『火星短信』 13
『タルレジャ王国のオカルト系雑誌』
『月刊 ニュー ξ (クサイ) 』 355号
巻頭課題
『タルレジャ王国人の免疫力について』
本誌編集次長
新型のウィルスによる感染が、再び、地球中に広まり、最新ワクチンの登場により、いくらかの改善が見られる一方、それとは別のウィルスによる感染が、火星の居住者を、絶滅の危機にさらしているのではないか、との憶測が飛び交うなか、一躍注目されているのが、タルレジャ王国人の免疫力である。
これは、つい先日までは、北島は別として、本誌が扱うこと以外には、めったに表舞台には上がらない、まさに、オカルト的な、または、宗教的な俗説にすぎなかったのだ。
にも拘らず、王国の住民の感染数が、世界的に見て、圧倒的に少ないのは、事実である。
それが、今回の原稿締め切りぎりぎりになって、王立大学の南島本部と、北島本部の共同研究という、前代未聞の論文が発表されたことにより、急速な関心を呼んでいるのだ。
タルレジャ王国人は、確かに、強い免疫力があるとは、認められてきたが、その科学的根拠は、かなり、曖昧だった。
それは、宗教的には、古代の、火星からやってきた、伝説的な教母さまと、第一の巫女さまのお力によって、強靭な免疫力が与えられたことに、なっている。(ただし、ここでは敢えて扱わないが、古代に創られたはずの経典に、はっきり、そう書かれているのは、確かに奇跡的だ。一般的には、どこかで、書き直されたと言われるが、王立図書館にある、西暦3年版の経典にも、まさに、そのように書かれていて、改竄の跡はまったく、見られない。)
これは、北島では、いまだに、宗教的な真実であるが、南島の住民は、言うかどうかは別にして、免疫力が高いのは事実だが、宗教の力では無いだろうと、考えている。
これは、王国の住民ならば常識だが、国際的には、まさに、オカルトの範囲内にすぎないであろう。
ところが、今回の論文は、これは、科学的に見ても、十分あり得ると、主張しているのだ。
従来、王国の南島人は、おそらくは、王国で栽培される野菜類あたりに、その理由があるだろうと、なんとなくだが、考えていた。
そうして、王国の国土を為す土壌に、その秘密があると、さしたる理由はなしに、思ってきていた。
あるいは、そのようなことは、幻想に過ぎない。せいぜい、街が良く整備され、健康管理が良いという程度だろう。
そう、考えてきたのだと、思われる。
ちなみに、南島の学校で、そうしたことが、正式に教えられることは、過去も、現在も、ない。学校用の教科書や、参考書にも、そのように書かれたことは、調べられる限り、まったく、見当たらない。
もちろん、北島では、『タルレジャ経典』が全てであるから、これは、まさに常識の範囲内だ。
しかし、この論文が主張しているのは、そうではないのである。
つづく
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『タルレジャ新報新聞の記事』
王立大学南島本部の人事について。
健康歴史科学学科 准教授、マジラル・タルレジャ氏は、王立大学北島本部、人事部課長に転任となった。
氏は、先に公表された、王国人の免疫力に関する論文が、あまりに擬似科学的だとして、学内で、かなり批判されていた。
今回の人事は、それに、関連することではない、と、同大学の広報担当は述べているが、大方の見方としては、今回の論文が、氏と対立的な、革新派の南島本部本部長の許可なく発表されたらしく、その逆鱗に触れたのだろうと、受け止められている。
なお、同氏は、名前からも分かるように、王族に列なる家系である。
南島本部長は、王室廃止論者として、知られているが、そのこと自体が、王国の学問の自由を、象徴しているとされる。
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