第一章 真実

「一つ、昔話をしてやろう」


 そういうと、旋藏ぜんぞうは不敵な笑みを浮かべた。







 ☆★☆★☆★☆★







 数千年前、神聖病しんせいびょうと恐れられていた病が流布していた。

 人々はものや神の仕業だと恐れ、きよめや祈祷きとうを行ったが治る者が現れることはなかった。

 そんな中、神聖病は神の仕業ではないと強く唱えるものたちが現れた。


『この病は奇怪な病気ではあるが、憑き物でも神業でもない。他の病と同じ自然的原因である』


  その言葉は神聖病を恐れていた者たちの救いの言葉となった。


『あなた方は救いの神だ』


 これで平穏な日常に戻ることができると人々は喜び、突如現れた男たちを神とあがめた。

 男たちは不気味な笑みを浮かべ、


『クククッ。これで我々の計画が遂行できる』


 そういうと、人間の心の奥底に眠る負の感情を次々に解放していった。

 ある者は奇声をあげて自傷行為を始め、ある者は殺し合い、ある者は自らの生命を絶っていった。

 そして、人々の絶望が増幅し鬱病デプレが生まれた。

 のちに、神と崇められた男たちは死神と恐れられることになった。







 ☆★☆★☆★☆★







「その男たちの名は……」


 旋藏の話を遮るように、会場内はざわつき始める。


「そんなこと知ってるよ!」

「感情之神ヒポクラテス! 無之神ガレノス! 色彩之神ヴェサリウス!」

災いの三神セイブルハルトの死神たちだろ!」

「神と神器によって倒された奴らじゃん!」


 旋藏は声を低くして復唱するように続けた。


「そう、世界に厄災をもたらした死神は神々と神器によって討たれた」


 生徒たちは旋藏をバカにするようにクスクスと笑っていた。








 ————蘇った。







 旋藏の声がかすかに聴こえ、生徒たちは耳を疑った。


「「「えっ……」」」


 会場内から笑い声が消え、静寂に包まれていく。

 旋藏はそんな生徒たちを見て煽るように話を続けた。


「先ほどまでの威勢はどうしたんだ? まぁいい。これから話すことが真実だ。もう一度言おう」


 旋藏の言葉が会場内に緊張を走らせる。

 そして、旋藏は真実を告げた。







 ————死神は蘇った。






 衝撃の真実に会場内はパニックに陥る。


「うそ……だろ……」

「なにをいって……」


 すると、ガタンッと椅子から立ち上がる音が会場内に響き渡った。

 生徒たちは一斉に音のした方へと視線を向ける。


「龍斗! どうしたの? 早く座りなっ……!?」


 紅葉は驚いて龍斗に声をかけるが、初めてみる表情に言葉を詰まらせる。

 龍斗は無言のまま壇上の方へスタスタと歩いていく。

 二階で見ていた葵は、目を見開いて驚いた。


「龍ちゃんっ!?」


 龍斗は旋藏の胸ぐらに勢いよく掴みかかった。


「もう! 龍ちゃん何してんのよ!」


 葵は龍斗を止めようと、一階のフロアに走って向かった。








 ☆★☆★☆★☆★







 龍斗は旋藏の胸ぐらを掴んだまま殴りかかる。


「なんで知ってやがる!」


 龍斗のパンチを涼しげな表情で避け、旋藏はうすら笑みを浮かべる。

 龍斗はそのまま左足を軸に、回し蹴りをくらわした。

 が、旋藏は手の甲で軽く弾き返す。


「軽い蹴りだ」


「おい……クソ野郎。なんでそんなことを、知っているのかって訊いてんだよ!」


 旋藏は乱れていないスーツを、わざとらしく直し龍斗を睨みつける。


「いきなり殴りかかってくるとはいい度胸だ。名は?」


「そんなことよりも、俺の問に応えやがれ!」


 旋藏は睨みつけながら再度、質問する。


「名は?」


「俺の名前は杠葉ゆずりは龍斗りゅうとだ。覚えとけ!」


 龍斗が名前を叫ぶと旋藏は、声高々に笑う。


「はっはっはっ。そうか貴様が……。も面白いガキを任せてくれたものだ」


「アイツって誰のことだ! なんで、俺のことを知ってやがる」


 旋藏はニヤリと笑みを浮かべ、


「じゃあ、こういえばわかるか? 七年前の大事件。そして姿を消した綺羅きら真玄しんげん……と」


 綺羅の名前を出された龍斗は激昂げきこうする。


「綺羅にぃは死神なんかじゃねー!!」


「ほう。やはりそうか。綺羅のことを……」


「綺羅にぃの何を知ってるんだ!」


 旋藏は龍斗の言葉を無視して会場に目を向ける。


「どこを向いてっ!?」 


 龍斗が会場に視線を向けると龍斗を非難する声が溢れていた。

 旋藏は口角を上げながら龍斗を見つめていた。

 

「なに笑ってやがる!」


「都合のいい奴らだなと思っただけだが?」 


 龍斗は拳を握り旋藏の方へと走っていく。


「そんなことどうでもいい! 俺の問いに応えやがっ!? ぐぁぁぁあっ!」


 突然、龍斗の全身に見えない拳のようなものが襲い掛かる。

 会場に龍斗の痛々しい声とバコンッと打ち付けられたような鈍い音が響く。

 壁に打ち付けられた龍斗はそのままステージに倒れ込む。

 旋藏は龍斗の姿を見て嘲笑ちょうしょうした。


「無様だな。喚くだけで中身が無い……空っぽの器よ」


 龍斗は旋藏の言葉に怒りを積らせる。


「覚えとけ……必ず知っている理由をき……いて……」


 龍斗の意識が朦朧もうろうとする。


「クソ……が……っ」


 旋藏は意識を失いかけている龍斗の耳元でささやいた。


「綺羅は…………」


「…………」


 旋藏の言葉を聞けないまま龍斗は意識を失った。

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