
「私たちも、本当助かりました」
見に行けば、ちょうど雑草抜きの最中だった。
その手を止めて、昨日会った二人がこちらへと駆けてくる。
その他にも数名、村人がいるようだった。
二人が話をしていてくれたのか、みな、こちらへ好意的な挨拶をしてくれた。
俺は気になって、爺さんにひとつ尋ねる。
「すいません、この村には、どれくらい人がいるんです?」
「…………現在ではここにいるもの含めて、20人弱でしょうか」
ふむ、やはりかなり少ない。
ぎりぎりのところで、集落の形を作り保っているといったところだろうか。
俺はメモをとりながら、畑を見やる。
もっとひどいのは、こちらだ。
完全に、土地が痩せてしまっている。
掘り起こすのも一苦労といった具合に固そうだ。
雑草たちに栄養を持っていかれているのだろう。
村の周りにも、妙な草が大量に生えて、その穂を揺らしていた。
「とりあえず、これ使ってもらいましょ、ディル様! ひとまず作業が楽になるはずですよ!」
「うん、それもそうだな。みなさん、一回この農具を使ってみてもらえませんか」
俺とシンディーがそう、村人たちに手渡したのは、小さな鎌だ。
受け取った老人が、ゆっくりと首をかしげる。
「なんじゃ、これは……。妙に小さいのう。たしかに手にも馴染みやすいが。どれ、試してみるかの」
それから手近にあった雑草を掴んで、くいっと刈った。
「おぉ、ワシでも簡単に切れた……。ということは、この固すぎる雑草の茎も、おぉ衰えたワシの力でもあっさりじゃ!」
「ふっふっふ、それだけではありませんよ」
シンディーが、不敵に笑う。
俺も、その横でにっと笑った。確かにそのままでも便利だが、その程度じゃないのだ、これは。
そこに、明らかな差がある。文明レベルの差が。
「お爺さん、グリップを強く握ってください」
「あぁ、こうか?」
鎌に仕込んだ魔石が、きらりと光る。
すると、どうだ。
今度は大きさが変化し、さらに握れば、今度は鍬に変わる。
「「な、な、なに、この農具!?」」
村人たちから驚きと、感嘆の声が漏れる。
さっきまではどことなく、だるそうに仕事をしていたが、士気が上向くのを肌で感じられた。
「っていうわけで、なににでも変わる農具です。どうでしょう、使ってもらえますか」
「むしろ、こんな素晴らしい逸品よいのですかな!? というか、これは一体どんな仕組みに…………」
「さぁ、仕組みまではちょっとまだ。でも、気に入ってもらえそうでよかったです」
ひとまず、この村を立て直すには大きな一歩となっただろうか。
俺は、シンディーと目を合わせ、微笑みを交わし合う。
と、
『領主ポイントが200溜まりました。次なる召喚まで、残り800』
頭の中にはこんなメッセージが流れ込んできた。
「……なるほど」
今の今、領主ポイントが溜まったらしい。
ということは、領地の改善に寄与すれば、獲得できるのだろうか。
それならば、もってこいだ。
古代文明の再現のためにも、この村や領地内の改善は必須。
それをやることで、再び【古代召喚】ができるようになるのなら、一石二鳥である。
「いやはや、新しい領主さまはなんて凄い方なんだ! そしてお優しい……」
「横の女性も、ありがとうございます!」
「いやぁ、こんなにいいことがあったのは数年ぶりかもしれん!」
喜び感謝する言葉が村人から飛ぶ。
だが、そこへ集落のある方から一人の村民が走ってきて
「おい、奴らがくるぞ!!」
と叫ぶと、その歓喜の声が不意に止んだ。
打って変わって、
「なんだってこんな時に」「くそ、せっかく希望が見えたばっかりだってのに最悪だ」と頭を抱え出す。
「ディル様。こ、これは、どうかしたんですかね?」
「さぁ、俺にもわからないけど……」
しかも、みなが慌てて家の方へ帰って行くではないか。
一瞬の出来事に、俺もシンディーも頭が追いつかない。
「領主さま。これから来る奴らはこの辺りを違法に占めている、賊です。
要求された金や物を納めないと、その人を攫って売り飛ばす。人攫いもやるような輩なんじゃ!」
爺さんが逃げながらにして、俺へ告げる。
人攫い。
そののっぴきならない響きに、俺はつい目を顰めた。
魔物がよく出る時点で、治安が悪い場所だとは思っていたが、人まで無法者が幅を利かせているらしい。
俺がくるまで、領主がしばらく不在だった影響だろうか。
いずれにしても、最低の所業に違いない。
「領主さま、どうするのじゃ」
「ディル様…………!」
「二人は早く隠れているといいよ。俺は、たった今、ちょっとやることができた」
俺は、その場から一歩も動かなかった。
怒りを拳に固め、そいつらを正面から待ち受ける。
「なんだ……? 逃げねぇのか、こいつ。はっはっは、カスが! とりま。こいつ、とっとと捕まえて売り飛ばそうぜ」
現れたその集団は、髑髏の旗を掲げ、大声でこう宣言したのだった。
捕まえられるものなら捕まえてみろ、である。
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