9 救霊
先生は再び歩き出したので、俺たちもそれに従った。そして歩きながら周りの原生林を見回して、先生はつぶやいた。
「助けを求める波動は多いね」
「先生。救ってあげますか?」
島村先輩が聞く。間髪を入れずに先生は先輩の方を振り向く。
「救ってあげるのではないよ。救わせていただくんだ」
先生の言葉の中には、少しだけ厳しさがあった。
そして先生は俺を見た。
「康生は初めてだから、言われたとおりにやってごらん。いわゆる浄化魔法だ」
もはやそれは、俺の中で中二病用語ではなくなっていた。
先生は両手を合わせ、そのままその両手を頭上に持っていき、ゆっくりと開いた。
「同じようにやってごらん」
俺は言われたとおりにする。
先生はゆっくりと左右の手を頭上で開く。
「腕の力、肩の力を抜いて。自然と手は開いていく。そしてあるところで自然と止まる。自分の意志は入れないように」
たしかに頭上で合わせた手は、意志の力を抜くと自然にゆっくりと開いていく。そして一メートルくらい開くと自然と止まる。
向かい合った両方の手のひらがピリピリと違和感を覚え、熱くなる。パワーが充満しているという感じだ。
目には見えないけれど、頭上で開いた左右の手のひらの間に巨大なエネルギーの玉が生じているようだ。
「それを球を投げるように空中に向かって投げるんだ」
そう言いながら先生が頭上の目に見えない球を投げたので、俺もそうしてみた。島村先輩も悟も、慣れた感じで既にそれを繰り返している。
その投げた先で何が起こったのか、実際は何も見えない。
ちょうど学校帰りの神社の隣の空き手でチャコが、そして合宿の時の城跡の山の上でみんながやっていたポーズを、今は俺もやっている。
そうして、十回ほどは同じ動作を繰り返しただろうか。
「周りを見てごらん」
先生に言われて、俺は周りの密林を見る。風景は変わっていない。昼間なのに鬱蒼と茂る木々に陽光も遮られて薄暗い感じだ。
でも、さっきまでのようなどんよりとした感じはなく、物理的明るさは変わらないにしても感覚的にすごく明るくなった気がする。あの寒気ももう感じない。
「本当にこれで除霊できたんですか?」
俺は何気につぶやいたのだが先生と島村先輩がほぼ同時に、笑顔の中でも厳しさを含んで言った。
「「これは除霊じゃないよ」」
思わずハモってしまった二人は顔を見合わせて、また笑っている。
「これは除霊でもお祓いでもないんだ。地縛霊や浮遊霊を浄化させていわゆる成仏させるんだ。だから除霊じゃなくて救霊だね」
あらためて島村先輩がそう言った。
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