第4話

 レインエンジニア社の工場内、今日出社している社員全員が製造機器の間を縫うように立っている。流石に約百人が入るには工場は狭く、肩が触れ合うほどの距離だ。

 秋穂の隣に立っている川村も窮屈そうにしていた。

「なあ、櫂塚」

「ん?」

「なんで、工場の中なんだ? 外の方が良いだろ」

「それはおそらくマスコミでしょ」

「マスコミ? あー、なるほど」

 事件が発覚してからマスコミ達が大挙して会社に押し寄せるようになった。今朝も会社の敷地を囲むように立ち、出社する社員に対し片っ端から声をかけていた。雨宮がわざわざ工場の中を選んだのは、社員をなるべくマスコミの前に晒さないためだろう。

「あー、ごほん」

 社員達の前に立つ雨宮は一度咳払い。工場内が静まり返った。

 自分に注目が集まったことを確認した雨宮は話し始める。

「みんなはすでに知っていると思うが、うちの会社で販売した機械天使が人を殺した、可能性があるとのことだ。だが、そんなはずがないと我々自身がよく知っている。我々は常に安全に気を配り、作り得る限りの最高の天使達を生み出してきた」

 そうだそうだと、社員内から声が上がる。

 雨宮はそれらの声に頷く。

「うちの機械天使が人を殺すはずがない。だが、世間はそう思っていない。人殺しの機械を、悪魔を生み出したと、うちの会社を非難している。それで我々はどうするべきか、上層部で考えた。そしてとある結論に出た」

 雨宮はそこで口を一旦閉じる。一度深呼吸した後、再び口を開いた。

「その結論とは、我々の手で我々の機械天使の無実を証明することだ」

 自分達で無実を証明する?

 秋穂は戸惑い、隣の川村も「何を言ってるんだ」と驚いている。

 他の社員達も顔を見合わせ、工場内は喧騒に包まれる。

 そんな騒めく社員達を雨宮は宥める。

「君達が驚くのも無理はない。我々素人に何ができるのかと。大人しく警察に任せ、真実が見つかるまで耐えるべきだと、そう考える社員もいるだろう。だが、問いたい。自分達の天使が人殺しと罵られることに耐えられるのか?」

 雨宮の問いに、社員達ははっと顔を上げる。

 耐えられるか? そんなものは決まっている。自分達は、天使達に精一杯の愛情を注ぎ生み出してきたのだ。その天使達が心無い言葉で罵倒されることなど、耐えられるはずがない。

「我々で、我々の天使が無実であることを、人殺しの悪魔でないことを世間に証明しようじゃないか!」

「……ああ。そうだ」

「そうだ。我々の天使は悪魔じゃない!」

「やってやろうじゃないか!」

「みんなで無実を証明しよう!」

 社員達は社長の言葉に意気込む。秋穂も口には出さないが、心の中で強く決心。

 自分達の天使が無実であることを証明すると。

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