8 大惨事
朝の日がテントの中まで射して、俺は目覚めた。
昨日のあの豪雨にもかかわらずテントの中は無事だったので、俺たちは各自のテントに戻って寝た。
一日の目まぐるしい出来事が次々と頭の中に浮かび、そして最後のあのショッキングな体験が鮮明によみがえってきたりしてなかなか寝付けなかったけれど、まる一日のハイキングでの疲れがそれに勝ったようだ。
俺は起きだして、テントの外に出て、朝の新鮮な空気を吸い込んだ。
やはり今日は別の一日なのだ。
空はよく晴れていた。今はまだしのぎやすいが、今日も暑くなりそうだ。もうこんな時間から蝉の声が響いている。
ふと気づくと、女子の方のテントの中が何やら騒がしかった。誰かが、いや複数の女子が電話で話している。電話が切れたあと少ししてから、また騒ぎだす。
「え? ちょ、まじこれ?」
「待って。なんかめっちゃすごいことになってる」
電話を切った後と思われる声が聞こえてくる。
俺は気になって、テントのそばまで行ってみた。すると、テントから飛び出してきたのは美穂だった。
「あ、山下先輩! ニュース見てください。すごいことになってます」
俺は一度テントに戻り、自分のスマホを探した。同じテントで寝ていた新司と大翔も起きだした。
その時、大翔のスマホの着信音が鳴った。
「あ、母さん? どうした? こんな朝早く……え? 事故? 墜落?……このそば?……いや、俺たちは何ともないよ。え。なに?……昨日の夕方?……このキャンプ場は何もなかったけど」
そんなやり取りを横目に、俺はいつも見ているSNSのトレンドのタブにスライドした。
そしていくつかあるニュースのトレンドの中から「ヘリ、山中に墜落」というのを開いてみた。
「やべ」
昨日の夜七時ごろ、県の防災航空隊のヘリが山中に墜落とある。
「まじかよ」
その墜落地点の地名を見て、俺は全身が固まった。
「
もう一度テントから出ると、全員がテントの外に出ていた。
青木先生も出てきた。
「先生」
一年生女子が青木先生の方に駆けていく。
「家から電話があって、昨日の夜にヘリコプターがこの近くに墜落したってニュースで言っていたけど大丈夫かって聞かれたんです」
「それでニュース見てみたら」
「昨日の城跡に落ちたってことだよな。僕も今、スマホのニュースで見た」
「皆さん、えらいことですよ」
管理人のおじさんも、ゆっくりとこっちへ歩いて来た。
「ヘリコプターがこの近くに落ちたそうですよ」
「はい。今スマホで見ました」
青木先生が、説明した。
「私は今一旦自宅に戻ってましたからテレビで見てきましたけど、皆さんももうご存じだったんですね。今はまあ、スマホですぐにニュースも見られますからね」
「そうですね」
先生はまた自分のスマホをのぞいていた。
俺なんかSNSのニュース欄見てもあまり詳しく出ていないし、TLはアニメやアイドルの話題ばかり流れてくる。フォロワーさんがその関係の人たちばかりだからしょうがない。
でも、さすが先生、ちゃんとニュースアプリ入れてるようだ。
その記事を、先生がゆっくりと読み上げる。
「昨日夜七時ごろ、沢に転落した女性救助のため現地に向かった県消防防災航空隊のヘリコプターが救助活動を終えて帰還中、荒神山上空に差し掛かった時点で消息を絶った。夜間のため捜索は難航し、本日未明に墜落を確認、現在現地調査と救助中。天候の急変で雲の中に入り、視界が遮られたことによるパイロットの空間識失調が原因と見られている」
その時、頭上をけたたましく何機ものヘリコプターが南へと向かった。その方角が荒神山だ。
そしてキャンプ場のすぐわきの道、昨日俺たちがハイキングしたあの細い道をパトカーがサイレンを鳴らして通っていく音もひっきりなしに聞こえはじめた。
「あのう、乗ってた方は?」
チャコが聞く。青木先生はまたスマホの画面を見る。
「県の防災航空隊の隊員が五名、消防本部の職員が四名の合計九名が乗っていたそうだけど、今、その安否を調査中なのだろう」
「あの人たち、もう亡くなってる」
ピアノがぽつんと言った。
「昨日の夜、私のところに来たあの人霊は」
「そうだな」
青木先生がうなずく。
「事故で亡くなった方だなとは思っていたけれど、まさか亡くなってすぐだったなんてあの時は思っていなかったよ」
そんな会話を聞いているうちに俺の中で昨日の夜の出来事がよみがえり、また寒気がしてきた。
「そういえば」
美貴が顔を上げた。
「事故は昨日の夜七時って言ってましたっけ?」
「ああ」
「七時っていえばちょうど、あの突然の豪雨の時間ですよね」
たしかにそうだ。
「あの豪雨がなかったら私たち外でキャンプファイヤーやってたんだからヘリが落ちて行くところも目撃して、すぐに通報とかできたんじゃ」
「あのなあ」
悟が口を挟む。
「そもそもヘリが落ちたのがあの豪雨のせいなんだろ?」
「あ、そうか」
「やっぱ雷?とか思ったあの音がそうだったんだ」
チャコに言われて、皆がはっとした顔をした。
「とにかく俺たちがここで心配しててもしょうがないんだから、飯にしよう」
島村先輩が、とりあえずそう言った。
いろいろと気になることはあるけれど、飯は食わないわけにはいかない。
俺たちは昨日と同じ要領で火をおこし、飯盒で炊き出しを始めた。
さすがに昨日のようにわちゃわちゃとはしゃぎながらというわけにはいかなかった。
口数は少なく、黙々と作業をしていたが、それでも暗くなることはなく明るい笑顔は絶やさない不思議な集団だった。
そういえばいつの時でもこのメンバーはみんないつもニコニコ、おひさまのように明るい集団なのだ。
その本質はこんな時でも失われなかった。
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