第12話

 深夜。月光に照らされる中、闇夜から浮かぶ純白のワンピースと白い帽子を身につけた少女は、レインエンジニア社の玄関前にいた。錆び付いた鉄門に手を掛けると、鈍重な見た目とは裏腹に簡単に動かすことができた。どうやら、社員が鍵をかけるのを忘れたらしい。前回来た時は鉄門をなんとかよじ登ったが、今回は楽ができる。

 少女は思わず口元を歪めた。

 数日前に工場を荒らされたというのに、この警戒心の無さ。こんな間抜けな社員が作った機械天使が、私より優秀なはずがない。そうだ。私の方が完成度が高いのだ。私の方が愛されるべきなのだ。

 少女は鍵を閉め忘れた社員に対し、感謝し嘲笑いながらレインエンジニア社の敷地に悠々と入った。機械天使が保管されているであろう、製造工場の前で足を止める。

 さて、今回も窓ガラスを割るか?

 どうやって工場内に入ろうか思案していると、少女の前にある光景が目に入ってきた。工場の従業員用の扉がわずかながら開いている。

 まさかと思いながらもドアノブを握り引いてみると、扉が開いてしまった。

 その光景に少女は思わず、額に手を当て口元を吊り上げる。

「本当に、本当に馬鹿ね。ふふふ、……なんでこんな人達が作った天使が、パパとママに愛されるのよ!」

 苛立った少女はドアを勢いよく開け、大きな音を立てながら工場の中に入った。

 荒い足取りで工場の奥に向かうと、ビニールで保護された数体の機械天使がパイプ椅子に座らされていた。

「こいつら、こいつら、こいつらが!」

 少女は近くにあった金属製のパイプを手に取る。おそらく機械天使の製造に使うものだろう。

「今度こそ、ぶっ壊してやる!」

 少女が鉄パイプを天使達に向かって大きく振り上げる。

 その瞬間、工場の電気が点いた。

 少女が戸惑っていると、機械の影から防具を着た警察官達が現れ、小型の筒状の物を少女に向ける。筒から飛び出した幾つもの網が何重にも少女に被さる。少女はなんとか抜け出そうと必死にもがいた。だが、網を振り解くことは叶わず、バランスを崩し床に倒れた。

「確保!」

 警察官の言葉に少女はついに諦め、抵抗をやめた。

 そして、気づいたのだ。

 本当に間抜けなのは、まんまとこの見え透いた罠にかかった自分なのだと。

 

 

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