9 霊的因縁
朝食を終えたころ、また管理人さんが炊事場に来た。
「生存者がいたそうです」
「え?」
みんな、少しだけ笑顔を増した。ピアノがつぶやいた。
「それはよかった」
「でも、生存者は二名だけ。あとの方たちは……」
管理人さんは軽く顔を横に振った。
「乗組員は全部で九人とありましたから、あとの七人の方は」
青木先生が悲痛な顔をしてみせる。
「即死だったそうです。現場は目も当てられないような地獄で、大惨事だったようですな」
それだけ言うと、管理人さんはまた行ってしまった。
俺たちはテントの撤去も終え、とりあえず集会所に集まった。そして何となく固まって畳の上に座った。
「亡くなったのは七人。そういえば昨日の夜」
思いだしたように島村先輩が言う。
「先生を含めてここにいる十一人のうち、先生と僕と悟、そしてチャコの四人は何ともなかった。たおれたピアノを含めて体の不調を訴えたのはちょうど七人だったな」
「あ、そういえば」
悟が顔を上げる。
「九人のうち二人が助かって、七人が亡くなった。どこかで聞いたような話だと思っていたけど」
「そう。荒神山のあの祠の脇の石仏」
美貴も言葉を重ねた。
落城の際に城内に立て籠もった城主の一族が九人、そのうち城主を含む七人は惨殺されたけれど二人だけ殺されずに済んだという話だった。
そしてその殺された七人を祀る石仏が七体……。
「あの事件と今回のヘリの墜落、何か関係があるんでしょうか」
島村先輩が青木先生に聞く。
そう、「一切が必然で偶然というものはない」と、島村先輩は言っていた。
だけど、青木先生は真顔でどこか遠くを見つめているようだった。
「もちろんあることはあるだろう」
美貴が顔を上げる。
「まさか亡くなったヘリの乗員は七人の城主一族を殺した敵の転生で、その時のカルマで事故に遭ったとか?」
「いや」
青木先生は首を振った。
「そんな単純な話ではないと思う。今回の事故は戦国時代などという新しい時代のことではなくもっともっと大昔の、超古代文明の頃まで話は遡るんじゃないかな」
そういえばこの集団は一応「超古代文明研究会」などという名称だという、俺の意識の中では半分忘れ炊けていたことを俺は思い出していた。
青木先生は話を続ける。
「昨日、ヘリの事故で亡くなった方と竹本の体と口を鏡にして話をしたところ、あの方たちの魂はただの人霊ではなく、人間として生まれる前はとてもきれいなところにいたと言っていた。つまりあの方々の魂は我われと同様、神界から降って来たようだ」
え? と、俺は呆気にとられた。
「そして使命を持って降って来たのに、肉体にいる間は忘れていたとも言っていたよね。ようやく使命を思い出して、これからはその任務に励むとも」
これが島村先輩とか悟とかが言うならまたいつもの中二病が始まったで納得してしまうだろう。
だけれども、青木先生の口からその言葉が出た。
しかも昨日の夜のあの光景を重ねると、それを体験した後の今の俺には青木先生までが中二病なのだとはとても思えなくなってきている。
でもやはり、俺のどこかで受け入れられないでいた。
「あの祠は小さな朽ち果てたような祠だったけれど、あちらの世界では巨大な黄金神殿だった。私の目にはそう見えた」
話している青木先生は大まじめだ。
「でも、その神殿はさらに巨大な岩屋に封じ込められていたんだ」
みんな神妙にうなずいて聞いているのに、話がよく分からない俺だけがアウェー感を感じている。
「あの祠に祭られていた御神霊は火の系統の御神霊で、祭られていたというよりも封印されていたという感じだった。そして藤村が」
「ケルブですぅ」
ケルブ本人がまた口を尖らせる。
「うん、まあ、その、ケルブが抱き参らせて浄化したあの妖魔のボス的存在は、その封印を守っていた御神霊だな。当然のこと水の系統だ」
話が分からない。
「今や封印は解かれた。そのきっかけがあのヘリの乗員だった方々の御神魂が肉体から解き放たれ、そして自らの使命に覚醒した」
もしかしてこれって、この部で共同製作しようとしているラノベかアニメのストーリーの打ち合わせをしているのではないかとさえ思ってしまう。
「具体的にはどういうことなのかは、僕にも分からない。今後の世界にこのことがどのような影響を及ぼすのかもね」
俺にはもっと何もかもがわからない。
「ただ一つ言えるのは」
皆が一斉に息をのんで、青木先生を凝視する。
「あの祠は超太古の
天岩戸って、神話に出てくるあれ?
「待って、じゃあ、なんで」
俺の疑問をよそに、ピアノが訴えるように青木先生に言う。
「なんであの人たちの魂は、ほとんど事故の直後ともいえる時間に私たちのところに来たんですか?」
「それな」
悟も同調する。
「僕たち、たまたまあの城跡の祠のところを通り過ぎただけですよねえ。しかもあの時はまだ事故も起こる前だし。事故の時は俺たちはもうここにいたし、関係ないじゃないですか」
「いや、一切が……」
何か言いかけた島村先輩を制して、先生はゆっくりと言った。
「それはここにいるメンバーが火の属性で、光の眷属だからだろう」
かつて島村先輩もそんなことを言っていた。でもあの時は、ただの中二病的妄想で島村先輩が思い付きで言っているのだと俺は聞き流していた。
だけども先生の口から同じことを聞くと、重みが増す。
「すべては霊的な因縁の糸で
そういえば……昨日の夜、ピアノの口から出た言葉は「自分たちは何かの力でここに引っ張ってこられた」と言っていた。
「もうこんな時間か」
島村先輩が時計を見る。
昼前にはここを出なくてはいけない決まりだ。
まだテントを撤去した後の資材はそのままだし、それとか調理器具とかを管理人さんに返却しなければいけない。
「じゃあ、とにかく帰る準備をしようか」
先生が立ち上がる前に、島村先輩が青木先生に目で合図した。
そしてチャコに言う。
「一年生と康ちゃんにバッジ」
「ああ、そうですよね」
チャコは立って行って、自分のリュックから白い布の小さな袋を持って戻ってきた。
その袋からチャコが取り出したのは、二センチくらいの小さなバッジだった。
「え? 何それ?」
チャコの手の上をのぞきこんだ俺は、思わず声に出して言ってしまった。チャコの手の上のバッジは、どうにも奇妙な形をしていたのだった。
(「第4部 回復魔法と浄化魔法」につづく)
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