9 婆様の神魂
拓也さんが茫然とした
「そんなことが可能なのですか?」
たしかに、いくら御神霊の分魂とはいえ、五次元界の主宰神と直接コンタクトを取ることができるなど、尋常なことではないと俺も思う。
「さあ、皆さん、お座りください」
不思議な形の椅子に座っていた御神霊たちも、婆様が美の女神の姿で登場したときからずっと立ち上がっていたので、婆様は皆に座るように勧めた。
広場というか大草原というか、そこにひしめき合っていた何百名もの御神霊たちはいっせいに座った。いすが最初からそれだけ用意されていたわけではなく、御神霊様方が何もない場所に腰掛けようとするとたちまちいすが出現するのである。
広場を囲む白亜の建物は巨大で、どれも太い何本もの柱で支えられていた。建物の上部はドーム状になっているもの、三角屋根のもなのなどさまざまだ。ただ白いというだけで、何でできている建物なのかは全くわからない。
婆様はその中央に立ったまま、まるで演説するような形で俺たちに向かって語り続けた。
「私のご本体は実は天照日大神様の直系で、人類が地上丸神様と名付けた御神霊の妻神です。人間がつけた仮の名は地上姫神といいます。夫神様の地上丸神様と夫婦ともに地球と人類創造の折には気津久姫神様、金龍姫神様たちとチームを組んで、非常に功績のあった方々です」
よくわからないけれど、なんだかすごい方の分魂であるようだ、婆様は。
「前の天帝の岩戸隠れの折に、私のご本体様は夫婦ともに前の天帝の御長男の大地将軍様ご夫妻とともに、地上のある一角にご隠遁されています」
「婆様は、初めて分魂として降ろされたのですか?」
拓也さんが尋ねた。さすがに俺は婆様自身のことをあれこれ詮索することは避けようと思っていたけれど、拓也さんは婆様の孫であるだけに遠慮がない。
婆様は微笑んで言った。
「いいえ。あなた方が二万年前にミヨイ国に降ろされたことがあるように、私も一度、分魂として降ろされていたことがあります。あなた方がミヨイ国に降ろされていたのよりもずっとずっと昔、ミヨイ国のあったころよりも五百八十万年ほど前には、
「え? アメノニニギ?」
最初にリアクションを見せたのは、意外にも外国人であるエーデルさんだった。
「『古事記』では天孫降臨された神様……」
婆様はにっこりと笑った。
「よく覚えていました。でも残念ながら、古事記の記事は嘘です。
「数十億年前?」
杉本君が疑問の声を発した。
「霊長類の出現は一億年前、人類の祖の猿人の出現が三百万年前ではないのですか?」
婆様は声をあげて笑った。
「まあ、誰が考えたのかそんな嘘八百。でたらめもいいところですよ。人類は創造されたときから今の私たちと同じ姿、同じ知能を持っていました。だって、地球の御神霊は自分たちの姿に似せて人類を創造されたのですからね」
お一方の御神霊が、立ち上がった。
「私は今、
そんな数十億年前の証言をされている方も、姿は俺たちと同じ若者なのだ。
「話を戻しますが、その
驚きの声を挙げて互いに顔を見合わせていたのは、なんとエーデルさんと悟君だった。
「やはり、あの富士山の古文献の赤い鳥居の神社の御祭神……」
「たしかに、分魂の私が現界を去ったのは富士山においてでした。それで今回も私は因縁の地であります富士山の麓におります」
「つまりは今の天帝の分魂と、現界で夫婦だったってことですか?」
ふと湧いた疑問を、俺は口にした。婆様はうなずいた。
「はい。私のご本体様の夫神の地上丸神様の分魂ではありませんでした。夫婦の御神霊の分魂がともに降ろされ、また人霊でも
つまりは
「いったいどんな感じだったのですか?」
婆様はちょっと苦笑していた。
「まあ、それは今回の本題とは離れますのでまた今度ということにしまして」
そう、俺も婆様のもう亡くなったと聞いているこの時代でのご主人、つまり拓也さんのおじいさんとのことが気になったが、さすがにそれを聞くのは失礼であるし、拓也さんもいることなのでその疑問は封印したのだ。
それにしても、こんな話をまさか金星で聞くことになるとは思わなかった。
「本題です」
笑顔は変わらないけれど、びしっとした口調で婆様は言った。
「今は私の魂のことよりも、今この事態をどう解決するか、そして私たちがしなければならないことについてです」
そうだ。こちらが本題なのだ。
すると婆様は俺たちだけでなくて、ここにひしめき合っている多くの御神霊たちの方も含めて大きな声で言った。
「これからお話しすることは、ここにいる皆さん、宇宙の各星から来られた方々やこの
そして婆様は、もう一度俺たちの方を向いて立った。
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