第8話 変な奴が村に侵入してきたんだが?


歴史の影に隠れてしまった古代文明。

それを現代の、この領地に再現する。



大きな目標をどんと掲げたはいいが、旗を掲げただけでは、ただの夢物語だ。



まだまだ現実はそう甘くない。


「……いやぁ、何度見ても寂れてるなぁ」


村を改めて見渡して、思わず漏れるのは感嘆のため息だ。


こんな状態のままでは、夢も語れない。

領地や領民と共に発展してこその、文明復興であろう。


目標を立てた夜。

俺は、召喚した古代の錬金術師・シンディーとともに、まずは屋敷内にあるさまざまな家具へ魔法をかけていった。


ベッドに、キッチン用具に、浴場まで。

隅から隅までだ。


とはいえ、もう倒れるような無理はさせられない。


ある程度のところで切り上げて、ついでに夜這いをかけてくる彼女をなんとか宥めて、今が翌日である。



「さて。言っててもしょうがないな。これ、持っていこうか」

「はいっ、きっと喜ばれますよぉ〜! というか喜ばなかったら、わたくしが怒ります。激怒します」

「……いや、そこまでムキにならなくていいっての」


俺はシンディーと、錬金術で作った農具を手にして、村の外れにある畑へと向かう。



これは昨晩、彼女と共に作ったものだ。


まずシンディーに見本を作ってもらい、その後、俺がそれを真似て作るという要領で製作した。



俺は、領主となったのだ。

自分の屋敷の修繕もいいが、まずは領民のことも考えるべきだろう。



「おぉ、新たな領主さまじゃ! 昨日は、この老体めをお助けいただきありがとうございます」

「私たちも、本当助かりました」


見に行けば、ちょうど雑草抜きの最中だった。


その手を止めて、昨日会った二人がこちらへと駆けてくる。



その他にも数名、村人がいるようだった。


二人が話をしていてくれたのか、みな、こちらへ好意的な挨拶をしてくれた。



俺は気になって、爺さんにひとつ尋ねる。


「すいません、この村には、どれくらい人がいるんです?」

「…………現在ではここにいるもの含めて、20人弱でしょうか」


ふむ、やはりかなり少ない。


ぎりぎりのところで、集落の形を作り保っているといったところだろうか。


俺はメモをとりながら、畑を見やる。



もっとひどいのは、こちらだ。


完全に、土地が痩せてしまっている。

掘り起こすのも一苦労といった具合に固そうだ。


雑草たちに栄養を持っていかれているのだろう。

村の周りにも、妙な草が大量に生えて、その穂を揺らしていた。



「とりあえず、これ使ってもらいましょ、ディル様! ひとまず作業が楽になるはずですよ!」

「うん、それもそうだな。みなさん、一回この農具を使ってみてもらえませんか」


俺とシンディーがそう、村人たちに手渡したのは、小さな鎌だ。


受け取った老人が、ゆっくりと首をかしげる。


「なんじゃ、これは……。妙に小さいのう。たしかに手にも馴染みやすいが。どれ、試してみるかの」


それから手近にあった雑草を掴んで、くいっと刈った。


「おぉ、ワシでも簡単に切れた……。ということは、この固すぎる雑草の茎も、おぉ衰えたワシの力でもあっさりじゃ!」


「ふっふっふ、それだけではありませんよ」


シンディーが、不敵に笑う。

俺も、その横でにっと笑った。確かにそのままでも便利だが、その程度じゃないのだ、これは。


そこに、明らかな差がある。文明レベルの差が。


「お爺さん、グリップを強く握ってください」

「あぁ、こうか?」


鎌に仕込んだ魔石が、きらりと光る。


すると、どうだ。

今度は大きさが変化し、さらに握れば、今度は鍬に変わる。



「「な、な、なに、この農具!?」」



村人たちから驚きと、感嘆の声が漏れる。


さっきまではどことなく、だるそうに仕事をしていたが、士気が上向くのを肌で感じられた。


「っていうわけで、なににでも変わる農具です。どうでしょう、使ってもらえますか」


「むしろ、こんな素晴らしい逸品よいのですかな!? というか、これは一体どんな仕組みに…………」


「さぁ、仕組みまではちょっとまだ。でも、気に入ってもらえそうでよかったです」


ひとまず、この村を立て直すには大きな一歩となっただろうか。


俺は、シンディーと目を合わせ、微笑みを交わし合う。


と、


『領主ポイントが200溜まりました。次なる召喚まで、残り800』


頭の中にはこんなメッセージが流れ込んできた。


「……なるほど」


今の今、領主ポイントが溜まったらしい。


ということは、領地の改善に寄与すれば、獲得できるのだろうか。



それならば、もってこいだ。



古代文明の再現のためにも、この村や領地内の改善は必須。


それをやることで、再び【古代召喚】ができるようになるのなら、一石二鳥である。



「いやはや、新しい領主さまはなんて凄い方なんだ! そしてお優しい……」

「横の女性も、ありがとうございます!」

「いやぁ、こんなにいいことがあったのは数年ぶりかもしれん!」



喜び感謝する言葉が村人から飛ぶ。


だが、そこへ集落のある方から一人の村民が走ってきて


「おい、奴らがくるぞ!!」


と叫ぶと、その歓喜の声が不意に止んだ。


打って変わって、

「なんだってこんな時に」「くそ、せっかく希望が見えたばっかりだってのに最悪だ」と頭を抱え出す。


「ディル様。こ、これは、どうかしたんですかね?」

「さぁ、俺にもわからないけど……」


しかも、みなが慌てて家の方へ帰って行くではないか。


一瞬の出来事に、俺もシンディーも頭が追いつかない。


「領主さま。これから来る奴らはこの辺りを違法に占めている、賊です。

 要求された金や物を納めないと、その人を攫って売り飛ばす。人攫いもやるような輩なんじゃ!」


爺さんが逃げながらにして、俺へ告げる。



人攫い。

そののっぴきならない響きに、俺はつい目を顰めた。



魔物がよく出る時点で、治安が悪い場所だとは思っていたが、人まで無法者が幅を利かせているらしい。



俺がくるまで、領主がしばらく不在だった影響だろうか。


いずれにしても、最低の所業に違いない。



「領主さま、どうするのじゃ」

「ディル様…………!」

「二人は早く隠れているといいよ。俺は、たった今、ちょっとやることができた」



俺は、その場から一歩も動かなかった。

怒りを拳に固め、そいつらを正面から待ち受ける。



「なんだ……? 逃げねぇのか、こいつ。はっはっは、カスが! とりま。こいつ、とっとと捕まえて売り飛ばそうぜ」



現れたその集団は、髑髏の旗を掲げ、大声でこう宣言したのだった。


捕まえられるものなら捕まえてみろ、である。

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