7 古文献講義(3)

 すでに文献の本のこの後のページにも目は通してあるエーデルだ。

 そのあとには『神代七代』に続き、「皇統」の代が「皇統第○代」のような形で記載されていく。

 その第一代は「天日豊本葦牙気皇主身光大神天皇あめひとよもとあしかびきみぬしみひかりおおかみスメラミコト」とあった。


「ここからが人類の歴史で、ここまでが神様の世界の歴史なのですね」


 つぶやくようにエーデルは言った。

 最初から神々の名は出てくるもののそのすべてが実は人類の歴史として記載されている宮内家の「富士山古文献」とは大きく違うところだ。しかも、そこまでの話はに当たる部分は『古事記』には全くない。

 その時、穏やかな表情で、笑みも含めて婆様はエーデルを見た。そして言った。


「歴史とは過去に起こった出来事ですね。確かに今日拓也が話したところから人類の歴史が始まります。でもそれ以前は決して神々の世界の歴史・・ではないのですよ」


「歴史ではないのですか?」


「はい。歴史とは過去に起こったことの記録と今言いましたよね。でも、ここまでの神代の出来事は決して歴史ではありません。つまり過去に起こった出来事ではないということです。霊界も神界も時間を超越した世界です。ここに記されているのは過去の出来事ではなくて、今の時代も重なって起こり続けているのですよ」


 エーデルは少し首をかしげた。婆様はそれでも話を続けた。


「高次元の世界がこの世と同じ空間で重なっているのと同じで、時間が重なった記載と言えるでしょう。ですから、ここまでに記された神々の御名は決して歴史上の人物ではなく、厳として実在する、今も活動しておられる御神霊の方々の記録なんです」


「では、全部本当にあったことなのですか?」


「あった、というよりもあり続けていることですね。ただ、私がコンタクトしたエネルギー体のメッセージでは、たしかにこの古文献を研究せよとは出ましたけど、そのすべて百パーセントが真実だというわけではないとのことです」


「では、どの部分が違っているのですか?」


「それは私が言葉で説明できることではありません。でも、ほんの少しの嘘が混ざっていることで、真実の部分がますます際立つのですよ」


 それきり婆様はただほほ笑むだけで、一切口をはさまない存在に戻った。

 エーデルはまた、古文献のページをめくってみた。次々に記載されている皇統の御名、そこに気づいたのはその中に初めて「古事記」に出てきた神々の名を持つ天皇すめらみことがいたことだ。

 例えば皇統第四代になって初めて「天之御中主神身光天皇あめのみなかぬしのかみみひかりすめらみこと」と、『古事記』ではいちばん最初に記されていた神名が登場する。


「何人かの天皇てんのうのお名前は……」


「ちょっと待って」


 エーデルの言葉を、拓也が遮った。


「その二文字はここでは天皇てんのうと読まないで下さい。そうしたらこの国一国の元首でしかない現代の天皇陛下と同じことになってしまいます。この皇統の代々は『天皇スメラミコト』様で、全世界を統べ治めておられた方です」


『古事記』では高天原たかあまはらに最初に御出現になった神が、この地上の人間として記されていることになる。


「『古事記』の神々は、宮内さんの古文献と同じで、人間の大王だったということですか?」


「それは、人間であって人間ではなく神で、人間。つまりその魂は御神魂です。いわゆる現人神あらひとがみですね」


 そして皇統第十代に高皇産霊身光天津日嗣天皇たかみむすびみひかりあまつひつぎスメラミコト、十一代に

神産霊身光天津日嗣天日天皇かんむすびみひかりあまつひつぎあまひスメラミコト、十四代に

国之常立身光天津日嗣天日天皇くにのとこたちみひかりあまつひつぎあまひスメラミコト、そして二十一代に至ってようやく

伊弉那岐身光天津日嗣天日天皇いざなぎみひかりあまつひつぎあまひスメラミコトの名が見える。

 しかも『古事記』では「天之御中主の神」からそこまでが『天神七代』であり御神名が簡単に記されていただけなのに対し、こちらは地上の君主として代ごとにかなりの分量を割いてその事績が詳しく記されている。

 特に驚くべきなのは、何人かの「天皇スメラミコト」は万国巡行を称して世界各国をめぐっていたという記載があって、アメリカやオーストラリア、アジアのさまざまな場所の地名が出てくるのである。

 エーデルがそのことを指摘すると、拓也はにこやかに笑った。


「ですから、この『天皇スメラミコト』とは、いわば『世界大王』だったということですね。このころは世界は一つの国だったんですね」


『古事記』とは比べ物にならないスケールの大きさである。


「この『天皇スメラミコト』様たちは、どうやって世界を巡ったのでしょう? まさか今のような飛行機があったわけではないのに」


「それはですね」


 拓也は文献のページを探すようにめくって、ずっと後の方のページで一つの言葉を指さした。


「ここに『あめ浮船うきふね』とありますね、これが乗り物のようですけど、これは飛行船かあるいはUFOだった可能性もあります」


「そんな昔にそんな高度な科学文明があったのですか? ではなぜ、それが現代に引き継がれていないのでしょう?」


 また拓也は探すようにページをめくった。


「ここに、大天変地異の記載があります。『万国泥ノ海ニナル。五色人皆死ス。アアオトロシエ』と、実はここだけではないのです。地球上のすべての人々がほとんど滅亡しかけるくらいの大天変地異が何度も起こっているという記載が、この文献通して何カ所もあるんです。つまり、高度な科学文明が栄えては天変地異で滅び、生き残った人々がまた何千年もかけて文明を復興してという歴史の繰り返しだったのでしょう。『旧約聖書』にあるノアの箱舟の洪水も、その中の一つかもしれませんね」


 拓也はそれだけ言うと、ページをまた先ほど見ていたところに戻した。


「先ほどの『伊弉那岐天皇』の次の皇統に

天疎日向津比売身光天津日嗣天日天皇あまさかりひむかつひめみひかりあまつひつぎあまひスメラミコト』とありますよね。この方は女帝なんですけれども、この方が『古事記』でいうところの『天照大神』、つまり太陽の女神様です」


 数えて皇統二十二代なので、ずっと後の方になる。この女帝の事績はことさら記載が多かった。

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