『火星短信』 15


  『火星短信』 2400-102.29


 本誌の取材によれば、現在は限定観光地にもなっている、いわゆる、『第1人面岩』付近を、たまたま飛んでいた火星タクシー運転手のCさんが、あまり見掛けない、重装備の軍用ボートが飛んでいるのを見たが、それは、そのまま、突如消えてしまったのだという。


 タクシー用レーダーからも、まるで、墜落したように消えたという。


 もちろん、『第1人面岩』自体は、自然の造形だが、地下に基地などの施設を、地球政府が作っているのではないか、という、噂は、古くからあった。


 なお、『第12人面岩』は、『第1人面岩』をモデルに作られた、イミテーションである。


 もちろん、地球の政府軍は、一般の旅行が部分的ながら、許可されるまで、長期に渡ってこのあたりを封鎖して調査していたことは、分かっている。


 政府は、地質調査などを行ったことは、認めている。


 しかし、地下に基地があるのでは、という話については、『オカルト的だ』として、一笑にふしている。


 今回のタクシーの事例に関しても、詳細はわからないが、現場まで、かなりな距離があったことも事実ながら、地球政府が、なにものかと交渉しているらしいという見方もある。


 運転手の証言から、目撃された物体に相当する地球軍の軍用ボートについては、評論家で軍の設備に詳しい、ヤバ・シン氏によれば、まず『ブラック・マーズΘ』と呼ばれる火星用シェルターボートに違いないだろうという。


 極めて頑丈で、どのような地形にも対応できる能力があり、スピードもかなり出せる。核の直撃にも耐えるとされる。さらに、相当の攻撃能力も、持っているという。


 また、これは、タルレジャ王国製であると言われるとのこと。


 いずれにしても、政府は、もはや、基本的秘密主義は棄てて、可能な限りの情報公開を行うべきである。


 眼下の感染状況も感染源も、いまだに、はっきりしない。


 これでは、住民の不安は解消できない。


 



    ・・・・・・・・・・


      秘密通信

 


 火星のリリカさま発


     第1王女さまあて



 『いつも、お世話になっております。


 ありがとうございます。感謝申し上げます。


  わたくしたちは、不死とは言え、すでに第一線からは退いており、現在の火星地下政府は、なかなか、言うことを聞きません。


 『ξ』総裁は、あまりに、反地球主義に傾いております。


 あなたさまは、常に絶対の女王さまであり、現在まで、その立場を維持しています。


 たまには、乗り出してください。


 このままでは、再び、火星と地球の戦争になりかねません。


        信頼を込めて。



 


    ・・・・・・・・・・・



       秘密通信



 第1王女発



      火星のリリカさまあて




『いつも、お世話になります。


 感謝申し上げます。


 わたくしは、もはや、戦争には、関わりたくはございません。


 あなたさまに、おまかせいたします。


 ただ、必要なグッズがあれば、お作りいたします。


 惑星粉砕爆弾も、できます。


 お値段は、3500兆ドリムです。


 納期は、発注から一月です。


 半分は、前払いでお願いいたします。

 

 この際、一気に行きませんか?


 長年の悩みは、夢の中に、消えますわよ。


 なお、王国は、いつものように、宇宙に避難いたします。


       信頼できない王女より



      ・・・・・・・

  



 


 


 

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