4 UFO

 やがて、その円盤から声がした。しかしそれはあたりに響く声ではなく、俺たち一人ひとりの心の中にだけ響く肉声だった。


 ――ようこそお集まりくださいました。まことにありがとうございます。


 俺たちはいっせいに円盤を見上げた。

 なんだか夢を見ているような気分になる。でも、これまであまりにもいろいろなことを体験しすぎてきた俺たちにとって、たいていのことでは驚かなくなっている。


 ――この間もそちらにおられる竹本さんという女性の方の意識を通しまして申し上げました通り、あなた方に早急にお伝えしなければならないことがございます。


 竹本さんとはピアノちゃんのことだ。なんと名前まで知っている。


 ――この地球カルナールという星には、現界的にものすごい危機が迫っております。


「今の戦争と災害のことですか?」


 拓也さんが円盤に向かって、肉声で話してみた。それほど大声でなく、俺たちの間で話すのと同じ程度の声量だ。


 ――いいえ、そのような程度のことではありません。


 ちゃんと相手には通じている。


 ――そのような地球レベルの話ではなく、あなた方が予想だにできないような宇宙規模の災いです。そこで、あなた方を我われのルッターにお招きして、直接お会いしてお話がしたいと思ったのです。


「ルッターとは?」


 ――今、あなた方が目にしている円盤です。あなた方の科学力ではまだ確認のできない存在ですので、あなた方がこれを未確認の飛行する物体、つまりUFOと呼んでいるということも我われは知っています。


「あなた方が降りてくることはできないのですか?」


 拓也さんが聞く。だがそれは、俺たち全員の疑問だった。


 ――できません。我われが皆さんの目に見える形で地上で皆さんとお会いすることができないのは、この星の神霊界の御神霊がそれが不可能なのと同じです。せめて今だけこのルッターをあなた方にだけ可視化することが精いっぱいで、我われの神霊としての霊体を物質化することはできません。ですから、申し訳ないけれどあなた方に来ていただきたいのです。


「我われは乗れるのですか?」


 ――もちろん、肉体を持ったままでは無理です。この世界の物質としての肉体を持った人類を、我われのルッターにお乗せすることは不可能です。ただあなた方の魂は御神霊の分魂ですから、今肉体を仮に離れることができるのならルッターにお乗せすることも可能です。


 俺たちは互いに顔を見合わせ、うなずき合った。拓也さんが顔を挙げた。


「可能です」


 俺たちは周りを見回し、座れるところを探した。まさか立ったまま魂が抜けたら、いくら現界の時間では瞬時に戻って来られるとしても立ち続けているかどうか心配だ。

 すると、広場の従来の土の部分と人工のコンクリートの展望台との境目あたりに、やはりコンクリートの四角い突起物が見えた。景色を見に来た人たちが座って休むためのもののようだ。

 展望台の上には公園にあるような木のベンチもあるけれど、やはり十二人が固まって座っていた方がいいと、みんな思ったようだ。

 一辺に三人ずつ、ちょうど十二人が互いに背を向けて座ったらそのコンクリートの腰掛は満員となった。少し窮屈だけれども、みんなが座れる大きさだ。

 俺たちはそこで、かつて婆様から教わった例の「神通力詠唱」を唱え、目を閉じて手を合わせ修法を始めた。

 ふっと意識が遠のいたような気がした後ものすごい上昇感を覚え、気が付くと俺は他の十一人とともに明るい部屋に立っていた。

 そんなに広くはないけれど、そこは何もない空間だった。

 そして気が付くと、我われに向かい合う形で五六人ほどの男女がいた。皆白い服を着ているが、その形状はよくわからなかった。なぜならまばゆいくらいに彼らは光り輝いていたのである。

 だが、顔はどう見ても俺たち地球人と変わらない。年齢もちょうど俺たちと同じくらいの若者ばかりだ。


「あなた方が、宇宙から来られた方ですか?」


 拓也さんが聞く。


「はい。わざわざご足労頂き恐縮です」


 宇宙人はにこにこと、丁寧な口調で答えた。普通に日本語だった。だが、彼らは自分たちを霊的な存在だと言っていた。つまり御神霊なのだ。だから「宇宙人」と呼ぶのはふさわしくないかもしれない。


「今皆さんは、私たちが宇宙人らしくないとお考えでしたね。そして、自分たちと接するために自分たちと同じ容貌に仮に変身しているのではと考えた方もおられる」


 やはり御神霊だ。口に出して言わなくても、俺たちの想念は筒抜けに読み取られている。


「でも違います。これが私たちの本然ほんねんの姿です。このルッターに乗っているここにいる六人は、あなた方にわかりやすく言うならば、あなた方がおうし座のプレアデス星団と名付けている星から来ました」


 俺たちの誰かが、どこから来たのかという念を発したのだろう。いや、むしろそれは、俺たち全員の疑問だ。


「プレアデス星団といえば440光年くらいの距離ですよね。それをどれくらいの時間でこのUFOで来たのですか?」


 想念を読まれる前に、島村さんが肉声で聞いた。それは相手に尋ねるというよりも、仲間である俺たちに質問内容がわかるようにと思ったのだろう。


「瞬間に来ました。四次元神霊界には時間はありません。空間もありません」


 それは確かに俺たちが何度も体験していることだ。


「しかも、あなた方のいう三次元宇宙空間をこのルッターに乗って飛来してきたわけではありません。私の星から地球まで歩いても自ら飛行してもすぐです。時間・空間がありませんから。宇宙すべての星の神霊界は地続きです。つながっているのです」


 彼は強調するように同じことを繰り返した。

 俺たちのメンバーの中には、よく理解しきれていない人も多い。ちなみに肉体を離れてここにいる俺たちは、宇宙御神霊の彼らと意識が筒抜けであるだけでなく、俺たち同士もまたその想念がガラス張りだ。

 このことは、以前にも体験している。


「じゃあなぜ今、円盤に乗ってるんですか?」


 美貴が聞く。


「ルッターは三次元の宇宙空間を飛行するものではなく、三次元現界に降りてくるときに、我われの霊体を保護するために乗る乗り物です。三次元の人びとの想念波動は荒いので、そのまま来ると我われの霊体はダメージを受けてしまいます。三次元で暮らす人類は肉体に入っているので守られていますけれど、いわゆる肉体としての死を迎えて肉体から離れれば瞬時に四次元界に引き揚げられます。それが幽界カクリヨですね」


 つまり彼らがルッターと呼ぶ円盤、我われにとってはUFOは宇宙船ではなかったのである。確かに今そのルッターの中を見回しても、宇宙船らしき司令室も操縦室も、計器も何もない。

 ただのがらんとした丸い部屋で、やはり何もない壁に囲まれているだけだ。外に出るための入り口もないようで、俺たちがどうやってここに入ってきたのかもわからない。


「詳しい話は、今宇宙全体の御神霊がこのラー恒星系、あなた方のいう太陽系の惑星の一つに集結しています。その会合にあなた方をお招きしますので、そこで詳しくお話ししましょう」


「どの惑星ですか?」


 悟君の質問に、即答が帰ってきた。


「ツイサニアという星の四次元神霊界に続々と多くの宇宙の御神霊が集まってきています。ツイサニアとは現界的にはこの地球カルナールの一つ内側の軌道を回る星。あなた方が金星と呼んでいる星です」


「金星……」


 俺たちはこれから金星に行くのか……そう思うと、なんだか俺は身震いがしてきた。

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