6 天地かえらく
ニュースサイトから飛び込んできたニュースは、地中海のサントリニー島の大噴火だった。
そしてフィリピーニン沖で大規模海底地震があり、大津波が近隣諸国へ押し寄せているらしい。
さらにはダブリートゥ合衆国の西海岸でも、巨大地震が発生したとのことだ。
なんだか、世界中がおかしなことになっている。
だがそれらのニュースはごく簡潔に伝えられている程度だ。本来ならこれだけで報道界は大騒ぎなはずなのだが、今は直面している自国の首都の大災害の方が報道最大優先なのだろう。
しかも首都圏に集中している報道各社自体が、地震の被害甚大のようだ。
昼頃になると、ボランティア団体が炊き出しを始めてくれた。朝から何も食べていなかったので、これはありがたかった。
俺は一応それをいただいてから、余震も少し収まってきたようなので歩いてアパートに帰ってみることにした。別に洪水、土砂災害、高潮、津波等がこの地域で発生しているようでもないので避難指示は出ておらず、皆自分の判断で帰宅できるものは帰宅し始めていた。
だが、帰宅してみても建物の損傷が激しい場合はまたここに引き返してくることになるだろう。
幸い、俺の住むアパートは外観には何ら損傷を感じなかった。中に入ってみると靴をそのまま履いて入った方がいいようなまでに、家具が散乱していた。
とにかくそれらを少しずつ片付けながら、部屋の中へ入った。ここへ引っ越すときに親が持たせてくれたスリッパが、普段は全く使っていなかったけれどこの時ばかりは重宝した。
もともとそんなに物がなかった部屋なので、割とすぐにとりあえずの片付けはできた。
部屋の照明のスイッチをつけてみた。なんと、朝は停電していたけれど今は電器は復旧している。台所の流しで蛇口をひねってみても、水も出た
ライフラインが復旧しているのなら、また避難所になっている大学に戻る必要はなさそうだ。
さっそく俺はパソコンを立ち上げて、さらに情報を集めた。
Wi-Fiも問題ない。
すると、この近辺に比べてやはり都心部の被害状況はもっと深刻らしい。
今でも都心部の大部分では停電と断水が続いているようで、また大規模な火災も発生しているという。
この近辺では、俺の部屋の窓から見る限り、火災は発生していないようだ。
そして同時に、日本中の大惨事のニュースも飛び込んでくる。
まずは北海道の大震災である。
こちらは特に大都会はない地域ではあるけれど、それでも土砂災害などで何人か死傷者が出ているようだ。
九州は阿蘇や桜島など火山が多いけれど、開聞岳とは意表を突かれた。示された地図を見てふと気づいたのだが、その阿蘇と桜島そして開聞岳は、一本の直線の上に並んでいる。
浅間山となると、あの農園が心配だ。
でもそれよりも、いつものメンバーの方が気になって仕方がない。依然行方不明の婆様も……。
ネットは回復したけれどLINEはまだつながらないし、通話もできない状態だ。
とにかく夕方まだ何度も拓也さんはじめあちこちに電話したけれど、通じそうになかった。
回数も少なくなり規模は小さくなったとはいえ、余震もまだ続いている。
そのうちまた新たな情報が飛び込んできた。
兵庫県の宝塚や川西あたりを震源とする、最大震度6の内陸地震が発生したらしい。俺が生まれる前に神戸で大震災があったことは知っているけど、あの時のような海底が震源ではなく、今度は少し内陸だ。それでも、神戸に近く、神戸は二度目の罹災ということになる。やはりかなりの被害が出ているそうだ。
もうこうなったら尋常ではない。世間一般の人々はもう何がなんだかわけが分からない状態で、大パニックになっているようだ。
無理もない。史上まれに見る大災害なのだ。
でも俺は、いや拓也さんをはじめとする俺たちの仲間は、こうなることをある程度知らされていた。
でも、婆様は言った。人類が予想だにしなかったことが起こるかもしれないと。
地震や火山の噴火では、まだ予想できる範囲内だ。
となると、これからが本番……?
