4 送られてきた画像
翌日、さっそく俺はパソコンで画像処理したあの天使の写真を、ケルブというアカウントのあの天使に送った。
さらに翌日は帰省する予定の日なので、この日しか空いている日がない。
同人誌即売会の翌日である。これまでならそういう日は即売会の余韻に浸りながら、戦利品の整理などをしてたところだ。でも今回は即売会全体の余韻よりもたった一つの出会い、あの天使のレイヤーさんのことで頭がいっぱいだった。
なんとも不思議な出会いであったし、不思議な人だった。でも、「だった」と完了形にしてしまうのはまだ早い。あくまで現在進行形なのだ。
その天使に送る画像はSNSのDMに直接貼り付けた。枚数が多いとオンラインストレージにアップして、そのダウンロード用のURLをDMで伝えてダウンロードしてもらうという方法もあるけど、今回はそんなに枚数もないので直接貼り付けた。
――[FF外からいきなりのDM、失礼します。昨日の同人誌即売会で撮影させてもらった山下康生(こうせい)です]
あえてかっこルビ付きで本名を書いたのは、彼女が人違いしたのならその人と名前が似ていることを示したかったのだけど、名字が「コーセイ」と聞き間違えるそんな名字はちょっと思いつかない。
――[あの時の写真、そんなに枚数はないのでこちらに貼り付けます]
そうして確かに三枚だけの写真をパソコンから拾って張り付けた。
そして、ふとひらめいて聞いてしまった。
――[あの時手に持っていた楯のデザインは、何か由来があるのですか?]
実は昨日帰宅してすぐに、俺は画像に写った彼女が手にした楯と、自分がつけているバッジを見比べてみた。そして驚いたことにその両者のデザインは寸分も違わなかったのだ。
あのハンドパワーヒーリングの研究所の篠原さんは、これは古代ムー帝国の国章だと言っていた。そこで「ムー帝国の国章」、「ムーの国章」といろいろキーワードを変えて検索してみたけれどヒットしなかった。でも、「ムーの紋章」で画像検索したらずばりこの楯の紋章はヒットした。
もしかしたらケルブさんも何かの拍子でネットでこの文様を見て自分のコスプレの小道具に取り入れたのだろうか? もしそうならば、そのいきさつも知りたかった。
送信したものの、彼女がそれを読んだか、画像を受け取ったかはわからない。SNSのDMはLINEと違って「既読」の表示は出ないからだ。
ところが、驚くほどすぐに返信が来た。
[写真ありがとうございます。きっとすぐに連絡くれると思ってました。あの楯については、時が来たらお話しすることもあると思います。今はどこ住みですか?]
いきなり住んでいるところを聞かれた。驚いている間にも通知が来て、彼女は俺のアカウントをフォローしてきた。俺もすぐにフォロバし、そしてDMの返信をした。今通っている大学名とその大学のすぐそばのアパートの下宿していること、実家は栃木県だということなどを簡単に伝えた。
[よかったらLINEのID、教えてください。あ、私の名は智天使ケルブ、人間としての仮の名は藤村結衣。都内在住のLJK]
え? こんなにすぐに本名教える子って、ふつういないよなあ。俺が自分の本名を名乗ったからかな?
あの時彼女を撮影していた人は何人もいたはず。写真を送ってくる人もいるだろう。この子はその人たちみんなにこんな反応をしているのだろうか? あるいは俺だけ特別? もしかして逆ナンパ?
そんなことを妄想して一瞬胸がときめきかけたけれど、でもどうもそんなレベルの感じではない波動が伝わってくる。
少し考えてから、俺はLINEのIDを教えた。今まではパソコンでやり取りをしていたのだけれど、スマホがすぐに振動した。
[早速ありがとうございます]
そしてすぐに画像が来た。俺はその画像を見て「ああっ!」と声をあげてしまった。アパートでよかった。もし実家だったら、何事かと親が飛んでくるレベルの声だ。
そこには、俺がいつもつけていて、そしてチャコや幸野美貴さんも持っていた例の楯の紋章のバッジが写っていた。
[このバッジについても、時が来たらお話しします。いえ、お話ししなければならないのです。近いうちにまたお会いすることになると思います。これからよろしくお願いします、康生先輩]
なんだか衝撃が重なって、今度は声も出ない。今度は間違いなく俺の名前を文字で書いてあった。あの時も実は人違いではなく、はっきりと「康生先輩」と言ったのだろうか?
俺も、チャコも幸野さんも、このバッジをなぜ持っているのかはっきりわからず、気が付いたらあったみたいな感じだった。でもこの藤村さんという人(ケルブという天使?)は、もっと奥深くはっきりとこのバッジについて知っているのではないかという気がしてならなかった。
SNSの自己紹介を見た時はなんか強度の中二病のようだからと構えてしまっていたけれど、このバッジの画像が来たことは、そのようなことを忘れさせるような衝撃だった。
だが明日は、帰省予定の日。親にもそう連絡してある。
ケルブさんとのやり取りは今日はそこまでで、俺は同人誌即売会の戦利品の整理に加え帰省のための荷物の支度を始めなければならなかった。
(「第4部 帰省」につづく)
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