6 突然の豪雨

 こうしてうだうだと時間を過ごし、夕刻を迎えていた。


 昨日のバーベキューや今日の昼間のハイキングのように何かをして楽しむというのもキャンプの醍醐味だけど、大自然の中で何もしないでボーっとして時間を過ごすというのもまた捨てがたいものだ。


 だけれども、そんな時もじっとしていないで、グランドっぽくなっている広場で走り回って遊んでいるメンバーもいる。

 まあ、人それぞれだからいいんだけど……。


「みんな! そろそろ夕食の準備!」


 そんな遊んでいる連中にも、集会室で静かに横になってくつろいでいるメンバーにも、美貴の下知が飛ぶ。

 みんなぞろぞろと炊事場に集まってきた。


 シャワーはこの時間を使って、交代にみんな済ませていた。

 そろそろ日も西に傾きつつある時間だ。


 夕食はキャンプの定番、カレーだった。


 まずは薪割りと火起こしのチーム、そして飯盒炊爨とカレーの材料の料理のチームとに分かれた。

 前者は男子が中心で後者は女子だったけど、きれいに分かれたわけではなかった。

 天使ケルブとチャコは炊きつけの方に来たし、一年生の新司と大翔は調理の方に混ざっていた。

 俺も調理だ。

 親父と二人暮らしの父子家庭で、毎日の食事は俺の係りだから料理には自信がある……といっても、ほかの男子よりはという程度だが。


 そして日没前にカレーは完成し、みんなでまたわちゃわちゃしながら食べた、

 カレーだとご飯がちょっとくらい焦げてても芯があってもごまかせるから、キャンプの定番なのかなとも思う。


 片付けが終わると、いよいよキャンプファイヤーの準備だ。

 急がないと点火前に暗くなってしまう。


 太い木で枠を組み、細い枝や着火用の新聞紙などをその枠組みの中に入れていく。

 こうして何とか形を作って、あとは点火ということになった。


 もう日は沈んでいるけど、完全に暗くなるまではまだ少し時間がありそうだった。


 ここで何が始まるのか、期待大だ。

 いわゆる形式通りの火の神に扮する人がセリフを言ってたいまつで火をつけるのかなとも思う。

 でもこのメンバーじゃフォークダンスって感じでもないので火を囲んで語り合うそのパターンかなと、とにかく俺は始まるのを楽しみにしていた。


「あれ?」


 悟が自分の頬に手を当てて、空を見上げた。


「やべえ」


 つられて空を見上げたほかのメンバーも、皆顔をしかめている。


「まじかよ」


 俺も思わず言った。

 最初は頬にぽつん、ぽつんという感じだったけれど、その雨つぶがだんだんと増えてくる。


 さっきまであんな晴れていたのに、空は完全に曇っていた。

 そういえば気になる入道雲がそそり立っているのは知っていたけれど、まさかこんなに突然降ってくるとは思わなかった。


 あっという間に雨は激しい豪雨となった。


 真っ先に美穂がクンちゃんの鳥かごを集会所へと移した。


 そして自分たちも慌てて集会所へと避難する。

 身一つで逃げるのがやっとで、すでに組みあがって点火を待つだけになっていたキャンプファイヤーの木組みは無情にも豪雨の中。俺たちはただ虚しくそれを見つめていることしかできなかった。


 テントの中の荷物は濡れて困るものはないし、衣類は干せば乾く。

 懐中電灯が気になるけど、テントがしっかり雨を防いでくれるのを信頼するしかない。

 濡らしてはいけないスマホは、皆それぞれのポケットにあった。


「ああ、これじゃあ、キャンプファイヤーは中止だな」


 島村先輩が、いちいち言わなくてもわかりきっていることを言う。


「わあ、すごいことになってる」


 スマホをのぞいていた悟が言う。雨雲レーダーのアプリでも見ているのだろう。

 俺も見てみた。

 ものすごく厚い雨雲がこのあたりを覆って、降水量も半端ないことをアプリの地図の色が示していた。


「でも、雨雲はすぐに行ってしまうけど」


「だけどあな、たとえ豪雨が一時的なものですぐにやんだとしても、薪や木組みがすっかりびしょぬれだから点火は無理だろう」


 島村先輩の言う通りだ。


 俺たちは集会所の中に入り、畳の上で丸くなって座った。

 俺たちのこの人数にしては広すぎる集会所だ。


 外は暗かった。

 日没から時間がたったのと空が曇ったのと、その両方のせいだろう。

 本当だったら宵闇の中、キャンプファイヤーの炎が燃え上がっていたはずの時間だ。


 その時、集会所の屋根にたたきつける豪雨の音に交じって外で爆音が響いた。このキャンプ場の中ではなく、ずっと遠くからのようだ。


「雷!」


 チャコが叫ぶ。


「雷かなあ?」


 島村先輩が首を傾げた通り、それはゴロゴロゴロと長く響く音ではなく、何かが爆発したような単発の音だった。

 音の前のピカッと光る光も、誰も見ていない。

 でもその音は一回こっきりだったので、その後は誰も気にすることもなかった。


 結局できなくなったキャンプファイヤーの代わりに、この集会所で火はないけれど丸くなって予定通り語り合うことになった。

 だが、どうにも感じが出ない。


 結局はシビアな話になることもなく、いつも通りの雑談が続いていた。


 そんなとき不意に、チャコが不調を訴えた。


「なんか、頭がふらふらする」


「私も」


 美貴もすぐに続く。


 そうしたらみんな口々に、寒気がする、震えが止まらない。意識が遠のくなど何かしらの体の不調を訴えはじめた。


 そういえば俺も、なんだかめまいがする。


 そして、一年生のピアノこと竹本ひろみが座ったまま体が横に傾いたかと思うと、ばたっと畳の上に横ざまに倒れた。

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