そんなことを考えていると、夜になってやっと実家の親からの電話が通じた。
「康生。大丈夫か。全然電話がつながらないから心配してたぞ」
父の声は震えていた。
「やっと今つながったのか」
「そっちはどうなんだ? ニュースではそっちはすごいことになってるようだけど」
「都心部はすごいようだね。このへんはたいしたことない」
「そうか、くれぐれも気をつけてな」
家族との通話は短く終わったけれど、自分が言った「都心部はすごいようだ」という言葉が反復された。
やはり拓也さんのアパートや悟君の家であるあのお寺はどうなっているのか……。
自宅からは固定電話でかけたのだろうから通じたけれど、拓也さんとはまだ通じない。
翌日、余震のたびに起こされて眠かったけれど、俺はとにかく悟君の寺に行ってみることにした。
バスは普通に来た。でも、道が混んでいる。駅まで通常の二倍以上の時間がかかった。
ところが駅に着いてみると、やはり電車は動いていなかった。
聞くと、都心部のターミナル駅まで代替バスは出ているという。だが乗り場にいた係員の話では、バスの絶対台数が不足していて乗れるのは何時になるかわからないし、乗ったところで道路はかなりの渋滞が見込まれ、都心部ターミナル駅までの所要時間も読めないという。
そこまで普通に電車なら二十五分、仮に通常の状態でバスで行ったとして、バスは電車よりも時間がかかるにしても一時間もあれば着くだろう。でも、今のこのような状況だ、下手したら二、三時間はかかるかもしれない。さらにそのターミナル駅から悟君の寺までは普通なら地下鉄で二十分。でもこれも、まず地下鉄が動いているとは思えないし、都心部の交通状況や路線バスの様子もわからない。
もし自転車ならばとネットのマップで測定してみると、この駅から寺の場所まで二時間と出た。自転車なら渋滞も関係ないだろう。
俺は一度アパートに戻って、自転車で行くことにした。
出発前に拓也さんに電話をしてみた。今度は呼び出し音は鳴った。電波は通じているようだ。だがすぐに留守番電話になった。
たしかに拓也さんのアパートから勤務する学校までは徒歩で行けるといっていたし、交通麻痺で出てこられない他の先生たちの分まで学校でいろいろ地震の事後処理に忙殺されているだろう。
そこで、悟君に電話してみた。本人が出た。
「そっちの様子はどう?」
「とりあえず、建物は無事。この近辺も大きな被害はないけど、タワーが倒れるんじゃないかって逃げ出した人も結構いますよ」
冗談なのかまじなのかよくわからない。
「今から行くよ」
「え? どうやって?」
「チャリで」
「それはうれしい。僕も誰かに来てほしいと思ってたんです。エーデルさんも今朝、ホテルの方から戻って来ました。島村さんが家が近いので来てくれていますけれど、親が心配するからそう長くはいられないって」
「わかった。すぐ向かう」
それからチャコに電話してみた。チャコも出た。
「こっちはだいじょうぶ」
そのひとことで安心した。そして、これから悟君の寺に向かう旨を話した。
「実は美貴と一緒に私たちも行こうと思ったんだけど、親に止められた」
やはり自宅住みは親の手前、外出など無理だろう。俺もそろそろ出発しないといけないし、生存確認できたのでいいにした。
あとは杉本君、そしてピアノちゃんたち二人と大翔たち二人だけれど、LINEを見てみるとLINEでの通信は可能になっていたし、また緊急時のための「安否確認」の赤いタブが出現していた。
俺はさっそく「無事」である旨を登録して友だち一覧を見ると、杉本君たち五人とも「無事」の緑色の文字がアイコンの下に入っていた。
俺はLINEグループにこれから悟君の寺に向かう旨を送信しておいた。
LINEでは災害速報も見ることができ、それでもう一度都心部の状況を確認してから俺は自転車に乗った。
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