8 『神の非常事態宣言』
ニュース速報は告げた。
なんと、半島の北の国が南に向かって弾道ミサイルを同時に数発発射、海ではなく南の国土に落下炸裂。そのうちの一本は首都のセオールに命中、セオールは今火に包まれているという。
もちろん、シニートゥ共和国のダブリートゥへの宣戦布告を受けてのことであるのは間違いない。
そして間髪を入れず、世界の超大国であるローシートゥ共和国がダブリートゥ合衆国に宣戦布告したという。
これには皆真っ青になった。
世界の二大超大国が、戦争を始めたのである。
ローシートゥ共和国は数年前から西に隣接する小さな国に対する武力侵攻を続けており、それが泥沼化して今でも終結していないのに、だ。
「昔、ローシートゥがまだアツォートゥ連邦だった頃は、ダブリートゥとは氷戦と言われる状態が続いていましてね」
拓也さんがテレビの画面を見たまま、解説を始めてくれた。
「あの頃は戦闘状態にはならなかったものの、一触即発の危険な状態といわれていたようですよ。僕もまだ生まれる前のことですけど、お互いに核の標準を相手国に向け、もし核弾道ミサイルがどちらかから発射されたら直ちにそれを感知して、発射した国に自動的に報復ミサイルが飛んでいく仕掛けだったといいますけどね」
なんとも怖い話である。拓也さんは話し続ける。
「あの頃は、もし第三次世界大戦が起こるとすれば、アツォートゥとダブリートゥの戦争だろうって、みんな思ってたそうですよ。でも、氷戦が集結して、アツォートゥ連邦が崩壊して自由主義陣営のローシートゥ共和国になったときに、人々は第三次大戦の危険性はなくなったってほっとしたってことですけど、結局こういうことになりますか」
「やはりこれが第三次世界大戦ですかね?」
杉本君が聞く。哲也さんは難しい顔で首をかしげた。
「まだことの成り行きを見ないことには、何とも言えませんけど」
みんな心を引き締めて、あとは無言でテレビを見ていた。
キャスターが語るのは、やはり我われ日本人にとって最大の関心事、つまり日本がどれくらい巻き込まれるのかということだ。
もちろん今の憲法体制では、日本が直接参戦することはあり得ない。
でも、もし日本が一方的に他国から宣戦布告されて武力攻撃を受けたら、防衛戦はしないわけにはいかない。
そしてキャスターが強調したのは、今わが国にとってダブリートゥが同盟国であることだ。だから、ローシートゥやシニートゥが日本を仮想敵国とみなす可能性は十分にあるという。
ただでさえローシートゥはその西隣の国への武力侵攻に日本が反対して以来ここ数年、日本を非友好国と決めつけていた。
さらには半島の北の国も完全にローシートゥやシニートゥ側だ。南の国は日本と同様にダブリートゥと軍事同盟を結んでいるから、停戦中の半島での戦争も再開されるだろう。
いや、すでに北は南に弾道ミサイルを撃ち込み、それがきっかけですでに南北の軍事衝突は始まっているという。
いずれにせよ日本の至近距離の地域を舞台とした戦争であり、日本が全く巻き込まれないはずはないが、その程度がどれくらいになるかということは今の段階ではわからないというのが、キャスターの結論だった。
ところが、今の事態は戦争だけでなく、世界での大災害の情報はキャスターが戦争の解説をしている間もどんどん速報で入ってきた。
なんと驚いたことに、南極で巨大地震が発生したという。そもそも今まで南極で地震というのは聞いたことがなかったし、また南極のプレートは安定しているとも聞いていた。
とにかく地球全体が異常である。
「戦争なんかやっている場合ではないだろう」
拓也さんがつぶやいた。それは、二万年前の前世でも拓也さんが言った言葉だ。ただ、あの時は戦争をやっている最中に大災害が発生し始めた。だが今回は、大災害が多発している中で戦争を始めたのである。
テレビがCMになったので、俺たちはテレビの前から離れて、部屋の真ん中の座卓を囲んで座り直した。
「世間一般の人は何がなんだかわけが分からずにパニックになっているでしょうね」
杉本君が言うと、島村さんもうなずいた。
「でも僕たちは霊的な原因は分かっている。ですよね、拓也さん」
話を振られた拓也さんもうなずいた。
「皆さんはもうすでにお分かりですよね。今、神霊界は大変な状況になっている。なにしろ数百万年ぶりの政権交代ですから。仮にそれはスムーズにいったとしても、例の山武姫神の一派の存在が神霊界を乱している。そんな
「神霊界でも、戦争が始まっているというのですか?」
ピアノちゃんが聞いた。拓也さんはうなずいた。
「そう、神霊界が乱れれば地上では災害が起こるし、戦争があれば現界でも同じようになる。それに加えて、この現界での戦争は山武姫神の一派の仕業と言っても言い過ぎではないでしょう」
そのことは言われるまでもなく、今の俺たちなら皆理解している。
山武姫神の操る金毛九尾のキツネはこの現界を
そもそも戦争というものは政府と政府がやるものであって、それぞれの国に住む一般国民には関係のないものである。国境を越えた友情や愛情もあり、そういった個人同士のつながりは政府とは全く無関係なのである。
だが逆を言うと、国民同士がどんなに友好的で戦争なんかしたくないと思っていても戦争は起こる。
さらには、こんな科学兵器が進化した今の時代で戦争など起こしたら、人類にとって有益なことは何もないいうことは、為政者だってわかりきっているはずだ。
それなのに戦争が起こるというのは、これは目に見えない世界からの働きかけ以外の何ものでもない。それが集団霊章である。その原動力は何万年来の「恨み」と「憎しみ」だ。
婆様といえば、婆様と世界スメル協会最高幹部との握手によって、東西の霊界は融合した。その矢先に、それに逆行するような今回の戦争だから、それを考えてもやはり集団霊障で間違いない。
「こんな時に婆様がいてくれたら」
俺は言ってしまってから、拓也さんを見てしまったと思った。拓也さんは婆様の身内なのである。その身内の婆様の行方が知れないということで、拓也さんの焦りは俺たちの比ではないだろう。
だから、俺の今の発言はデリカシーを欠いていたと思ったのだ。だが拓也さんは穏やかに言った。
「婆様がいるとついつい僕たちは、婆様のそばにいれば何とかなる、婆様が何とかしてくれると思いがちですね。でもそれでは、僕たちの進歩向上はないのです。超太古、御神霊が直接人類を指導していた時代は、人類は御神霊をあまりにも頼り切っていて、なかなか発展しない。だから『神様』のご計画である物質による地上天国文明建設はいつまでたってもできないということになりますね。それで、僕たちを鍛えるために、婆様はいなくなった。あるいは御神霊が婆様を隠されたのかもしれません」
「そうです!」
激しく島村さんが言った。
「僕たちは今ここで手を拱いているわけにはいかない。行動を起こさないといけない」
「だからといって、俺たちが現界的な反戦運動などしても仕方ない。そのようなことは世間一般の人たちに任せて、僕たちは僕たちにしかできないことをやるべきでしょう」
杉本君が言う。みんなうなずいた。うなずいたけれども、じゃあ何をやるのかということになると、皆黙ってしまう。
「あのう」
その時、恐る恐る手を挙げたのはピアノちゃんだった。
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