7 迫り来る危機
果てしなく広い草原に、もう神霊様方がひしめき合っていた。皆それぞれに不思議な形の腰掛に座っている。
俺たちにもその腰掛が与えられた。
すぐに、俺たちの周りにはいろいろな御神霊が次から次へとあいさつに来た。
拓也さんと島村さんが立って話をするので、自然と俺たちも立ち上がった。
「皆さん、どうして宇宙のあちこちから集まっているのですか?」
島村さんが聞いた。
宇宙御神霊がそれぞれどこから来られたのか、これまでに三十数カ所の名称を耳にした。まずは自分たちでの呼び名での星の名を言った後、皆が俺たち地球人はその星をどう呼んでいるのか知っていて、俺たちにわかりやすく言ってくれた。
例えばおうし座かに星雲とか、ヘルクレス座球状星団、大マゼラン雲、アンドロメダ銀河などの名称が出た。
「皆さんの故郷の星は、地球から十数万光年から遠いものは五百万光年の距離にあるのもありますけれど、皆さんはどれくらいで来られたのですか?」
拓也さんが聞く。その隣で俺はぼんやりと、まさかSF映画やアニメなどのようなワープ航法が実在しているのかななどと思っていたけれど、この世界には時間も空間もないことを思いだいた。案の定、答えは円盤の中でスバル様も言った通りだった。
一番遠いおとめ座超銀河団の御神霊、美穂がスピカ様と名付けた方が言う。
「すぐですよ、地続きですから。歩いてこられるところもあるし、宙を飛んでくる場合もある。でも、ほとんどすぐ、そうですね、あなた方の言葉で言えば瞬間移動でしょうか」
それではあのタヌキ……じゃなくって、猫型ロボットのなんとかドアみたいだななんて俺は思っていた。
それにしても彼らの顔
「あのう」
悟君が声を挙げた。
「皆さんどうしてこんなに集まっているんですか? 何かイベントでもあるんですか?」
「いいえ、そういったことならいいんですけれど、今このカルナール、つまり地球の三次元現界にとてつもない危機が迫っているのです。おそろしいことがこれから起ころうとしている、それについて何とか対策をということで宇宙全体から集まってきました」
「なんで直接地球ではなくこの金星に?」
新司は普段はおとなしいくせに、ごくたまに発言すると鋭いことを言う。
「
「ただ一つ言えるのは」
別の御神霊が言葉をはさんだ。大マゼラン雲からの方、マゼラン様だ。
「実は宇宙誕生以来、そう、あなた方の時間でいえば二百億年も前から、宇宙の百五十億名すべての神霊は、一名一名が『大根本様』と霊波線で結ばれていました。でも、これもあなた方の時間感覚で四十億年ほど前にその糸がたちまち切られたのです。こうして宇宙は『大根本様』からの縦の霊線を失いました。自在の世に入ったわけです」
なんだか婆様からもその話を聞いたけれど、それは地球だけの話だと思っていた。まさか宇宙全体のことだったなんて……。
「今再び限定の世を迎えようとして、再び縦の糸が結ばれようとしています。そしてそれと同時に、今までは存在しなかった横の糸も結ばれだしたのです。宇宙の異なる地域の神霊界の神霊は、従来は全く別々に存在していました。交流はほとんどなかったのです。それが、横の霊波線が結ばれだしたので今は交流ができるようになり、こうして宇宙各地から一堂に会することも可能になったのです」
「危機ってどんな危機ですか、何が起こるんですか?」
俺たちのうち何人かが一斉に声をそろえて言った。ただ、チャコだけは違うことを聞いた。
「あなた方はどうしてこんなにも大勢集まってまで、地球の、そして太陽系の危機について話し合ってくれているのですか? あなた方にとっては太陽系なんて、宇宙の一角のちっぽけな存在ではないのですか?」
「それは、現界にあるあなた方の地球が宇宙の物質界では唯一無二の存在だからです」
「どういうことですか?」
チャコと島村さんの言葉が重なった。
「それは、物質界に、つまり三次元現界に物質としての肉体を持った人類が存在するのは、あなた方の地球だけだからです」
「え? 宇宙人っていないんですか? 皆さんの星には、人類はいないんですか?」
「いません」
俺たちは皆、茫然としていた。
「拓也さんもそう言ってましたよね」
俺は拓也さんに聞いた。拓也さんはうなずいた。
「言ったかなあ。僕は婆様からは聞いていたけれど」
先ほどのマゼラン様は話を続けた。
「今、地球にのみ肉体を持った人類がいる。つまりこのことは、地球の現界にこそ、『大根本様』のご計画である肉体を持った人類に物質で地上天国文明を築かせるという大芸術の成就がかかっている。全宇宙の期待が集まっているのです。その地球が危機に瀕しているというのは、『大根本様』に対しても申し訳ないことなのです」
「でも」
俺も言葉をはさんでみた。
「この大宇宙はすべて『大根本の神様』のご意思の充満界で、いわば『大根本様』のお体そのものだと聞いています。地球の危機というのも、『大根本様』の御意思でなければ起こらないのではないのですか?」
「そうです。『大根本様』は
「その危機とは?」
もう一度、チャコが聞いた。別の御神霊が一歩前に出た。
「私の星はあなた方のいうおとめ座M87星雲にあります。そして私の星は、地球が生まれる前に物質界に肉体を持った人類がいて、文明を築いていたことがありました。こちらをご覧ください」
たちまち、その御神霊の頭上の空中で、3D映像が映し出された。そこには見たこともないような奇妙な建造物が並ぶ風景が映し出され、多くの人々がその周りで生活を楽しみ、働き、暮らしている様子だ映し出された。
やがてアングルがずっと引き、その惑星全体が球となって映し出された。どこか地球に似ているような、水も緑も豊富な豊かな青い惑星だったようだ。
だが宇宙の一角から謎の物体が飛来した。ガス帯に包まれ、長く尾を引いたそれは彗星のようにも思われたけれど、それにしてはあまりにも巨大すぎた。
その頭部のガス帯の中から、惑星よりも大きな物体が現れた。それは金色に耀く輪のようでもあり、その中心部はこれでもかというくらい黒かった。
そして驚くべきことに、その輪の中央の黒い部分に、惑星がスーッと吸い込まれて行ったのだ。
その映像を我われに見せている御神霊は、涙を流していた。
「私たちの星の終焉です」
あまりにもあっけない終焉だった。もしかしてあれは、俺たち地球の科学でいうところのブラックホールか……。
俺の想念が伝わったのか、拓也さんは俺を見てうなずいた。M87様は涙に詰まりながら、本当に悲しそうに言う。
「我われが創造し、
俺も、また俺の仲間たちもみな全身が固まっていた、美貴や美穂などは明らかに震えていた。背筋が凍り付くというのは、まさにこのことを言うのだろう。誰も言葉がなかった。
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